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32話 竜王の乱入

 その結果は当然だったのかもしれない。


 弟ゴブリンの魔力は、剣聖ダンの剣に押し負ける。

 弟ゴブリンは全身に斬撃を受け、負傷していない部位を見つけることが困難なほどだった。

 無事であった片腕も折れ、剣を地面に落とす。

 胸には深く大きい傷が走り、内臓が破裂をしている。

 口から血を吐きだす。

 それでも弟ゴブリンは倒れずにいた。

 両足を踏んばり、まだ立っていた。

 まだ倒れずにいるだけでも驚異的なことだった。

 弟ゴブリンがおこなったのは、ただの魔力の放出である。

 魔法でもなんでもなく、それは大声を出すみたいなものだった。

 ただその音量があまりに大きかったので、鼓膜が破れたり、空気を震わせたりする効果があった。それだけのことだ。

 対するダンは、剣技を放った。

 それは、相手を傷つけるために考えだされた技であり、ダンが研磨してきた技術だった。

 ゴブリンの魔力とダンの斬撃では、勝負になるはずがなかったのだ。

 それでも弟ゴブリンの魔力により、ダンの攻撃の威力はかなり削がれた。

 だからこそ、弟ゴブリンはまだ立っていられたのだ。

 しかし、弟ゴブリンは瀕死の状態といって良かった。

 魔力はゼロになり、息はあがり、片腕は切断されており、もう片方は折れている。

 剣も握ることができない。

 出血量が多く、視界には霧がかかっている。

 テーブルの端に置かれたコップのように、割れることが必然のように見えた。


 しかし、そんな弟ゴブリンを前にしても、ダンはすぐには動かなかった。

 大技を放ったあとなので、自身も疲労していたというのもある。

 しかし、一番の理由は不安だったのだ。

 渾身の一撃を喰らっても、まだ立っているゴブリンが不吉でしょうがなかった。

 あの一撃でとどめをさせなかったことが敗因となる、そんな未来まで想像してしまっていた。

 すぐ近くには聖女のミライがいる。

 彼女はまだ勇者の治療をおこなっているが、いったん自分の傷を癒してもらったほうがいいのではないだろうか。

 剣士として一対一の戦いに、第三者の回復を入れるのは、卑怯なようにも思えるが、モンスターとの戦闘である、そんなことは気にする必要はなかった。

 必要はなかったが、意外にも剣術には義をとおすダンには、簡単に判断できることではなかった。


 そんな思いの交差もあり、弟ゴブリンとダンは、しばらくの間、動かずに向かいあったままでいた。


 この空気のなか、突然、竜王が姿をあらわした。

 シリウスとの戦場から、テレポートで移動してきたのだ。

 竜王は、すぐにミミの姿を見つけ、襲いかかった。


 突然の竜王の出現は驚愕以外の何物でもない。

 モンスターの頂点と言ってもよい竜王が、目の前に突如としてあらわれたのだ。

 驚きに体が動かず、対処ができなくて当然だった。

 ダンも、ミライも、当然、勇者も、固まっていた。

 竜王が今その口の中に、ミミを含もうとする瞬間、竜王を追ってきたシリウスがテレポートしてくる。

 しかし、シリウスの出現した位置も、ミミからは遠く、助けることは不可能だった。


 このようななか、一人だけ、いや一匹だけ反応できたものがいた。

 弟ゴブリンだ。

 弟ゴブリンは竜王がミミへと突進するのを見ると、すぐにミミのもとへ駆けだした。

 両腕が動かない弟ゴブリンには、ミミを助ける方法は限定されていた。

 弟ゴブリンは竜王の頭部に体当たりをした。

 竜王にダメージはなかったが、衝撃で軌道がそれ、ミミを捕食できなかった。

 弟ゴブリンは傷だらけの体で、大質量で強固な鱗を持つ龍に突っ込んだため、反対に大きなダメージを受けた。

 立っているのも辛くなり、片膝をついた。

 それでもミミと竜王の間に入り、まだ彼女を守ろうとする。

 瀕死の弟ゴブリンのみが、突然の竜王の襲撃に対応できた。

 称賛に値する行為だった。

 ダンやミライたちは驚かされた。

 ゴブリンがエルフの子供を助けたのだ。

 ダンたちは、ゴブリンがミミを襲っていると考えて、攻撃を仕掛けた。

 ところがそれが大きな勘違いであることに、このとき気がついたのだ。

 ゴブリンとエルフの少女は仲間だ。


 あと少しで、エルフの巫女を食らうことができるはずだったのに、邪魔をされた竜王は怒った。

 それも、また最弱種のゴブリンにである。

 どうしてこのエルフの里にいるゴブリンは強いのだ。

 本来ならゴブリンの体当たりなど、宙に舞う花粉がぶつかる程度のことであるはずだった。

 それなのに、このゴブリンは自分の体を押しのけたのだ。

 竜王は怒りの感情のままに、ドラゴンブレスをゴブリンに吐きつける。

 負傷してほとんど体を動かすことのできない弟ゴブルリンになす術はなく、直撃をする。

 弟ゴブリンは、ブレスの勢いのままに森の中へと吹き飛ばされる。


 竜王が弟ゴブリンに気をとられている隙に、シリウスはミミを結界で守る。

 今のシリウスが全力で作った結界である。

 竜王といえども簡単には壊せそうになかった。

 シリウスを殺せば結界は消える。

 竜王はまた、シリウスとの戦闘を余儀なくされる。

 竜王は小さくうなる。

 竜王とシリウスの第2ラウンドが始まる。

明日は15時30分ごろ投稿します。

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