49話 神に近い存在1
蜿蜿の火口の異変の原因は、底へとたどり着くとすぐにわかった。
そこには火の鳥がいた。
全長10メートルを超える体を、丸めている。
マグマの上で眠っている。
火の鳥がのっていると、マグマは座布団のように心地よさそうに見えた。
火の鳥の伝説は全世界に広まっている。
体が炎で構成された、不死身の鳥である。
その炎は決して消えることがない。
火の鳥が海に入ったときに、海の水すべてが蒸発しそうになったという話もある。
また、その炎で燃やせないものもないと言われている。
その炎に包まれたものは、灰すらも残さずに焼失してしまう。
蜿蜿の火口にモンスターが減ったのは、この火の鳥の炎に焼かれてしまったのだろう。
シリウスは強くなった。
魔将と同等の力を手にいれていた。
この世に自分が敵わない存在は、魔王ぐらいだった。
しかし当然ながら、神には勝てない。
そしてこの世界には神に近い存在がいる。
シリウスに宿る力の持ち主、精霊王もそのひとりであり、目の前の火の鳥もそうだ。
彼らには、神の決めたルールを破る力があった。
精霊王は過ぎさった時間を戻すことができたし、火の鳥は永遠に燃えつづける炎をつくりだせた。
しかしそれら過ぎた力を神々は嫌った。
そこで彼ら神に近い存在には制約を与えた。
精霊王や火の鳥の実態をなくしたのだ。
つまり魂だけの状態にしてしまった。
魂だけの状態となった彼らは、現実社会に物理的に影響を与えることができなくなったのだ。
その代わり間接的には、影響を与えることはできる。
精霊王がエルフの巫女に力を授けたように、自らが直接力を行使するのではなく、あいだにクッションを置いて力を使うことができた。
力を授かったものは、力を授けてくれたものをたてまつる。
エルフが精霊王を信仰するように。
精霊王は神のように、崇められるたのだ。
神によって、精霊王や火の鳥は、魂のみの存在となってしまった。
しかし、その代わりに、神と同等の扱いをされるようになった。
彼らにも不満はあるだろうが、神として崇められて悪い気分ではなかった。
その神に近い存在である火の鳥が、今実態を持ってそこにいるのだ。
その火の鳥は、確かに物質的な体を持っていた。
つまり、決して消えることのない、すべてのものを燃やすことができる炎がそこにはあった。
その炎でできた体を持つ存在がそこにはいた。
ではなぜ、魂のみの存在であるはずの火の鳥が、実態をとり戻しているのか。
それはこの異常な量の魔素が原因だと考えられる。
魔素は魔物を形成する物質である。
神に近しいとはいえ火の鳥も魔物である。
神の想定していた以上の魔素が発生をして、それに目をつけた火の鳥が、自らの体の形成していったのだろう。
そしてなぜ、このような異常な量の魔素が発生してしまったのか。
その理由にもシリウスは気がついた。
魔将ラージの死が原因だ。
魔物が死んだあと、死体はどうなるか。
魔物は魔素からできているので、魔素へと帰化していく。
魔将ラージの死体も魔素へと還元されたはずである。
魔将ラージという存在は、精霊王や火の鳥に等しいといって良かった。
いやそれ以上だった。
魔将ラージはそれほどまでの力を持っていた。
その魔将ラージを構成していた魔素が、ただですら魔素の充満していた蜿蜿の火口に、放出されるのだ。
異常な現象が起きてもまったく不思議ではなかった。
「シス殿」とエルダが何かに気づいて、声をかける。
シリウスはエルダの指差すほうを見る。
火の鳥のちょうど背後に、小さな洞穴のようなものがあった。
そこに人物の影が見える。
地面にうつ伏せに横たわっている。
顔を見ることはできなかったが、間違いなくそれは、魔将ラージの遺体だった。
「ラージの遺体だ。
運がいい。
さすがのラージでも、火の鳥の炎を浴びていたら灰と化していただろう。
火の鳥を起こさないように、ラージの遺体のもとへ回りこむ」
シリウスが腰をかがめながら、ゆっくりと歩きだす。
そのあとをエルダがつづく。
「シス殿。ひとつお伝えしておきたいことがございます」
「なんだ?」シリウスがこたえる。
「ご存じのとおり、エルフの里では精霊王様をたてまつっております。
そのため、精霊王様の史実や伝記が多く残されています。
その中のひとつに、火の鳥にかかわるものがございました。
精霊というのはいたずらが好きです。
精霊王様も例外ではございません。
むしろ、精霊一いたずら好きかもしれません。
精霊王様は、火の鳥の目を盗んで、卵にいたずらをしたことがあります。
火の鳥が温めていた卵にです。
油性のマジックペンで『肉』と書いたのです。
卵の殻へのいたずら書きですので、生まれてくる雛に影響はありません。
しかし、油性ですので、それはいつまでも消えませんでした。
火の鳥は、いたずら書きをされたままの卵を温めました。
子供が孵化したときも、肉の文字は消えていなかったそうです。
殻にはちゃんと肉の字が残っていました。
私が伝えたいのは、火の鳥は精霊王様を恨んでいるということです。
つまり、精霊王様の力を持っているシス殿も、おそらくは敵とみなされるということです。
火の鳥には決してバレないように、最新の注意を払ったほうが良いと思います」
エルダが言い終えると、火の鳥の大きなまぶたが、ゆっくりと開かれていった。
火の鳥が目を覚ました。
体のわりに小さな瞳に、シリウスの姿が映っている。
火の鳥が、くちばしを大きく開き、好意的とは思えない声で鳴く。
その声は火口によく響いた。
明日も16時15分ごろ投稿予定です。




