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9.時間概念の違い

「そういえば……今日の5の刻に日蝕があることをどーして知ってたのォ?」

テーブルの上で木苺のような果実を食べていた白蛇のユターノがくるりと尻尾を丸めてとぐろを巻き、ラズラを見上げた。


「どうして……とは?15日の間を経た次の5の刻に日蝕は起きます。金環になった時を5の刻の基準として、次の日蝕までを16等分した1つの長さを1日、その1日を10に分けたものが刻の基準とされているそうですが」


「へェー、じゃあ16日ごとの5の刻にはいつもちゃんと日蝕が起きてるの?」

ユターノが意外なことを聴いた、と言うように目を丸くする。金環日蝕なんて私の世界じゃ滅多にお目に掛かれない。自分の生活エリアで金環どころかかなり欠けるのが見えるだけでも数十年に一度規模の貴重な天体ショーの機会!と大騒ぎしてる。年に数回程度しかない計算上で観られる場所だという海外までわざわざ出向くツアー企画があるくらいで、一定のタイミングの同じ場所で当たり前に何度も観られるような現象じゃない。


「えぇ……?それが自然現象ですから……」

ラズラはユターノや私が驚いている理由が全くわからないようで逆に不思議そうな顔をしている。不変的に続いているのだからそれが普通で、だからこそ時間の基準ともされているのだろう。


「いつだって明るいのに、休む時間はどうやって決めてるの?」


「大体8の刻から翌3の刻までを【夜】として皆が共通の認識を持ち、お互いに休むことを優先事項にして、商売や会合をできる限り行わないと決められているのですよ」


なるほど……ずっと明るい世界じゃ休む時間を強制的に共通認識させておかないと、確かにお店とか色々な場面で困りそうだ。

コンビニとか24時間営業していたけど、アレは敢えて夜に閉めてる店が多いからこその価値であって、どの店も施設も24時間営業だったらどうなるのか見当もつかないけど単純に便利だなんて言っていられない……皆がツラくなってルールを決めよう!って流れになるのも何となく想像できるなぁ。


少し離れた所でバーベナと遊んでいるレピを見守っていたモレイも、ラズラの話に頷いて何やら自分の感覚との差異を確認しているようだ。


10刻が1日で、偶然にも24時間にかなり近い状態なのか。16日毎に確実に起きる日蝕に動かない太陽……うーん、理解するためのアタマの許容量が足りないよー


「じゃあラズラが15歳ってのはー?1年ってどれだけの日数なの??」

ユターノがガンガン疑問をぶつける。どうやらこの機にある程度この世界の状況や基礎知識を収集するつもりらしい。頼りになるなぁ。


「そうですね……1回目の日蝕の日をその月の1日目として、次の日蝕前日までを上旬・2回目の日蝕から次の日蝕前日までを下旬と呼び、その2つを一組として1ヶ月としています。10ヶ月で1年で、今日は(コル)の月の1日ですよ」


ん??そうなると1年は320日。私の世界と年間に1ヶ月半のズレがあるってことだから、ラズラの15歳も私の感覚だと13歳くらいになるってことか………って、逆に21歳の私、こっちの世界じゃ24歳か…………フフ……急に老けた気がする。



「ねぇ、火は?火はッ?火に祈ることはしないのぉー??」


カイマックがユターノにのしかかるように身を乗り出してラズラに問い掛けた。大樹へ祈りを捧げているのを見て、火も信仰の対象なのかがどうしても気になるところらしい


「もちろん火も祀っておりますよ。ここノルモーの神殿は導きの神ネクティユ様を主祭神にしておりますが、ティハチ神殿は火の女神ネーユメイア様を祀り、火の神殿と呼ばれております」

ラズラが微笑んだ。


「わーい♪火のシンデンだってー」


小さな羽根をパタパタさせて無邪気にカイマックが喜んでいるのを見たバーベナがニコニコと近くに寄ってきて「火がお好きなのですか?」と聞いてきた。そういえば人前で火を使わせたことがないので火蜥蜴(サラマンダー)ってこと自体を知らないのかも。


「カイマックは火を使うからね……火への思い入れは人一倍みたいだよ?そうだ、カイマックはずっと一定の息で火を吐ける?」


ちょっと思い付いて、お茶受けのエッグタルト風のお菓子にお茶の甘味用の砂糖をパラパラ振りかける。タルトの上面を指差してお願いするとバーナーのように火を吐いてくれたので、焦げるまで溶けた砂糖がカラメル状になった。


「わぁ……本の中だけだと思ってた火蜥蜴(サラマンダー)を初めて見ました。これは何ですか……?とても甘いイイ匂いがします」

バーベナはカイマックにもカラメリゼされたタルトにも興味津々だ。


「砂糖を焦がして作るカラメル。少し苦く感じるかもしれないけど砂糖なんだから甘いよ。このタルトに合う味のはずだし、カリカリした食感も面白いと思う」


エッグタルトは、卵と牛乳と砂糖にとろみをつけた……言わばカスタードクリームをタルト生地に詰めたもの。同じような材料を型に入れて蒸して加熱することで固めたのがプリン……だからカラメルは絶対合う。キャンプ飯で食パンに砂糖かけて簡易バーナーで炙ったシュガートーストが香ばしくて美味しかったんだよね……。


「ラズラ様、半分こしましょう」

バーベナが侍女に分けてもらった半分のタルトを自分の皿に取り、一口分をそっと口に運ぶ。


「美味しいですっ!」

眼を輝かせ、尊敬の眼差しを向けてくる。

「スゴいです!お砂糖と火しか使ってないのにこんな不思議な味、今まで知りません!」


「少しの苦さは香ばしさとも言える絶妙なアクセントですね……本当に砂糖一つで馴染みのあるタルトの味がここまで変わるなんて不思議です」


二人から大絶賛されて何だか照れてしまう。別に発明したわけじゃなくて知ってただけだし……鍋で作るカラメルや飴は砂糖があるなら多分既にある技術だと思うけれど、表層を焦がすのはバーナーみたいな小回りの利く火じゃないと難しいしそういう意味では珍しいんだろうな、とは思う。


「もういっこ作るぅー!オイラも食べたいっ」

自分がしたことを絶賛されて得意満面なカイマックがせがむので、別のエッグタルトに砂糖をトッピングしてカイマックの前に置いてあげると嬉々として火を吐き、カラメリゼにしたエッグタルトもう一丁上がり、である。


「おいしーねぇ」

試食したユターノやレピ、モレイも誉めるのでカイマックはますます得意気だ。ちなみに飛行系のコ達は焦げた匂いが苦手のようである。本来なら山火事などへの遭遇を本能的に忌避しているのだから仕方ない。飛んで逃げるわけにもいかず、棲息域に勝手にヒトが侵入してきたような行動域の狭い小動物系の方が、ヒトの生活に伴うニオイに慣れてしまっているのかも……


「もっとやるぅー!」と言い出したカイマックの姿に、調子に乗じてテンションが異常上昇する子供のような危険性が垣間見えたので……さすがにやたらめったら火を吐かれる事態になったらマズイ!と何とか宥める手段を考える。


「もー、火がスゴいってことは分かってるからさァ……でも焼き尽くすキョーフもあるからこそ崇められるくらい神聖なものなんだよー?気軽に吐いちゃダメだって。ここぞ!で使うからカッコイイの、分かるでしょ?」


……流石知恵者ユターノ。のんびり口調ながら相手を上手く持ち上げて宥め諭してる……。手腕に感心していると「最後のいっこだよ?」と別のタルトを示し私に目配せしてきた………え、ソレ?ソレをカラメリゼするの???と戸惑いながらそのタルトの上に砂糖をかけてカイマックに差し出す。


「うん、これで最後にするー」

納得したようにカイマックが火を吐き、綺麗にカラメルがけにされたそのタルトを皆で少しずつ食べる…………うん。やっぱり…………

ユターノが示したのはレモンのような柑橘のタルトで、酸味と苦味のある柑橘系にはカラメルの苦味は多分合わないんじゃないかな……と思っていたのだが案の定、複雑な大人の味……いやビミョーだった


「何でも美味しくなるってわけでもないのね……」と呟いたレピに皆で苦笑いしながら同意したのでカイマックはちょっとガッカリ顔になってしまった。

「能ある鷹は爪を隠す、だよ」とユターノが励ましたが、さすがにことわざまでは知らないカイマックが「鷹は爪を隠してるの?」とラーティカの爪を確認しようとキョロキョロしだしたのがものすごく可愛くて和む。


「私はカイマックのこと頼りにしてるから、これからもよろしくね」

そっと頭を撫でると嬉しそうに頷いてくれた……煙草を吸うときは確実にお世話になりますし―――




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