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43話 魔将の帰城

 レベル99の勇者が、一般兵程度の強さしかないなどということがあり得るのだろうか?

 いやありえない。


 魔王と勇者とは神の作ったルールである。

 ルールは絶対である。


 現在の魔王は圧倒的な強さを持っているが、それは魔王自身の努力の成果だった。

 歴代魔王と先天的な能力にそこまでの大差はない。


 勇者も同様である。

 最弱勇者のレイも、勇者として神から授かった力は同じだった。


 ではなぜこの勇者はこんなにも弱いのか。

 それもやはり努力の成果だ。


 勇者は驚異的なほど努力をしてこなかったのだ。


 むしろ怠惰な生活で、能力を弱体化させていた。

 毎日の贅をつくした食事は、レイの肉体を贅肉の塊にしていた。

 毎晩遊び歩いていたので、つねに睡眠不足であり、お酒とドラッグにより、内臓と脳はかなりのダメージを受けていた。


 それらは、レベル99勇者のステータスを無為にするほど深刻だった。


 さらに彼には悪癖があった。

 見た目重視である。


 彼が剣を振る時に何を意識したか。

 それは、いかに優雅に剣を振るかだった。


 美しい姿勢のために、まっすぐな背筋を維持する。

 体重移動などは一切おこなわない。

 モデルやダンサーのように、重量を感じさせないよう、体幹をずらしてバランスをとる。

 剣術の基本は一切無視する。


 当然、これらの行為は戦闘には不利益だった。

 彼がそれらの技術を研磨するほど、剣の威力は弱くなっていった。

 つまりこの勇者は本来、弱くはなかった。

 勇者としての素質はあったのである。


 魔王軍が勇者を誘拐してまずおこなったことは、傀儡化することだった。

 レイをなんでも言うことを聞くお人形にしたのだ。


 顔色の悪い魔将は、傀儡子だ。

 彼は生物の体を乗っとり、操ることができた。


 いくつか条件を達成しないといけなので、誰でも傀儡人形にできるわけではない。


 勇者を操ることは本来不可能なはずだった。

 しかし、魔将とレイの力があまりにかけ離れていたため、それが可能となった。


 勇者レイは、魔将の操り人形となった。


 顔色の悪い魔将は、人形となった勇者を見て驚いた。

 なんとその勇者が意外と強いのだ。


 レイの人格がなくなれば、勇者自身の肉体はその力を発揮することができる。

 操り人形となった勇者の体は、レイの呪縛から解放されて、その真価を遺憾なくしめせたのだ。


 魔将はこの変化を面白く思い、人形勇者を鍛えてみることにした。

 現在の勇者の肉体は贅肉が多く、戦士として適切な体つきではなかった。

 また、剣技に対する知識も不足しているようだった。


 これらを一ヶ月かけて改善していったのだ。

 結果はみるみる現れた。

 勇者は勇者にふさわしい力をつけていく。


 さらに、勇者補正が逆に作用してくれた。


 傀儡子に操られている状態では、本来の実力の8割程度の力しか発揮できなかった。

 ところが、8割しか力を出せない状態に、勇者補正がかかり、100%の実力が出せるようになったのだ。

 デバフ効果の無効化は、勇者の十八番であった。


 現在の魔王や魔将は異常な強さを身につけてしまっているので、レベル99の勇者よりも強いが、人形勇者は、通常の魔王と同程度の存在となっていた。


 顔色の悪い魔将は想像以上の成果に歓喜した。


 かねてからの望みを叶えられる駒が手に入ったのだ。


 彼が欲しがったのは、魔王軍での権力だった。

 彼は魔王軍ナンバー2の地位に立ちたかったのだ。


 魔将ラージがいたときには、それはかなわなかった。

 ラージは魔将のなかでも圧倒的な強さを持っていた。

 魔将ラージのナンバー2の座は不動のものだったのだ。


 しかし彼がいなくなり、今はナンバー2が未確定だった。

 3人の魔将の力は拮抗している。


 しかしこの勇者を手にれたことで、この拮抗は崩れた。

 自分が大きくリードした。


 そしてこのリードを決定的なものにすることにした。


 ラージがいなくなり、現在魔将の椅子がひとつ空いている。

 そこにこの勇者を座らせようと考えたのだ。


 4つの席のうち半分の2つを自分が握ることになる。


 魔王軍で彼に逆らえるものはいなくなる。


 そして、顔色の悪い魔将は魔王に、勇者を魔将にすることを具申した。

 魔将の隣では人形勇者がひざまずいている。

 他の魔性3人も揃っていた。


「サディよ。

 まず、勇者を見事傀儡としたその手腕、褒めてつかわす」


 魔王は言った。


「たしかにその勇者は強い。

 ただ、魔将の地位に勇者をつけるというのはどうだろうか。

 魔王軍としての品位に欠けるようにも感じるが」


 サディと呼ばれた顔色の悪い魔将は、それを受けてこたえる。


「恐れながら、申し上げます。


 魔物にとってもっとも重要なことは何でしょうか。

 それは力です。

 力があるものが偉く、ないものは淘汰される。

 力のみですべてが決まる。


 人間社会のように、無能な者が上に立つことがない。

 実力者のみが評価される。


 だからこそ、今、魔王軍は世界を支配できているのです。


 この勇者には力があります。

 それは誰もが認めるでしょう。

 そして、力あるものは上に立たせるべきです。


 それこそが魔物社会の秩序なのですから」


 魔王はしばらく考えた。


 勇者が魔王軍の幹部になることで反発はあるだろう。

 しかし勇者すらも、魔王の配下にくだったと知らしめることは、世界に向けて、大きなアピールになるだろう。


 人間も最後の切り札である勇者を失って戦意をなくすかもしれない。


 魔王は争いをやめたかった。

 これをきっかけに人間たちは停戦、終戦へ舵を切るかもしれない。

 そう考えた。


「うむ。いいだろう」と魔王はうなずいた。


 ところが「ちょっと待ってえー」と、魔将のひとりが言った。

 ダンを殺した、あの女性の魔将だ。


「実は、私も新たな魔将として推薦したいものがいるのよね」


 彼女の転移魔法により、隣に弟ゴブリンが現れた。


「このゴブリン君でーす」と彼女は言った。


 弟ゴブリンは「ギイ?」と鳴いた。

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