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47話 バドル城の混乱

 魔物の社会は、強さが正義。

 弱肉強食。強いものが偉く、弱いものはそれに従う。

 単純明快で、異議もでにくい。


 しかし、もちろんデメリットもある。

 上にたつものがいなくなった場合だ。


 次に誰がそのポジションにつくか、それをどう決めるか。


 力ですべてが決まる社会なので、当然それは戦闘へとつながる。

 組織内部で戦争が起こるのだ。

 死者や負傷者が大量に発生し、抗争のあいだは社会機能が停止する。


 魔将ラージという城主を失ったバドル城は、まさにこの惨事まっただ中だった。


 ライオンの頭を持つ獣人と、巨人の一つ目が城内の壁という壁を壊しながら、戦闘を繰りひろげている。


 雷を帯びた狼が、リザードマンの大群に囲まれている。

 しかし、リザードマンが狼に槍を放つと同時に感電をして、次々にその場に倒れていく。


 上空からは羽の生えたカエルが、弓を射る。

 巨鳥がそのカエルをひと飲みにする。


 敵も味方もあったものではない。

 己の力を示すためだけに、目の前のものを攻撃する。


「はーい、全員とまれーよー」


 場違いな若い女性の可愛らしい声が響きわたる。


 しかし、その声にすべての魔物が従った。


 声は城にいるすべての魔物にとどていた。

 あれだけ激しい戦闘が繰り広げられていた城内が静止する。

 声の主に絶対服従の姿勢を示した。


 これも強いものには逆らわない魔物だからこその行動だった。

 声の主は魔王軍幹部である魔将ダダだった。


 彼女はバドル城の上空にいる。

 浮遊する魔法陣の上に立っている。

 隣には弟ゴブリンがいる。


「新たな城主が決まりましたー。

 魔王様よりの指名ですよー。

 こちらにいるゴブリンくんでーす」


 ダダが弟ゴブリンに手をかざす。


「ふざけんなー」


「なんでゴブリンごときが城主になるんだ。認められるか」


「ラージ様のあとなんだぞ。いくらなんでも納得できないだろう」


「ゴブリンうぜ〜」


 盛大なブーイングが投げかけられる。


 魔物の社会は強さが正義である。

 当然、弱いものが自分たちの上にたてば猛反発がある。

 それが魔王や魔将の命令でも一緒だ。


「では、これよりゴブリンくん VS その他もろもろの力くらべを始めまーす。

 私がこの右手を振りおろしたら、スタートになるよー」


 ダダはめいいっぱい右手を上にあげ、そして、振りおろした。


 魔物たちは、一瞬戸惑ったが、すぐに雄叫びをあげて、弟ゴブリンに飛びかかっていった。

 数百近い魔物が弟ゴブリンに迫る。


 ダダは弟ゴブリンの耳もとでささやく。

「わかっていると思うけど、殺しちゃだめだよ」


 弟ゴブリンはうなずく。

 そして、迫ってくる魔物たちに、開いた手を向ける。


 魔物たちは、ゴブリンに向かって飛んでいるはずだった。

 しかしいつの間にか、自分たちが落下していることに気がついた。

 気がついてすぐに、地面に叩きつけられた。


 全身を強打する。

 数百の魔物すべてが、地面に這いつくばる。

 立ちあがることができない。

 押しつけられたサンドイッチのきゅうりのように、身動きがとれない。


 弟ゴブリンが魔法を使ったのだ。

 使用したのは「極深度 加重」。

 重力を数千倍にする魔法だ。


 弟ゴブリンの魔法の威力はとどまることを知らなかった。

 バドル城全体に重力がかかりつづける。


 柱がその重さに耐えられず、折れる。

 天井や壁が崩れおちる。


 瓦礫が地面に突っ伏す魔物たちの上に降り注ぐ。

 魔物たちの姿を瓦礫は埋めていく。


 時間にして5秒もかかっていないだろう。

 バドル城のあった場所には、平野が広がっていた。

 城は跡形もなく消えていた。


 バドル城、陥落。


 これから弟ゴブリンが城主となるはずの、これから帝国軍たちが侵攻しようとするはずの、バドル城はここで崩壊した。


 ダダは頭を抱えた。


 勇者のときもそうだが、このゴブリンは手加減が下手だ。

 あのときは、ゴブリンの継承のスキルでなんとかなったが今回はどうなのだろう。


 ダダは、隣にいる弟ゴブリの顔をうかがう。

 弟ゴブリンは、真っ青な顔をして、あたふたとしていた。


「どうしよう」と、ダダの顔を見あげて「ギイ」と、か細く鳴く。


 弟ゴブリンの魔将への道は、思いもよらないところで、困難に直面することとなった。

 いきなりおさめるべき城がなくなってしまった。


 これは間違いなく弟ゴブリンの責任だ。

 何しろ自分の魔法で壊したのだから。


 ダダは思った。

 もともとこのゴブリンは頭が良くなかった。

 そして、勇者もバカだった。

 継承で余計なものまで受け継いでいないといいが。


 ダダと弟ゴブリンは瓦礫の積もる地面に降りる。


 弟ゴブリンは重力魔法を解く。

 ようやく体が自由に動くようになった魔物たちが、瓦礫を押しのけて起きあがっていく。

「ガラガラ、ガラガラ」という、瓦礫が擦れる音がしばらくなり響く。


 魔物たちは次々に起きあがり、弟ゴブリンの周りに集まってくる。

 ライオンの顔をした魔物が、弟ゴブリンの前に進みでる。

 大きな牙のある口を器用に動かしながら、その魔物はしゃべった。

「聞きたいことがある。

 お前はどうして聖剣を背中にかついでいる」


「ギイ」とゴブリンはこたえた。

 残念ながら、弟ゴブリンはまだ話せない。


 かわりにダダがこたえる。


「このゴブリンくんが勇者を殺したからだよ」


「おお」と魔物たちの間から歓声が上がる。


「魔王様や魔将クラス以外で、今まで勇者が倒されたなんて聞いたことないぞ」


「たぶん、初めてだろうね。

 普通のモンスターが勇者を倒すなんて」ダダが言う。


 サディの人形になる前のあの勇者なら、ここにいるほとんどのモンスターが倒すことが可能であっただろうが。


「ただのゴブリンがここまで力をつけるなんて」


「ついでに言うとね、このゴブリンくんが魔法を覚えたのは2週間前のことなんだよ。

 覚えたてホヤホヤの魔法で君たちは全員負けちゃったってわけさ。

 初めて覚えた魔法が極深度っていうのは、ちょっと反則すぎだよね。

 彼は本当は剣士で、そちらのほうが全然強いよー」


「おおお」と再度、魔物たちから歓声があがる。


 ここで魔物社会の強さ至上主義が働き、弟ゴブリンは一気に魔物たちに認められた。


 さすがに魔将ラージほどの力はないにしても、弟ゴブリンが圧倒的な強さを持つことは、皆が認めた。


 強いものに従うことは、魔物にとって喜ばしいことでもあるのだ。

「ギギギギギぎいいい」と弟ゴブリンは大声で挨拶をした。


 それに応えるように、魔王たちがまた歓声をあげるのだった。


 弟ゴブリンの城主としての門出だった。


 ただ大きな問題が残っていた。

 城がない。

 とりあえずは、城の建築が最初の大仕事だ。


 破壊したのは弟ゴブリン本人なのだが、誰も文句を言わない。


 これが強さ至上主義の利点、、、なのだろうか。

 魔物たちは大急ぎで、城の再建にとりかかった。

明日は15時15分ごろ投稿いたします。

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