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6話 エルフと決闘1【シリウス視点】

 俺たちは、エルフの里へと向かった。

 その道すがら、エルダと雑談をする。

 他のエルフたちは、俺に近づかないようにしているが、エルダだけは違っていた。

 まあ、ミミが常に俺のそばにいるので、ミミから離れるわけにはいかなという事情もありそうだ。

 しかし、ゴブリンである俺を、毛嫌いしてもいないようだ。

 話しかければ、ちゃんとこたえてくれる。

 エルダは族長の娘と言っていたし、姿勢良く歩く姿は、生まれの良さを感じさせる。

 エルフの特権階級であるのに、外見が醜い自分に礼儀を持って接するあたり、人間ができている。


「黒龍がどこに行ったか、そなたは知っているか?

 黒龍はミミを追っていたはずなのだが」


 とエルダは聞いてきた。

 黒龍は倒したと言っても信じてはもらえなそうだったので、とりあえず俺は「知らない」と答えた。


「そうか」とエルダは言った。


 表情は読み取れないが、事態は深刻そうだ。

 何しろあの黒龍に襲われたのだ。

 エルフの里の存亡の危機ですらある。

 黒龍に襲われる心配はもうないと伝えてやりたいが、なかなかうまいストーリーが見つからない。


 エルダはどうやら、迷子になったミミを俺が助けたと考えているようだ。

 黒龍に襲われているところをゴブリンが助けたとは、想像すらしていない。


「ミミはどうして、黒龍の追われているんだ?」と俺は、疑問に思ったことを聞いた。


「ミミには特別な力がある。

 エルフ族にとって重要な存在なんだ。

 ドラゴンはそのことを知っているので、ミミを食べようとしているのだ。

 食べてその力を手に入れようとしている」


 そういえばエルダ以外のエルフは、ミミのことを様付けで呼んでいたな。

 エルダは話をつづける。


「エルフの里には本来ドラゴンは近づくことはできない。

 強力な結界が張ってあるからな。

 しかしどうやら結界に穴が空いてしまったらしい。

 今、全力でその修復をしているところだ。

 ミミが無事で本当に良かった。

 実はミミは私の妹でもあるのだ。唯一の肉親だ」


 エルダはミミの頭に手を置く。

 そして、気持ちを直接さわっているかのように、頭をなでる。

 ミミはクスリと笑う。

 俺にも妹と弟がいた。

 弟は賢者の時ではなく、転生後のゴブリンの兄弟だ。

 だから、兄弟の絆のようなものはわかる。

 妹も弟も、兄である俺を慕っていた。

 彼女らは俺を愛してくれたし、俺も愛していた。

 弟のゴブリンは洞窟から旅立つ時もついてきたがった。

 弟の戦闘スキルは光るものがあったが、レベル1のゴブリンを連れて行くわけにはいかなかった。

 元気でやっているだろうか。

 できれば、冒険者などに遭遇することなく、平穏に暮らして欲しい。

 人間であった時には考えられないことだったが、俺はゴブリンの幸せを願った。

 ゴブリンを見つけたら、討伐する。

 それは冒険者として当然の行為だった。

 ただ、ゴブリンとして生活していた記憶でわかったことだが、ゴブリンは人間に害を与えるようなことを基本的にしない。

 人間たちがゴブリンの生活空間に侵入してくるから、自衛のために攻撃するのだ。

 森や洞窟はゴブリンたちの住処である。

 そこに人間が入ってくるのがいけないのである。

 もしもこの復讐が終わったら、ゴブリンたちの国を作ってやるのもいいかもしれない。

 弟も喜びそうだ。


 10分ほど歩いただろうか、エルフの里が見えてきた。

 里の中心には大きな木が立っている。

 それは山のように高かった。

 空に届くような大きさで、上の方は霞んで見える。

 おそらくあれが世界樹だろう。

 世界樹を真ん中に木々が茂り、それに寄りそう形で、家が建っている。

 生えている木をそのまま柱として用いたり、木自体を部屋の一部としたりしている。

 森を愛するエルフらしく、木を傷つけることなく、そのまま家に利用している。

 住居と森が()()()融合していた。

 里の入り口の両脇に。2本の柱がたっていた。

 複雑な術式が何層にもわたって組みこまれている。

 さすがは魔術の進んだエルフ族である。

 人間界ではまず目にすることのできない高度な技術が使われいている。

 俺は柱に見とれながら、里の中へと入る。

 数歩進んだとことろで、他のエルフたちが立ち止まっていることに気がつく。

 美男美女が、大きく口を広げて固まっている。

 合唱部が発声練習をしていたら顎が外れてしまった、そんな集団のようだ。

 ちょっと滑稽だ。


「なぜ、進むことができる。高度な魔力操作を体内でおこなっていないとはじかれるはずだ」


 俺が里に行くことを反対した、先ほどの青年エルフが叫ぶ。

 なるほど、入り口にあった柱に書かれていた術式は、そのためのものだったのか。

 どうやらこの入り口は、本来は人を通さない作りになっているようだ。

 体に流れる魔力をうまく操作しないと、柱に組みこまれている術式に弾かれてしまう。

 俺は賢者であったので、魔力操作は得意だ。

 通れて当然ではあるが、エルフたちにとっては驚きだろう。


「ゴブリンを里に入れて良いわけがない。ふざけるな。里が汚れる」

 青年エルフは殺気すら含んで激怒している。

 せっかくのイケメンが、怒りでゆがんでいる。

 その様子に慌てて、エルダが青年をなだめる。


「待て、ロジン。彼はミミを助けてくれた恩人だ」


 しかしロジンと呼ばれた青年の興奮はおさまりそうにない。


「このゴブリンはここで駆除する」と、ロジンは例の世界樹の杖を構えた。


 エルダ以外のエルフは静観をきめている。

 態度に出していないが、ゴブリンを里に入れることが嫌なのだろう。

 里まで来てほしいと頼まれてついてきて、到着してみたら駆除である。

 さすがに俺も腹が立ってくる。

 ゴブリン差別がすぎる。

 俺をかばうように前に立つエルダから離れ、ロジンの前に進みでる。


「俺を駆除すると言ったな。相手になってやるよ」


 そして俺はこの状況を利用する。


「その代わり、俺が勝ったらその世界樹の杖をもらうぞ」

「ああ、いいぞ」とロジンは薄笑いを浮かべて即答した。


 ちょろい。ゴブリンに負けることなど、考えていないのだろう。

 エルフたちに、ゴブリンの力を見せてやろう。

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