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16話 読書好き

 エルフの里のエルダは、何度見てもこの光景になれることができなかった。

 図書室で本を読み漁っているゴブリン。

 もう三日間ずっと、本を読みつづけている。

 ゴブリンが読んでいるのは魔術書であり、楽しいものではない。

 わざと理解しづらいようにしているかのような表現と、辞書のはしごをしないと意味を調べられないような文言が使われている。

 エルダも魔術書を読むことはある。

 魔術師なら誰もが読まなければいけない。

 エルダはルルージュの後継者として育てられていたので、特に魔術書の精読は強要されていた。

 しかしその難解さに疲労がひどく、8時間向き合うのが限界だった。

 このゴブリンは12時間以上かかりきりである。

 読むペースも速い。なんといっても、ゴブリンが笑みを浮かべているのがおかしい。

 まるで漫画でも読んでいるかのように、魔術書にかじりついている。

 モンスターが文字を読めること自体異常だが、勤勉なのも異常だ。

 本来なら勉強家には尊敬の念を抱くものだが、この熱心さには恐怖を感じる。


 ただ、ゴブリンは不器用だった。

 本ページをめくる時に、ページを破ってしまうことがあった。

 ゴブリンは慌てる。魔術書は貴重品だ。

 誰かに見られていないかと、キョロキョロと周りを見渡し、評価の悪い通知表を隠す小学生のように、急いでページを進めて破けたページを隠していた。

 エルダはそんなゴブリンをちょっと可愛らしいと思った。


 ドラゴンの群れの襲来後、ゴブリンはこのエルフの里に滞在することとなった。

 いつまたドラゴンが襲ってくるかわからない状況であり、エルフとしてはこのゴブリンの力を必要としていた。

 ゴブリンは力を貸すかわりに、条件をだしてきた。

 その要求がこのエルフの里にある魔術書の閲覧だった。

 エルダたちはその要求をのみ、ゴブリンは読書漬けとなった。


「ゴブリン殿、そろそろ会議の時間となります。

移動をお願いできますでしょうか」


「わかった」とゴブリンは本を閉じる。


 魔術書を棚に戻して、エルダと共に族長の家へと向かった。


「ゴブリン殿は、毎日図書室に閉じこもっていますが、たまには散歩などされた方が、良いのではないでしょうか?

 良い気分転換になりますし」


 エルダは歩きながら、会話をふってみた。

 これから共闘をする仲間であるので、少しでもコミュニケーションをとっておこうと思ったのだ。


「散歩は苦手なんだ。目的地がないのに外に出て、結果的にまた家に戻ってくるのなら、最初から家にいればいいじゃないかと考えてしまう」


「そうですね」エルダはひるんだが、もう少し頑張ることにした。


「ゴブリン殿は、楽しみなどはないのですか? 趣味など、何かありませんか?」

「ない」とゴブリンは応えた。


 エルダはさらに頑張った。


「我々エルフは、美しいものが好きです。

 エルフは人間嫌ですが、実は人間が作りだすものは好きなのです。

 人間の生みだす、絵画や音楽、陶芸などの芸術品を、エルフは収集しています。

 どうして人間のような下賎なものに、あのような素晴らしい作品を作ることができるかはわかりませんが、とにかく、それらは我々エルフを虜にしています。

 画家のエルムントスが描いた「老人の座布団」を見たときは、感動のあまり涙を流したものです。

 ゴブリンさんには、そのような美しさを感じることはないのですか?」


「ない」


 エルダは会話を諦めて、族長の家に黙って向かった。

 ただ、族長の家が道の先に見えてきた時、ゴブリンは唐突に言った。


「そういえば、ロジンの使った「華園」で見た、花畑は美しいと感じたな」


 エルダは最初、ゴブリンが何のこと言っているのかわからなかった。

 しかし、先ほど自分がした質問に答えてくれたのだと気がついた。

 これまでずっと考えていて、ようやく見つけだしたのかもしれない。

「華園の景色はとても美しいらしいですね。

 まあ、たいていはあの景色を見たものは、そのままあの世いきですので、鑑賞には覚悟が必要ですが」


 エルダは笑顔で言った。


 族長の部屋にはすでに、参加メンバー全員が揃っていた。


「早速だが、ドラゴン襲撃の対策会議を始める」ルルージュが言う。


「群れないはずのドラゴンが集団で襲ってきた。

 結界が弱まっている箇所とはいえ、エルフの里の結界を破られた。

 人間の帝都も赤竜の襲撃を受けたらしい。

 ドラゴンの動きが活発になっている。

 状況から見て、導き出される答えはひとつだ。

 竜王が目覚めた」


 ルルージュの言葉は、誰もが予想していたことだった。

 しかし、こうして口にされると、その重大さを改めて感じる。


 竜王はドラゴンを束ねる王であり、太古の時代から存在している。

 5000年前の文献にも登場している。

 文献の竜王と、現在の竜王は同一個体だ。

 竜王は少なくとも、10万年は生きていると言われている。

 竜王は破壊を好んだ。

 世界に存在する、自然以外のものをすべてを破壊した。

 竜王の目に入ったものは、すべて崩壊されている。

 世界樹も過去に何度もなぎ倒されている。

 竜王が目覚めてまず最初に破壊するのが、世界樹だ。

 世界樹の根は、世界の基盤だ。

 一番壊しがいがあるのだろう。


 しかし、竜王にも弱点がある。

 睡眠時間が長いことだ。

 2年から3年活動した後、竜王は眠りにつく。

 竜王は一度の睡眠で、500年寝る。

 2、3年我慢をすれば、脅威は去るのだ。

 世界樹の幹は倒されてしまうが、世界中に張りめぐされた根は、どこかしらで枯れずに残っている。

 根があれば、時間はかかるが、世界樹は復活できる。


「しかし、今回はミミがいる」ルルージュが話をつづける。

「竜王はミミを食らいに来るだろう。

 ミミは特別な存在だ。

 ゴブリン殿にはエルフの秘密であるため、ミミの存在については説明できないが、竜王はミミの力で活動時間が伸びる。

 次の睡眠までの時間が2、3年ではなく、数十年になる。


 数十年竜王が蹂躙すると、当然ながら世界は滅ぶ。

 我らは、ミミをなんとしても守りぬかなければならない」


 ルルージュは、一同の顔を見渡す。

 竜王の強さは、魔王以上と言われてる。

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