表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/89

22話 魔王の野望

 世界が平和になればいい。世界平和が魔王の望みだった。


 魔王アルシュは生まれたときから強かった。

 魔王城の玉座に座り、すべての魔物が配下であった。

 魔王不在の間、魔物たちは人間たちに虐げられてきた。

 魔物討伐による経験値や素材欲しさに、人間たちはモンスターを襲う。

 世界が弱肉強食であることはしかたがない。

 しかし、それは食物連鎖のなかの話である。

 人間はモンスターを食べない。

 ただ、己の利のためだけに狩りをする。

 爪を切りとるためだけに、グリフォンの命を奪う。

 ただ希少価値があるというだけで、鬼の角は切り取られる。

 他者よりも強くなり、有名になりたいというだけで、ゴブリンの巣が襲撃される。

 モンスターは、ダンジョン内や森で自給自足の生活をしている。

 人間の街を襲うことはない。

 しかし人間たちは、ダンジョンをまるで釣り堀でも来るかのように訪れ、モンスターを殺していく。

 アルシュは人間の排除を始めた。

 アルシュの前では、人間たちは無力だった。

 弱いモンスターを強いモンスターが守れるよう、組織編成もおこなった。

 自分の身は自分で守れるよう、訓練施設やシステムも構築する。

 幹部や幹部候補には、魔王の力を分け与え、名前をつけた。

 魔物は名前をつけられると強くなる。

 ネームドと呼ばれる、ユニークモンスターに進化するのだ。

 力をつけた魔王軍は、人間たちに奪われた土地を取り返していく。


 そして人間界に、勇者という凶暴な力を持つ存在が現れた。

 勇者は魔物に大量の死をもたらした。

 多くの同志が亡くなった。

 モンスターたちが平和に暮らしていたダンジョンを次々と破壊されていく。

 魔王たちは、打倒勇者を目指し、鍛錬を積んだ。

 レベル上げを精力的におこない、装備品を揃え、特殊なアイテムの入手に尽力した。

 そして、魔王や幹部の魔将の活躍により、見事勇者を倒することができた。

 その後、人間たちに取られた土地もすべて取り戻した。

 魔王はこれ以上の争いは無用と考えた。

 魔王は魔物が平和に暮らせればそれで良かったのだ。

 人間を絶滅させたいわけではない。

 休戦協定を魔王と人間は結んだ。

 人類にとっては、勇者がいなくなり、絶望的な状況であり、この休戦協定は願ったりだった。

 戦闘のない日々がつづき、魔物たちに平穏が訪れた。

 人類も魔物を狩ることができず、素材不足に悩むことになるが、生活水準が落ちても安心して生きていける環境ができた。

 贅沢はなくとも、戦争で多くの人命が奪われていた時を考えると、市民たちはずっと幸福を感じていた。

 そして、休戦協定は8年後、終戦協定へと進んだ。

 世界は平和になった。


 ところが、勇者が死んでから10年後、新たな勇者が生まれた。

 国民は困惑したが、為政者たちは喜んだ。

 権力者たちは、今の貧しい生活に我慢ができなかった。

 昔のように豪遊をしたかった。

 それには魔物の素材が必要だったし、広い土地も欲しかった。

 魔物を倒して経験値を稼ぎ、自身の兵力をレベルアップさせたかったし、その戦力でさらなる力を手にいれたかった。

 また、勇者も己が選ばれた存在であることに、悦になっていた。

 力があるのだから、使ってみたいと思った。


 こうして、人類によって終戦協定は破られた。

 勇者は自身のレベルアップのために、次々と魔物を殺していった。

 国も軍を増強し、いくつものダンジョンを踏破した。

 魔物たちの悲鳴に、アルシュは激怒した。

 そして、2日後に勇者を殺し、4日後に軍隊を全滅させた。

 魔王軍は強くなっていた。前回の戦争の時よりも圧倒的に。

 魔物や魔人は強いものに従う。

 部下の魔将たちは日々成長しているのだ。

 魔王のアルシュとてうかうかしてはいられない。

 もともと歴代魔王よりも優れていたが、たゆまぬ努力によりさらなる飛躍を遂げていた。

 魔王は無敵の存在となっていた。

 そして魔王の強さに惹かれるように、周りの魔物たちも力を得る努力をするようになる。

 それに比べると、人間たちは貧困にあえいでいるだけで、建設的な努力はしていなかった。


 魔王アルシュは、このまま帝国を滅ぼしてしまおうかとも考えた。

 勇者は殺したが、十年後には新たな勇者が生まれるだろう。

 その時は同じようにまた、人間たちは暴れだすに違いない。

 ここで人類を滅亡させておいたほうが憂がなかった。

 しかしアルシュにはそれがためらわれた。

 勇者や為政者、軍人を殺すことに躊躇はない。

 だが、市民を殺したくはなかった。

 市民たちは魔物に害をなさない。むしろ魔物のほうが無害な人間の市民に怪我を負わせることがあった。

 彼らは弱者であり、被害者であった。

 魔王は彼らを殺したくなかった。

 人間は終戦協定を無視し攻めこんできた。

 だが、魔王は今回も休戦の提案をした。


 しかしここでまたも意外な行動を人間の為政者はとった。

 休戦を受け入れず、戦争をつづけたのだ。

 勇者もおらず、軍も壊滅しているのに。

 彼らは市民に武器を持たせ、本土決戦を強要したのだ。

 軍人で勝てなかったものを、市民でどうこうできるはずがないのに。

 当然、魔王は帝都を攻めることはできなかった。

 市民に被害をだすようなことはしなくない。

 魔王軍がそのように足踏みしているうちに、帝国では軍がまた再編され、勇者が生まれた。

 そして、それを魔王や魔将がまた破る。

 数百年とそれが繰り返された。


 魔王は毎年、休戦協定の提案をおこなっていた。

 しかし人間たちは、毎年それを無視した。

 魔王の言うことなど信じられない、というのが拒否した理由だった。

 人類こそが終戦協定を破ったというのに、そんなことはすっかり忘れさられていた。


 魔王アルシュはこの状態の打開策を探しつづけていた。

 そして、昨日、王都に侵入したさいに、その答えを見つけた。

 アルシュは、エルダと身分を偽り、王都に潜入した。

 賢者シリウスの死の原因を調べたかったためだ。

 その死には不審なところが多くあった。

 人類の本丸に、部下を送りたくはなかった。

 彼らが本気になれば、簡単に王都は滅んでしまう。

 部下は魔王ほど平和主義者でもない。

 争いを楽しむタイプだ。それが魔物の本質ではあったが。

 なので、魔王自身で潜入を試みた。

 思ったとおりすぐに正体はバレてしまったが、おかげで賢者シリウスの死因はわかった。

 現勇者の犯行であることが。


 魔王アルシュはダンたちに正体がバレると、すぐに魔王城に帰還した。

 そして、魔将の3人を玉座に集めた。


「お前たちにやってもらいたいことがある。

 勇者をさらってきて欲しい」


 アルシュが目の前にいる魔将3名に言う。


「勇者を誘拐大作戦ですね」と、女性の魔将が言った。

 クスクス笑っている。


「どうやら、現勇者は我々が思っている以上に弱い。

 あそこまで弱いのは異常だ。

 万にひとつも我々を傷つけることはできないだろう。

 勇者は殺しても、十年後にはまた別の勇者が現れるだけだ。

 だが、逆にあの弱勇者がずっと生きつづければ、人類に希望などなくなる。

 勇者を魔王軍で捕らえる。

 勇者は殺さずに、生かしつづける。

 あの勇者ならそれは容易だろう。

 滑稽極まりない勇者の状況に、全人類が絶望するだろう。

 勇者が賢者を殺害したことをバラせば、さらに人類は失望のどん底に落ちていくだろう。

 もしかするとあの愚行の極みの勇者が、ある意味世界を平和にするのかもしれないな」


 魔王は3人の魔将の顔をそれぞれ見ていく。

 笑みを浮かべる魔将と、無表情の魔将、真剣に耳をかたむけている魔将に、それぞれ目を合わせていく。

 魔将たちの表情から内面は読みとれない。

 魔王にも実際のところ魔将たちが何を考えているのかはわからない。

 力があり、命令を遂行してくれればそれでいい。

 魔将の内心など魔王には関係なかった。


「勇者一行はエルフの里を目指すようだ。

 お前たち3人はそこで勇者を生け捕りにしろ。

 本来なら、魔将を3人も送り込むのは過剰戦力なのだが、ラージのこともあるしな。

 それに竜王も動きだしたようだ。

 また、あの剣聖は思ったよりも強い。

 今までは賢者シリウスの陰に隠れていたが、あれも歴代最強の剣聖だ。

 一応、油断はしないほうがいい」


 魔王はまた、言葉を一度きり、魔将を見渡す。

 魔将たちの表情に変化はない。


「いいな、勇者は決して殺すな。

 聖剣ごと生きたままこの魔王城に連れてこい」

「はっ」と魔将3人が頭をさげる。


 魔王は綺麗に、返事を返した3人に、うなずく。

 話を切り上げようとしたところで、重大な注意事項を思い出し、伝えておく。


「それとあの勇者は本当に脆弱なので、扱いは丁寧にするように。

 雑に扱うとすぐに死んでしまうだろう」


 魔将の3名は、エルフの里へと向かった。

 こうして、賢者シリウスとともに竜王の襲撃を待ち構えるエルフの里に、勇者パーティと、レベルが異常に高いゴブリン、魔将の3人が一同に会することとなる。


 翌日、エルフの里で竜王の襲撃が始まった。

次々と展開されるストーリーをここまで読み進めていただき、ありがとうございます。

いよいよ次回より竜王戦の開幕です。


明日は2話投稿し、それ以降は一日1話の投稿としようと思います。

引き続き、お楽しみください。


明日から仕事です。

本日がゴールデンウィーク連休の最終日。

どうして自分は無理してでも明日と明後日、有給休暇を使わなかったのでしょうか?

疑問です。


楽しんでいただけましたら、ブックマークとポイント評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ