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4話 エルフの森【シリウス視点】

 レベル上げの終わった俺は、森をでて、南にある「果実のダンジョン」へ向かうことにする。

 果実のダンジョンには、武器のなる木がある。

 その木になる武器は強力で、勇者パーティーの全員がひとつは装備していた。

 レベルの次は、装備を整えていく。


 来た道を引き返して森を抜けるのは時間がかかりそうだった。

 俺は反対に森の中心へと足を運ぶ。

 この矛盾する進路がショートカットとなる。


 エルフの森には名前のとおり、エルフが住んでいる。

 エルフは人間嫌いである。人と関わることを嫌う。

 そのため自分たちの住む森の中心に、人間が近づけないように結界をかけている。

 その結界に触れた者は、強制的に森の外に飛ばしてしまうのだ。

 この結界があるために、人間はエルフの里に入ることができない。

 エルフの里に行ったことのある人間は、歴史上存在しない。


 エルフは魔法に優れている。

 そのため、こんな結界を作ることも可能なのだ。

 エルフの里には、特殊な魔法具や、魔法技術があると言われている。

 賢者であった俺はそれらに興味があり、エルフの森の結界を無効化するアイテムを作ったことがあった。

 しかし魔王軍との戦いが忙しく、残念ながら使う機会がなかった。

 無効化アイテムが手元にあれば、エルフの里に行くことも可能だったのだが、仕方がない。


 俺はこの強制的に森の外にだされる結界を利用して、森を抜けることにした。

 そのため森の中心を目指していたのだが、俺は重大なことを忘れていた。

 俺は人間ではなく、ゴブリンだった。

 結界は人間を森の外に飛ばすのだ。

 ゴブリンではない。


 なかなか結界が発動しないなと思いながら、森を進む。

 すると大きな破壊音と、獣の咆哮を聞こえてきた。

 いつまでも終わらない森に飽きていた俺は、興味本位にその場に駆けつけてみる。

 そこにはドラゴンがいた。

 真っ黒いドラゴンがエルフの子供にかぶりつこうしている。

 今にも子供にくらいつこうという瞬間、俺は魔法を放つ。

 賢者として人々を助けてきたので、自然と体が動いた。

 風の刃を何重にも重ね、圧縮された竜巻を作り、ドラゴンにぶつける。

 竜巻に直撃したドラゴンが、3メートルほど後退する。

 しかし、竜巻はドラゴンの強靭な肉体に、簡単に打ち消されてしまう。

 俺はエルフの子供のもとに駆けよる。

 子供に怪我などはないようだ。

 突然現れた俺を見て、驚いているようだ。

 しかも、その姿はモンスターのゴブリンなのだから、なおさら驚愕する。

 しかし自分が助けられたようだと理解すると、パチパチと小さい手を叩いて笑顔になる。

 俺に拍手を送っているのかな。


 ドラゴンが急に乱入してきた邪魔者の俺を睨む。

 風の刃ではまったくダメージを与えられていないようだ。

 ドラゴンはこれまでのモンスターとは、強さの格が違う。

 防御力は特に高く、生半可な攻撃ではかすり傷もつけられない。

 ドラゴンの鱗は、物理、魔法ともほぼすべての攻撃を無効化する。

 目の前の黒光りするドラゴンの鱗を見ても、かすり傷のひとつもない。

 先ほどの風魔法程度では、やはりまったく攻撃の意味がないようだ。


 全身が真っ黒なドラゴンの容姿に、俺は聞き覚えがあった。

 10年前に隣国エラーンが、ドラゴンの襲来を受けて滅んでいる。

 そのドラゴンは、魔法防御が特に優れており、エラーン国の100人を超える上級魔法使いの一斉攻撃にも、平気で耐えてしまったそうだ。

 三日も経たずにエラーンの王都は陥落した。

 一匹のドラゴンによって壊滅的状況におちいったエラーン国は、それに乗じて攻めてきた魔王軍に、あっけなく占領されてしまった。

 隣国である帝国では、ドラゴンが今度はこちらに攻めてくるのではと、緊迫した空気となった。

 当時すでに賢者であった俺も、隣国との国境で迎撃体制をとっていた。

 しかし、ドラゴンはエラーン国を滅ぼすと、どこかへ飛び立っていった。

 その後、消息を絶っていた。

 その漆黒のドラゴンの瞳は、黄金に輝いていたという。

 宝石のように美しい輝きが、逆に人々に強い恐怖を植えつけたという。

 今、目の前にいる黒龍も、黄金色の瞳を持っていた。

 行方がわからなくなっていたが、こんなところにいたようだな。


 俺はゴブリンになって初めて、本気の魔法を使うことにする。

 しっかりと魔力を術式に組みこんでいく。

 ドラゴンの口から、紫色の煙が漏れている。

 強力な魔力が溢れだしている。

 ドラゴンブレスを吐くようだ。

 ドラゴンが口を大きく開いて、ブレスを吐きだそうとした。

 しかし、こちらも準備は完了した。

 右手を前に突きだす。


「第七深度魔法 絶界光」


 光という「無」が、ドラゴンを照らしあげる。

 それは一瞬の輝きでしかない。

 光の束が、ドラゴンの全身を包み、そのまま上空へ消えていく。

 ドラゴンの姿は完全に消失した。

 絶界光は空間そのものを切り取る魔法だ。

 ドラゴンの鱗がどれほどの防御力があろうと、存在そのものを剥ぎとられてしまっては意味がない。

 原理は、絶対に開かない金庫を、金庫ごと盗んでしまうのに似ている。

 魔力の三分の一を失うが、その分威力は絶大だった。


 エルフの子供は、ドラゴンの巨体が突然消えて、「おーおー」と歓喜の声のようなものをあげる。

 そして、先ほどよりも手を大きくひろげて、オーバーに拍手をする。

 俺はそんなエルフの子供を見て、微笑む。


 伝説の黒龍も、まさかゴブリンにやられるとは思ってもいなかっただろう。

 驚く暇もなく、生を終えてしまった。


 しかし、数秒後、俺も驚くことになる。

 身体を浮遊感が包んだ。

 戦闘後に起こるこの現象。

 これは、さっきまで何度も体感してきた。

 俺は慌てて、ステータスを見る。

 やはり、レベルが112に上がっていた。

 レベルアップしている。

 99でカンストしたと思ったレベルが上がっている。

 99以上レベルが上がらないというのは、人間のときの知識だ。

 では魔物にもその常識はあてはまるのだろうか。

 いや、あてはまらないほうが自然かもしれない。

 モンスターと人間だと、レベルの上限が違うのだ。

 ステータスの数値もちゃんと上がっている。

 ひょっとするとゴブリンに転生したのは、幸運だったのかもしれない。

 どこまでレベルを上げられるか実に楽しみだ。

楽しんでいただけましたら、ブックマークとポイント評価をよろしくお願いいたします。

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