3話 レベル上げ【シリウス視点】
俺はゴブリンの巣を旅立ち、エルフの森に到着した。
密集した木々の間を、細い道が一本奥へとつづいている。
巣を出るさいに、弟や幼馴染のゴブリンが俺についてきたがったが、連れていくことはできなかった。
勇者や魔王を倒すことを目標としている旅に、最弱モンスターのゴブリンでは力不足だ。
ゴブリンは弱い。俺はゴブリンの肉体になってからのステータスを確認する。
前世の賢者シリウスであった時の数値から大幅にダウンしている。
人類最強のステータスと、モンスター最弱のステータスを比べているのだから当然である。
それにしても低い。
このままでは、復讐どころではない。俺は強くなる必要があった。
モンスターにもレベルがある。
現在の俺のレベルは24。とりあえず、レベルをマックスの99まで上げたい。
それでどこまで成長できるかだ。
幸運だったのは魔力である。
モンスターは魔素より生まれた生物である。
魔素は魔力の源であり、その魔素で構成されているモンスターは、比較的魔力を多く持っていた。
なので、一般の魔法使い程度にはゴブリンでも魔力があったのだ。
レベルを99まで上げれば、魔力にかんしては人間のときと同じぐらいには保有できそうだ。
効率良くレベルを上げるために、俺はエルフの森でモンスターの討伐をおこなうことにした。
細い道に入り、少し進む。
太陽の光はほとんどとどかない。
しかし、不思議とわずかな木漏れ日だけで、辺りは暗くない。
まるで木々自体が光をだしているかのように、周りはよく見えた。
目の前にあった木が、倒れる。
どうやら早速モンスターに遭遇したようだ。
倒れた木の奥からハイオークが姿を現した。
結構強いモンスターが現れたな、と俺は思った。
エルフの森では、自分よりも少しだけ強い、ギリギリ勝てないモンスターと必ず遭遇する。
エルフの結界魔法でそういう仕組みになっているのだ。
勝てない相手と遭遇させて、帰らせる。
エルフの里へ外部の者を近づかせないための措置だった。
ハイオークはオークの上位互換のモンスターだ。
ゴブリン相手であれば、オークで充分だった。
オークの防御力にゴブリンの攻撃が通ることはないのだから。
それなのにハイオークが出てきた。
もしかすると、現在の俺がレベル24であることが原因かもしれない。
実は、人間の冒険者を殺したときに、経験値が入ってきた。
ゴブリンだと、人間を殺しても経験値が入ってくるらしい。
人間同士で、殺しても経験値は入ってこない。
そこそこに強い冒険者だったので、結構な経験値を獲得でき、レベルが一気に10もアップした。
おそらくレベル24のゴブリンというのは、珍しいのだろう。
まあ、オークがハイオークになろうが、何も問題はないのだが。
本来であれば、ここのモンスターを倒すことは不可能である。
しかし、俺には賢者としての知識と経験がある。
実力差は簡単に埋めることができた。
「風切り」
風の刃がハイオークの首を斬りとばす。
俺の放つ魔法は、いろいろな理を無視している。
ゴブリンのステータスだろうが、魔法自体は人類最強であった賢者のものと変わりない。
ハイオークの首のなくなった体が地面に倒れ、ドスンと音が響く。
モンスター討伐による経験値が入ってきた。
そして、レベルが上がる。
格上の相手を倒すと、経験値は大幅にアップする。
俺はレベルアップを簡単にする。
俺はまた少し森を奥へと進む。
すぐにモンスターと遭遇する。
全身が岩でできたゴーレムだった。
3メートルを超す巨体だ。
ゴーレムが一歩を踏みだすたびに、地面が揺れた。
今レベルがアップした俺に合わせて、また少し強い敵が現れていた。
こいつを倒せば、また格上相手の大量の経験値を手に入れられる。
そしてレベルアップできる。
レベルアップすれば、たま少し強い敵が現れ。
この繰り返しだ。
実に効率的だ。
俺はゴーレムの体を爆破させる。
今日一日でレベル99までいくかもしれない。
俺はにやけながら、エイルフの森の奥へと進んでいった。
8メートルを超える象の体に、オオトカゲのような尻尾を生やした、首から上がライオンのようなモンスターと遭遇する。
初めて見るモンスターだった。
もしかするとユニークボスなのかもしれない。
黒に近い緑色の毒霧を全身からふきだしている。
俺は「風切り」と呟いて、そいつをまっぷたつにする。
そして、レベルアップ。
エルフの森に来てから、4時間がたっていた。
俺はレベル99になった。
実にあっけなく目標達成。
一般の兵士は、だいたいレベル20程度だ。少し強い隊長でもレベル30。
前世でも、レベル99になるのに10年以上かかっていた。
それを4時間で達成できてしまった。
想像以上の効率に、思わず笑ってしまう。
俺のステータスは大幅に改善される。
さすがにゴブリンの肉体なので、人間の時と同じ数値にはならない。
全体的に人間時代の5分の1程度の力までしか伸びなかった。
だが、もともと賢者時代のステータスが高すぎたのだ。
今の数値でも充分最強クラスだ。
そして魔力にかんしては、予想以上に伸びた。
なんと人間のときよりも多くなった。
魔力は魔法の威力に直結する。
今の俺は人間のときよりも強力な魔法を使うことができる。
ゴブリンが賢者と同等、いやそれ以上の力を手に入れた。
これはなかなか面白いことになりそうだ。
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