51話 神に近い存在3
シリウスは完全に油断していた。
火の鳥の炎はたしかに驚異だ。
しかし、その攻撃は簡単にかわすことができた。
自身はもちろんだが、エルダも炎にあたることはなさそうだった。
こちらの攻撃も効いていなようだったが、打開策はいつか見つかるだろうと思えた。
シリウスは強くなった。あの魔将に匹敵するほどに。
そこにおごりがあった。
いつかなんて、あてにならないものを戦闘中に期待して、無策に攻撃をつづけていた。
その行為が、エルダの左足を失わせた。
それはシリウスのミスで起きたことだった。
火の鳥の炎は厄介だが、目標を達成するための対処方法はあったのだ。
しかし現段階の力でなんとかしようとしてしまった。
反則的な力を手に入れる前に、戦闘を楽しんでおきたいという思いもあったのかもしれない。
優秀な魔術師であればあるほど、実戦を楽しむ。
これまで培ってきた知識と技術を、実験でなく実際に試せる場だ。高揚感は必然的に生まれる。
その知識と技術の習得に費やした努力と苦労が多いほどに、気持ちもは高ぶる。
シリウスは戦闘を楽しみすぎてしまった。
シリウスは振り返り、エルダの姿を見る。
切断された左足を見つめる。
火の鳥を攻略などする必要はなかった。
シリウスの目的は魔将ラージの遺体である。
遺体に継承のスキルさえ使えればよいのだ。
シリウスは右手を上空にかざす。
上空、雲の高さにもいたる場所に、風の刃を生成していく。
その数は100万を超える。
そして、できあがった風の刃を竜巻のように回転させていく。
回転の中心に風の刃を集めていく。
さらに回転速度を上げる。
そうしてできた風の刃の竜巻を、上空から落下させる。
竜巻の槍が、火の鳥を突き刺す。
火の鳥の炎でできた身体が、風に揺らめく。
揺らめいた炎の先端を、風の刃が襲い、切り離す。
切り離されて炎は、すぐに戻ろうとするが、そこにまた風の刃が切りつける。
火の鳥の全身を、この風の刃が削りとっていく。
纏った炎が、少しずつ削られていく。
竜巻の中の、炎の姿が細くなっていく。
火の鳥はその姿を崩していき、フォルムがなくなっていく。
ついには散り散りになり、竜巻全体に切り刻まれた炎が広がる。
火の渦ができあがる。
シリウスはその竜巻をまた上空へ飛ばす。
目視も難しくなったところで、竜巻の風を解放する。
四方に飛び散り、炎を含んだ風が空一面に広がる。
炎に当たった雲が消え去っていく。
青かった空を、オレンジ色に染めあがる。
もちろん火の鳥の炎は消えていない。
風の勢いがおさまると、中心にまた集まりだす。
しかしこれで道ができた。
シリウスは妨害なく、魔将ラージの遺体にたどりつくことができた。
火の鳥をまともに相手などせずに、初めからラージの継承を優先していれば良かったのだ。
火の鳥の炎を消す方法は見つかってはいない。
しかし、それも魔将ラージの力を手に入れれば、クリアされる可能性が高かった。
魔将ラージの力は巨大だった。
火の鳥や、精霊王の力もすごくはあった。
しかし魔将ラージと対峙したときに感じた力は、それらの比ではなかった。
おそらくラージという存在は、火の鳥や精霊王以上だろう。
さらに、もともとラージの継承が目的だったのだ。
それでもどうしようもなかったら、逃げてしまえばよかったのだ。
シリウスはラージの遺体の胸に、手をのせる。
ラージの死体はまるで生きているかのようだった。
ラージとの死闘を思い出し、シリウスは身震いする。
死体にすら、近づくのが恐ろしかった。
小さく息を吐きだす。
しかし、ここまで自分が恐怖している力を、これから手に入れられるのだ。
口元に笑みが漏れる。
遺体の胸にあてた手のひらから、光が溢れる。
シリウスはスキル「継承」を発動した。
突然、強烈な頭痛がシリウスを襲う。
ラージの遺体から、急いで手を離す。
しかし、頭痛は強まる一方でおさまらない。
人が挟まっているのに気付かずに閉まり続けるドアのように、頭がしめつけられる。
シリウスはついに床に倒れふす。
ラージの力が強大すぎて、シリウスには耐えられないということだろうか。
それとも、死してもなおラージの力は健在で、継承を妨害したのだろうか。
原因はわからない。
しかし継承は失敗した。それだけは確かだった。
シリウスが頭痛に苦しんでいる間、事態はさらに深刻な状況へと移っていった。
散り散りになった体を、また再生させた火の鳥が、上空から戻ってきていた。
シリウスが背後の火の鳥の存在に気がついたときには、もう左腕と足は炎に包まれていた。
頭痛はまだおさまらない。
火の鳥は次の攻撃をくりだしていた。
結界を張るが、すぐに消滅する。
炎が直撃する直前、エルダがシリウスに抱きついて、横に倒れこむ。
おかげで炎の直撃を逃れ、シリウスは一命をとりとめた。
しかし、半身が炎に包まれたシリウスに抱きついたエルダには、当然ながら、炎がうつる。
エルダの左腕が燃えている。
炎がふたりの体に広がっていく。
明日も16時15分ごろ投稿いたします。




