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7.とりあえず朝は来た

女神に話し掛ける痛い子に見える方がまだマシ……って意味にも聞こえるのだけれど、私そんなに透けてるの……?


ふと周囲を見回せば、先程外で会った従者達は私の視かたが分かっているのか平然としているが、食堂付きの世話人は聞いてはいたけど信じられないというような目で見ている気がする……!確かに私が視えなければカトラリーが空中を舞ってるようにしか見えないかも……相当重症な透過率なのね……


……だとしたら私はラズラと一緒にいる方が良さそうだ。ラズラには私がちゃんと視えていて、私を周囲に理解させる環境も揃えることができる……視えない私じゃ食べることにも困りそうだし、出会ったのがラズラでむしろ良かった!アイリに似て可愛いしイイコだし可愛いし!


「お野菜ばかりのお食事で申し訳ありません……明日がエクリッスの儀式なので、精進料理なのです……。もしよろしければ明日の儀式にお付き合いいただけないでしょうか?少し確かめたいことがあって……」


「別に構わないですよ、予定もないし……。儀式、見てみたいです」


「では明日、4半の刻に。準備のために3の刻には侍女を向かわせますね」


ラズラとの食事を終えて部屋に戻った私は、分けてもらった野菜や穀類をブルーム達に与えてみた……動力的な仕組みがどうなのか分からないけどブルームはあちこちで草を食んでたし、他の子も木の実とか食べてたのを見たから多分生命体としてのエネルギー確保に食べ物は必要なのだろう。

それぞれ自分好みのものを食べていた……動物が食む姿って可愛いなぁ。ものすごく癒される。レピが頬袋パンパンにしてるのを思わず笑ったら睨まれちゃったけど。



お風呂なんて設備は無かったので(……いや当たり前な日本が逆に結構特殊だってことをいい加減認識しておいた方が良いんだけど)お湯をタライに張ってもらい顔や頭皮を湯だけで洗い、身体を拭いてとりあえず一応サッパリできた。ツーリング仲間とキャンプしたりして多少慣れてて良かったよ……風呂設備がなくても凌げてる。


ロングTシャツのようなゆったりした部屋着を借りて着替えて一息ついているとまたメロディの違う鐘の音が鳴り響いた。


「9の刻なので、お休みになれるようにカーテンを閉めさせていただきますね」


部屋のお世話をしてくれた侍女達が、かなり厚手のカーテンを閉めていく。陽が沈まず明るいままの世界だから敢えて眠る時間を決めて生活しているのだ、と言ってたなぁ……遮光の効いたカーテンで部屋は暗くなり、暗さにつられるように眠気が襲ってきた……そういえば明るかったし時間感覚がなかったから気付いていないだけで結構長い時間を起きてたのかも……。


明日の予定……返事したものの、時間感覚が全く分からない。時計が簡単に各部屋にあるわけでもなく、どうやら鐘の音が広範囲に時間を伝える手段のようなのだが、外の明暗さや陽の位置での大体の時間帯判別もできず鐘のメロディもまだ覚えることすら出来ていない自分には今が昼なのか夜なのかさえ分からない。



「モレイはこっちの時間感覚、わかった?明日3の刻に起きてなきゃならないみたいなんだけど……」

あくびしながら何となく訊ねてみる。


「そうねぇ……さっきの9の鐘が眠る時間、7が夕刻と呼ぶような時間……その間隔と、起きる時間が3……だとすると……あくまでも予想でしかないのだけれど、仮に1日を24時間のままで考えるのなら10に分けている感じかしら……」


うーーーん、判るような解らないような。まぁ時計のモレイが時間感覚を掴めそうなら時間に関しては何とかなるか。


「正確とまではいかないかもしれないけれど、とりあえず明日の3の刻少し前に起こせると思うわ……おやすみなさい。」


優しく言われ、祖母を思い出しながら私は眠りに入っていった……この世界は夢で、目が覚めたら戻っていられたらいいなぁ――――



…………


「おはよう、お嬢さん。起きる時間ですよ」


懐かしい祖母の声に優しく起こされる……が、目が覚めても神殿の部屋の天井だった。


はぁ。夢じゃなかったのか……

寝惚けた頭で夢じゃない世界を認識する。


起こしてくれたモレイにお礼を言って、まだ中に潜り込んでいるユターノやレピを起こさないようにそっと布団を抜け出し……椅子の背に掛けたジャケットの胸ポケットの中で丸くなって眠るコウモリ兄妹の可愛らしさにほっこりしながらとりあえずパーカーとズボンに着替え、カイマックに目配せして煙草を持って中庭に出るドアを開けた。


う、眩しい……!


「うわー、朝なのに真昼みたい」


パーカーのフードに入り込んだカイマックも眩しそうに眼を細めた。相変わらず太陽はほぼ真上にあって……煙草に火を着けてもらって吸っても何だか朝の爽快さを感じられない。陽が沈むことがないと、気温変化がほとんど起きないから朝の冷えた空気の清涼感が無いんだな……不思議な発見だ。


そういえば煙草はこの世界でも手に入るのかなぁ……残りはあと数本だ。悪習慣なのは分かってるからいい加減止め時なんだとは思うけど、無くなったら強制的に止めざるを得ないんだからまぁその時に我慢すればいっか、と問題を先送りにする。





そういえば―――――


ユターノ、今までスマホで検索したことがあることは憶えているって言ってた……。


煙草を吸いながらふと思い付いて、中庭をぐるっと一周しながら生えてる植物を確認する。期待通りに昨日の夕食でも使われていた香草類のいくつかが植えられたハーブガーデンが厨房近くにあったので思考を巡らす。何もすることがなく時間が余ってるくらいなら試す価値もあるかな?



3の刻の鐘が鳴った。


準備があるんだった……と部屋に戻ると既に侍女は来ていて、視えない私にどちらに呼び掛ければ良いのかタフタしているようだった。中庭から繋がるドアが開いたことで私の居場所を掴めたようだが、かなりはた迷惑な存在ですね……ごめんなさい。


「外にいらしたのですね……失礼いたしました。カーテンを開けさせていただきます。」


部屋に陽の光が入り一気に明るくなる。侍女が私を視て少し首を傾げた気がしたのだが……よく分からないまま食堂へ案内される。

朝食は具だくさんのスープ。穀類もどちらかと言えばスープに入れて食べるスタイルなんだな……リゾットとか雑炊みたいなものだと思えばあんまり違和感がない。


ラズラは儀式の主要司祭なので早々に朝食を終えて準備に取り掛かっているらしい。そういえば昨日の化粧や腕の装飾模様もかなり凝ったものだった。でも儀式後には落とせてしまっていたのだから、毎回描き込むものなんだろう……想像するだけで大変そう……施されている間、じっとしてなきゃならないんだろうし……


食堂ではバーベナも朝食を摂っていた。確か彼女にはかなりはっきり私が視えているはずなので、目があったときに笑いかけてみる。

恐る恐るといった感じではあるものの笑い返してくれたので一安心。できれば5、6歳くらいのまだあどけない幼女から怖がられたくないよ。


「カーヤ様は動物とお話しできるのですか?」

聞いてみたかったんです、と言わんばかりの勢いで唐突に話し掛けられた。


「どうなのかな……来たときから一緒にいる子達とは話ができてるみたいだけど、昨日森で見掛けた鳥の言葉は解らなかったよ?」


いや本当は蝙蝠ツインズ(イヤホン)の機能で通訳されてしまうのかもしれないけれど……あらゆる動物の声が人語で聞き分けられてしまったら恋の歌とか人への文句ばかりで結構キツいかも。下手したら弱肉強食世界の断末魔とかも聞こえちゃうんだよね……迂闊に全方向通話展開したくないや。


「そうなのですか……」


ちょっとガッカリされてしまったみたい……うっ、ゴメンよぅ。

「話をしてみたい動物がいるの?」

動物と話したいって単純なメルヘン思考なのかもしれないけど、話題を繋げようと試みてみる。


「窓辺にくる鳥とか……話ができたらさみしくないのかもしれないな、と思って……」


あー。バーベナちゃんも寂しいと思いながら日々を送ってるんだ……まだ幼いのに神殿にいるのには巫女的な理由が何かあるんだろうけどラズラと一緒だな……


「そっか……今度、時間があったらうちのコ達と遊んであげて?」

少し明るくなった顔で嬉しそうに「はい」と返してもらえて少しホッとする。


「バーベナ様もそろそろお支度を」と侍女から言われ、バーベナも部屋に戻って行った。私も食事が終わったのでとりあえず部屋に戻ろうと席を立ち上がって食堂出入口へのドアに向かおうとしたとき……他の席を片付けようとしていた給仕の子がガチでぶつかってきた。


「……………っ!申し訳ありませんッッ!!!」


ぶつかった質感で誰かにぶつかったのだとは分かったのだろうが、視えていないためぶつかった相手が分からずキョロキョロしながら謝り倒している。食器なども運んでいなかったので別に何の被害は出ていないし、視えないというのならぶつかるのも仕方ないと思う。むしろ私の方が避けるべきで、相手の回避を期待しちゃダメだし……。別に気にしてない意を私のことが視えている侍女に伝え、失態に半泣きになりそうになっている給仕の子をフォローしてもらった。


うーん………。鈴とか付けたら多少存在を認識してもらえるのかな………何か方法を考えた方が良いのかも……




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