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30話 弟ゴブリンと剣聖1

作品タイトルを変更いたしました。


【旧題】最強のゴブリン 〜最強賢者がゴブリンに転生 最弱モンスターが魔法で無双する あれ?もしかしてゴブリンって強くないか? いつしか賢者時代以上の力を手に入れていた〜

 一瞬で距離をつめられ、振るわれた一撃を、弟ゴブリンはなんとか受けとめる。

 剣が刃こぼれをおこす。

 ダンは手首をひねり、ゴブリンの剣を巻きとろうとする。

 まるで剣がムチのように、ゴブリンの剣に巻きついて引っ張られるような感覚に、弟ゴブリンはいそいで対応する。

 剣を押しこみ、その反発の力を利用して後ろに飛びのく。

 着地をしてすぐにまた、ダンの斬撃が襲ってくる。

 弟ゴブリンはなんとかそれも剣で受けとめる。

 弟ゴブリンの剣が、またも刃こぼれする。

 小指の爪程度の大きさの金属が、剣から砕けおちる。

 剣がもたない、と弟ゴブリンは思った。

 このままでは、近い将来剣は折れるだろう。


 弟ゴブリンの剣は古くはあったが、頑丈であった。

 頑丈さだけで言えば一級品であったと言ってもいい。

 しかしその剣が刃こぼれをおこす。

 ダンの剣も一級品ではあったが、弟ゴブリンの剣の性能をそこまで大きく上回るものではなかった。

 弟ゴブリンの剣が刃こぼれをおこすのは、単純に剣の腕の差だった。

 受けとめる剣の角度が良くなかった。

 いや、良くない角度でしか受けとめられないように、ダンが剣の軌道を調整しているのだ。

 ダンは剣の天才であり、膨大な量の鍛錬を積んできた。

 努力した時間は、誰にも劣っていない。

 2歳のときから、剣を握らなかった日はなかった。

 それゆえの剣聖である。

 ダンはつね日頃、言っていた。

「俺の人生から剣を取ったら、女しか残らないと」

 女が残ってしまのは剣聖として残念であるが、ダンはこのふたつに全力であった。

 弟ゴブリンのように、つい先日剣術を身につけたものとは、年季の違いがあった。

 剣術のレベルの違いはあきらかだ。

 さらに純粋な腕力もダンのほうが上であった。

 これは魔力による身体強化の精度の問題である。

 魔力量は弟ゴブリンのほうが数倍も上だが、いかんせんその魔力をうまく使いこなすことができていないのだ。

 弟ゴブリンも魔力を身体に流し、運動能力の向上をはかっているが、独学では限度があった。

 ダンのこの魔力による身体強化は芸術的なまでの精度の高さだった。

 時間とともに弟ゴブリンの身体には傷が増えていった。


 弟ゴブリンは、ダンと剣を構えてすぐに、これまでの敵とは違うことに気がついた。

 これまでは、自分の実力ではギリギリ勝てない力を持ったモンスターが相手だった。

 しかし、今目の前にいる人間は、自分の実力では到底勝てない相手だった。

 ダンが初撃から全力をだしていれば、弟ゴブリンはもうこの世にはいなかっただろう。

 今はまだ様子見をしているので、弟ゴブリンもなんとか持ちこたえていた。


 ダンは弟ゴブリンの実力をしだいに把握できてきた。

 最弱種であるのに、驚異的強さのあるゴブリン。

 その不可解さに様子を見ていたが、確かに強者ではあるが、まだ自分の敵ではないようだった。

 どうしてここまでの力を手に入れたのかはわからなかったが、そろそろ決着をつけることにした。


 これまでとは、威力がまったく違った一撃。

 それは数段早く、数段強力だった。

 ゴブリンの首が飛ぶ。

 はずであった。

 ゴブリンは、ダンのその剣を受け流した。

 ゴブリンの剣に刃こぼれもない。

 ダンは追加で二撃を放つが、ことごとくいなされる。


 先ほどまでなら、確実に今の攻撃でゴブリンは死んでいたはずである。

 しかし、剣を受ける角度が良くなっている。

 手首の使い方も上手くなり、柔軟だ。

 ここにきて、このゴブリンは成長をしている。

 しかも、この剣の型は、自分のものにそっくりだ。

 このゴブリンは、戦いのうちにダンの剣をコピーしているのだ。

 ダンの技術が盗まれていた。

 ダンはゴブリンに恐怖を覚える。

 ギアを一気に2段あげる。


「雷刀」

 ダンの刀が一瞬輝いたかと思うと、弟ゴブリンの片腕が切断された。

「岩刀」

 ダンが突きを放つ。

 ゴブリンはそれになんとか剣をあわす。

 しかし、剣と剣が触れた瞬間、弟ゴブリンの身体に強烈な衝撃波が伝わり、吹き飛ばされる。

 後ろにとばされた弟ゴブリンは、木の幹に衝突してとまった。

 ダンは追い打ちをかける。

「炎刀」

 赤黒い炎が刀の軌跡に流れる。


—雷刀—

 ゴブリンの片手に持つ剣が光る。

 炎は切り裂かれ、ダンの攻撃は不発に終わる。


 もう、雷刀をコピーしやがった。

 ダンのこめかみに汗が流れおちる。

 このゴブリンは危機に追いやられるほど、その成長も爆発的なものになっていく。

 余力を残している場合ではない。

 ゴブリンが倒れこんでいるうちに大技を仕掛ける。

 ダンは両手で刀を天にかかげる。

 鬼の手があらわれ、その刀身を握る。

 刀を中心に、赤黒い霧の渦ができる。

 刀は重力のように、すべてを吸いこもうとしていた。

 弟ゴブリンも体が引っ張られないように、足を踏んばる。

 ダンの刀が纏う赤黒い渦が、天まで届く。


 このままでは死ぬ。

 弟ゴブリンは思った。

 奇跡を起こさない限り、自分はこの攻撃に耐えられない。

 本能でそのことを理解した。

 ダンのこの一撃は、剣聖最大の一撃だった。

 そのような超絶技の前に、ゴブリンが取りえる手段などなかった。

 弟ゴブリンは兄の姿を思い浮かべる。

 絶対絶命な瞬間にはいつも兄を思う。

 どんなときも助けてくれた兄。

 もしも兄がこの状況だったらどうするだろう。

 洞窟で自分たちを襲ってきた人間の冒険者たちを、兄は魔法で撃退した。

 兄ならあの力で、この場を何とかしてしまうだろう。

 何しろ兄はすごいから。

 しかし、弟ゴブリンには、あれが何なのかわからない。

 体から何かを放出しているのはわかる。

 それが自分の体にも流れているのもわかる。

 しかし、上手く外に出すことができない。

 ただし、今はもう上手くできるとか、できないとかではない。

 ここには兄はいないし、兄がいなければ自分があれを出すしかないのだ。

 ただただ、自分の中にある、この何かを外にはきだそう。

 形にしようとかは考えない。

 この何かを吐きだすことだけを考える。

 とにかく全部吐きだしてしまおう。


 弟ゴブリンは背中の木にもたれながら立ち上がる。

 弟ゴブリンから魔力が溢れだす。

 それは竜王にすら匹敵する量だった。

 刀が生みだす渦と、ゴブリンの魔力がせめぎ合う。


 弟ゴブリンの尋常ではない魔力に、ダンの表情がゆがむ。

 しかし、ダンが臆することはなかった。

 刀をゴブリンへと振りおろす。

 弟ゴブリンの魔力とダンの刀が衝突する。

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