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45話 勇者、ゴブリン

 ゴブリンが勇者の力を吸収していることは、見ているもの全員がわかった。


 ゴブリンの魔力は上がっていたし、そこには魔物ではない人間の気配が混じっていた。

 勇者としての品格が、弟ゴブリンからも感じられるようになっていた。


 弟ゴブリンは勇者の胸にあてていた手を腕に移動させる。


 手に握られている聖剣を、弟ゴブリンはつかみあげる。

 聖剣が軽く光ると、弟ゴブリンの魔力が倍増する。

 聖剣はゴブリンを使用者として認めた。


 この瞬間、サディの体が小さく震える。

 このゴブリンは我々魔将にとどきうる。

 そう直感した。


 そして、そう考えたのはサディだけではなかった。

 この場にいたものすべてが、ゴブリンの力を認めた。


「見事だ、ゴブリンよ。

 お主は魔将にふさわしい」魔王が言う。


「ギイ」と弟ゴブリンは頭を下げる。


「ただし、すぐに魔将地位につかせるわけにはいかない。

 ここにいるものはお主の力を認めたが、他の魔物たちは違う。


 何しろゴブリンだからな。

 急に魔将となっても、反発しかないだろう。

 その力を示し、認めさせなければ、上には立てない。


 お前にはラージがおさめていた城「バドル城」にいってもらう。


 統治者であるラージがいなくなり、あそこは不安定でな。

 まずはバドル城の魔物たちを従えさせろ。


 見事、バドル城の城主として君臨できたとき、お前に魔将のポストを与える」


「ギイ」と弟ゴブリンはさらに深く頭を下げた。


「魔将となった暁には、私からお前に『名前』も授けよう」


 この魔王の言葉を聞いて、サディの顔色は一気に悪くなる。

 もともと顔色の悪いサディが、さらに青白い顔となる。


 弟ゴブリンには名前がなかった。

 魔物には普通名前はない。


 しかし上位の魔物は、自分の配下などに名前を与えることができる。

 そして名前を与えられたものは、与えてくれた魔物の力に応じてパワーアップをする。


 サディやダダなどの魔将の名前は、魔王が付けたものだ。


 もともと彼らは強かったが、名前を得るとさらに力が倍増した。


 現段階でも充分な実力のある弟ゴブリンが、名前を得たらどれほどの力になるか。


 それは自分たち魔将を超える可能性すらあった。

 圧倒的に他の魔将たちよりも強くなることも考えられた。

 魔将ラージのように。


 そうなると、サディのNo2の地位は絶望的だ。

 ぽっと出のゴブリンなんかに、権力を握られてしまう。


 サディは焦った。

 このままではいけない、何らかの対策を取らなければいけない。


 魔王が退席すると、散会となった。


「グラデス、少しいいか」


 サディは巨体の魔将を呼びとめた。

 ふたりはその場に残り、立ち話をする。


「あのゴブリンについてだ。お前はどう思う」とサディは、グラデスにきいた。


「うむ。あれは強い。

 現段階では我々にはまだまだ及ばないだろう。


 ただ、あれは成長過程だ。完成されていない。

 これから急激に力をつけてくるのは間違いないだろう」


 とグラデスは言った。


「そうだ。あのゴブリンは危険だ」


「危険?」グラデスは首をかしげる。


「あれは強くなる。

 下手すると俺たちではまったく歯が立たないくらいに。


 あいつは俺たちの立場を危うくするぞ」


「あれが強くなって何が問題なんだ。

 魔王軍の戦力が強化されるのだ喜ばしいことではないか。


 俺はある意味あいつを尊敬している。

 ゴブリンであるのに、あそこまでの力を手に入れたのだ。


 強さがすべての魔物にとって、それは敬意を払うに値するのではないか。


 だいたい、強いものが上に立つべきだと言ったのは、お前自身ではないか。

 先ほど魔王様の前で、強さが正義であることが、魔王軍の美徳であると、熱弁をふるっていたではないか。


 あいつが強くなり、俺たちの上に立つ。

 もしそうなっても、そこには何の問題もない」


 サディは黙った。

 グラデスと手を組むのは難しそうだった。

 このままでは。


「そういえば、グラデス。

 あの薬はちゃんと飲んでいるか?」


「ああ。

 決められた時間にちゃんと摂取している。


 魔力の属性をコントロールを可能にするらしいが、どうも今のところは効果がないようだな。


 あいかわらず俺の魔力は、パワー属性のみの頑固ものだ」


 グラデスは肩をすくめる。

 サディはそんなグラデスを見て、笑みを浮かべる。


 サディは昔から権力が欲しかった。

 今回は偶然に勇者という手札を手に入れたが、それ以前もただ幸運が舞いこむことを待っていたわけではない。


 魔将のポジションを2席確保する準備は他にもしていた。


「そんなことはない。

 お前の魔力属性のコントロールはかなりしやすくなったよ」


 サディがグラデスの瞳を見つめる。

 サディの瞳から、薄紫の煙のような輝きが浮かびあがる。


 グラデスが、その輝きに見入る。

 まるで一目惚れでもしてしまったかのように、視線が動かない。


 サディが傀儡子の魔法を使う。


 グラデスの意識が遠のいていく。

 グラデスの瞳孔から輝きが消える。


 サディが近づき、瞳を覗きこむ。

 魔術の完了を確認する。


「グラデス、あのゴブリンを何としても抹殺するぞ」


「はい、かしこまりました」と、グラデスはこたえた。

誤字報告、ありがとうございます!

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