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44話 魔将の椅子

「はははは」

 顔色の悪い魔将サディは大きな声で笑った。


 もうひとりの巨体の魔将も声にはだしていないが、バカにしたような笑みを浮かべる。


 魔王は、どのように反応して良いのわからない様子で、女性の魔将を見る。


「どういうつもりだ? ダダよ」魔王がきく。


「そのままの意味よ。このゴブリンを魔将に推薦いたしますわ」


 ダダと呼ばれた女性の魔将も、やはりにこやかに笑っていた。


「冗談もいい加減にしろ。こちらは真剣な話をしているのだ」魔将サディが言う。


「冗談ではないわよ。このゴブリンは魔将に相応しいと本気で言っているの」


「ダダよ。お前の意図はわからないが、ここには魔王様もいらっしゃるのだぞ。

 さすがに失礼にあたるのではないか」巨体の魔将が言う。


「そのとおりだ。

 だいたい、ゴブリンのような下等生物をこの魔王城に入れている時点で許しがたい行為だ。

 これ以上は侮辱とみなすぞ。」


 サディの声に怒気が含まれるようになっていた。


「ダダよ。今は新たな魔将の話をしているのだ。


 これは魔王軍にとって重大な問題だ。

 お前の真意はわからないが、もう少し状況をわきまえても良いのではないか」と、魔王が言う。


 ゴブリンを見つめる魔王の目にも、好意はひと欠片も浮かんでいなかった。


「私は大真面目なんですけどね。

 誰も私の話を真剣に聞いてくれなくて、悲しいわ」


 ダダは泣きまねをする。


「こんな茶番いつまでもつづけてられん。


 たしかにそいつは他のゴブリンよりかもは強そうだ。


 先ほども言ったように、魔王軍では力がすべてだ。

 手っ取り早く、そのゴブリンと勇者を今ここで戦わせよう。


 勇者の力を魔王様にお見せすることもできるしな」


 サディの言葉に、ダダは弟ゴブリンのほうを見る。

 弟ゴブリンは背中に錆だらけの剣をかついでいる。


「あたなはそのおんぼろの剣しか持っていないのよね。


 いい、その剣で勇者の剣を受けてはだめよ。

 聖剣の攻撃にその剣は耐えることなんてできない。

 すぐに折れてしまうわ。


 わかった?」


「ギイ」と弟ゴブリンはこたえた。


 ダダはうなずいて、サディへと目をやる。


「わかったわ。

 このゴブリン君の力を見せてあげる」


 ダダは決闘を受けた。


「そのゴブリンが死んでも文句言うなよ。

 何しろゴブリンだからな。

 手加減しても死んじまう」


 勇者と弟ゴブリンが、開けたスペースに進みでる。

 勇者が聖剣を、ゴブリンが錆びた剣をそれぞれ構える。


「はじめ」と魔王が合図する。


 さすがは魔王と魔将である。

 その動きを目で追えていた。


 余人では、本の乱丁のようにページが飛び、結果が突然目に飛びこんできていただろう。


 相手との距離を一瞬でつめ、剣で首を払う。

 相手はまったく反応できずに、首が切り落とされるのみ。


 頭部と胴が切り離されて、切られた者はそこでようやく驚きの表情を浮かべる。


 首が切られては絶命する。

 魔王や魔将でも蘇生魔法は使えない。

 聖女ミライのようなことは不可能だった。


 こうして彼は死亡した。


 魔王に殺されるでもなく、賢者に復讐されるでもなく、勇者はゴブリンに殺された。

 勇者レイの人生はここで終わる。


 サディは驚きのあまり声がでなかった。

 サディだけではない、魔王も、もうひとりの魔将も、歯のない人がリンゴをかじっているかのように固まっている。


 ダダだけが、変わらずにニコニコとしている。


「何をやっているんだ」


 まず、正気を取りもどしたのはサディだった。

 城が震えるほどの大きな声で怒鳴った。


 そしてこの怒鳴りは正当なものだった。

 自分の人形が壊されて怒っているだけではない。

 切実な問題がそこにはあった。


 驚きがひくと、全員がゴブリンの起こした大問題に気がつく。


 勇者が死んでしまったのだ。

 せっかく捕らえた勇者を殺してしまったのだ。


 これでは10年後にまた新たな勇者が生まれるだけだ。


 もっとも大きな問題は、聖剣の確保が不可能になってしまったことだ。


 聖剣は使用者がいなくなるとどこかへ消えてしまう。

 そして新たな勇者が生まれると不思議とそのもののもとへ姿を現わす。


 聖剣を魔王軍が確保できたことは、かなり大きなメリットがあった。

 聖剣でしか魔王は倒せないからだ。


 たとえ勇者がいたとしても、その手に聖剣がなければ魔王は殺せない。


 逆に聖剣があれば魔王は殺せるのだ。


 実は聖剣を扱えるのは勇者のみではない。

 剣聖も使うことが可能なのだ。


 剣聖のユニークスキルは、人生で一度だけ聖剣を使えるというものだった。


 聖剣が魔王軍の手にあれば、魔王は不死身であると言って良かった。

 勇者が死んだ今、聖剣が魔王城から消えていくのは時間の問題だった。


 勇者のいない現状では、それを止めるすべはない。


 この問題に気がついて、さすがのダダも「あ」と声をだした。

 失態を犯したと、認めざるおえなかった。


 魔王や他の魔将の表情は厳しい。


 弟ゴブリンが勇者の死体に歩いて近く。

 サディがそれをにらみつける。

 弟ゴブリンはしゃがんで、死体の胸に手を添える。


 ゴブリンのユニークスキルは何か?

 そう「継承」である。

 「継承」は死体の力を取りこめる。


 弟ゴブリンに勇者の力が流れこむ。

ここはお気に入りのシーンです。

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