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10話 エルフの大賢者2【シリウス視点】

 エルフの里への侵略に失敗し、王都に戻ってきた兵士たちは、帰還後、激しく疲弊していた。

 兵士たちには、1週間の休養が与えられたが、それでもその疲れは取れなかった。

 それどころか、逆に疲れがたまっているようだった。

 国に選ばれ、厳しい訓練を受けた兵士たちである。

 たとえ、どれほど厳しい戦いであっても、心身にここまでダメージが残ることは珍しかった。

 体力の衰えはひどく、すぐに疲れるようになっていた。

 白髪や薄毛が目立つようになり、肌にはシミやシワが広がっていた。

 身体に変化が現れていたが、それは病気ではなかった。

 医師たちは、原因を調べたが、そこに異常は見つけられなかった。

 生命活動としての問題はなかった。


 しかし、2週間後に原因はわかった。

 それは医師でなくても、その人物の外見を見れば、誰でもわかる現象だった。

 エルフの森より帰ってきた兵士たちは、年をとっていたのだ。

 帰還後、2週間で10年は老け込んでいた。

 兵士たちの体調異常の原因は、老化だった。


 一ヶ月後、さらに10歳年をとった。

 二ヶ月後も三ヶ月後も、進行は止まらなかった。

 四ヶ月後、ようやく老化はおさまった。

 しかし、その頃には皆、老人になっていた。

 二十代前半だった若者が、70歳を超えるお爺さんになっていた。


 それ以後、人間はエルフの里には近づかなくなった。

 大賢者ルルージュがどのような魔法を使ったのかは不明だ。

 しかし、老化現象は時間を操作しないと不可能である。

 時間を操る魔法など、存在するはずがなかった。

 そんなことをしたら世界の理自体が狂ってしまう。

 時間の流れを変化させることができるのは、神様のみだと考えられていた。

 それをルルージュはおこなったのだ。

 この事件は、大賢者ルルージュが大精霊の力を使うことができることの証明となった。


 時魔法は、魔法の到達地点と言ってもいい。

 もちろん、賢者であった俺も使うことはできない。

 目の前にいるこのルルージュは、それを使うことができるのだ。


「お待ちください」


 エルダが、ルルージュと俺の間に飛び込んできた。

 ルルージュから俺をかばう。


「ルルージュ様。彼はミミを助けてくれた恩人です。

 その恩人に武力で応えるのはあまりに無粋です。

 ロジンとの諍いも、このゴブリンは仕方なく応じたにすぎません」


 エルダは俺を守るために、ルルージュに懇願をしてくれているようだが、この場合はちょっと邪魔だ。

 ゴブリンの俺にも優しさを持ってくれているのはありがたいが、折角のルルージュの魔法が見られる機会である。

 これを無にされては、たまったものではない。


 俺は、エルダに転移魔法をかける。

 この場から、少し離れたところに、移動してもらおうと思った。

 しかし、俺がエルダに魔法をかけようとした動作に、ルルージュは素早く反応した。

 俺がエルダに対して害をなそうとしていると、誤解をしたらしい。

 攻撃魔法をエルダに放つと思ったのだろう。


 エルダへの転移魔法が発動する前に、魔法はルルージュによって打ち消される。

 そして拘束魔法が俺の全身を縛っていた。

 金色に輝く巨大な木の根が、俺の体に何周も巻きついている。

 一瞬のことであり、俺はまったく対処できなかった。


「エルダ、下がっていなさい」


 ルルージュはエルダを後方に転移させた。


「お主を縛っているのは、世界樹の根だ。

 魔力の扱いに長けているお主なら、この世界樹がどれほどの存在か感じ取れるだろう。

 世界の根幹をなす木だ。

 お主はどう足掻こうと、そこから抜け出すことはできん」


 確かに、世界樹と同じ魔力をこの根からは感じられた。


「世界樹を操れるとは、さすがはルルージュ様です。

 世界樹相手では、俺にはどうすることもできない。

 ただ、ルルージュ様もお歳のようだ。

 術者であるルルージュ様の魔力が心もとない」


 俺は世界樹の根をほどく。

 俺の魔力を世界樹に流し、今度は自分が世界樹を操作したのだ。


 拘束系の魔法は、かけられた者の魔力が術者の2倍以上あると、効果を発揮しない。

 ゴブリンになり、レベル100を超える俺には、賢者時代よりかも多くの魔力がある。

 伝説の大賢者といえども、魔力量では俺に歯が立たなかったようだ。

「確かに歳をとったよ。

 でもね、ゴブリンに負けるほど衰えちゃいないよ」


 老婆の持つ杖が一瞬輝く。

 風の刃が無数に飛んでくる。

 「風切り」だ。

 そういえばこの魔法は、この人から始まったものだった。

 ルルージュがかつての勇者パーティーに伝授した。

 俺が最も多用している魔法の、オリジナルである。


「風切り」


 俺も同数の風の刃を作り、ぶつける。

 風の刃が衝突して、荒れ狂う風に分裂して、飛び散る。

 威力は互角だった。


 しかし、ただ風切りを乱発するのと、それを迎撃するのとでは、難易度がまったく違う。

 次々に飛んでくる風の刃に対して、正確に同じ軌道に風の刃を打ち返す。

 そこには圧倒的な技量が必要だった。

 つまり俺の方が、魔法技術も圧倒していたのだ。

 ルルージュもそのことは理解している。

 ルルージュだけでなく、周りにいるエルフたちも、そのことをわかっているようだ。

 圧倒的優位を確信していた彼らの顔に、余裕がなくなっている。

 ルルージュの表情にも、驚きが見える。

 そして、これまでにはなく真剣な目つきにで、俺を睨んでくる。

 ここからが本番だ。

 大賢者ルルージュがいよいよ時魔法を使ってくるだろう。

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