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6.状況確認

要するに名前を訊ねられたのだ……が。


装飾語過多の文言に処理能力が追い付かない……。えーと精霊達を従えた……ってこのコ達のことか?モノだったものが生命体として具現化してる時点で確かにかなり不思議だけど……この世界では精霊って呼ばれちゃう存在になるの?みんな当たり前のように私についてきちゃっているだけで従えてはいないと思うけどな。


先程の厳然な佇まいが一変し、憧れの先輩を見つめるような……尊崇の眼差しと微笑みをラズラ様に向けられ、戸惑いが隠し切れない。


「名前………は茅場……カヤバ リナ」



「……カーヤヴァルナ様!?!」

ラズラ様の眼が輝いていっそう大きく見開かれた。顔は紅潮し歓喜にうち震えているかのようだ……いやこれかなり誤解されてる気がするわ……どうしよう。


「いや、ルナじゃなくて理名。貴女が誰と勘違いしてるかは知らないけど違うって」

「いえ、私が崇拝する大いなる命の女神にお名前が似てるというだけでも何かの縁ですッ!是非カーヤ様と呼ばせて下さいませ!」

へらりと苦笑しながら手を振って否定したのだが、そんな私の手をガシッと掴んだラズラ様に熱っぽく語られて何も言えなくなってしまう。


あれ、そう言えば手……握られてる?

霊体ってすり抜けちゃうものなんじゃないの?


「ラズラ様、カーヤ様がお困りのようですよ……とりあえず神殿に戻りませんか………?」

バーベナが遠慮がちに声をかけてきたことでハッと我に返ったのか気を取り直したラズラ様が「是非一緒に来てくださいませ」と歩き始めたのでついて行くことにした。


………



神殿で客室を用意されたけれど、さすがに馬を部屋に上げるわけにもいかないよなぁ……と中庭のベンチに腰掛けて空を見上げていた。草原でモレイが不思議がっていたように……随分時間が経過しているのは確かなのだが、陽の位置がほとんど変わっていない気がする。


「ここはさっきの草原とは違って普通に人々が生活している街がいくつもあるわね」

「位置情報の感覚が合わない場所だな……」


大樹のところで離れていたラーティカとタグが舞い戻ってきた。タグは元々バイクに取り付けて電源を共用させていたせいなのかブルームが居る場所なら離れていても判るらしい。


「位置情報?」


「緯度と経度と太陽との関係性が……天体としての法則が地球とは全く違うって仮定しないと辻褄が合わないくらいに変なんだ……」

今までの感覚で単純に太陽の位置から方角を割り出せない、とタグは困っているようだ。


「太陽がほとんど位置を変えないことと関係があるの?」


中庭にある切り株を見ると、よく言われる年輪の幅が広いのが南・狭い方が北……なんて通説とは全く違い、間隔の広い・狭いの差はあるものの方角の方向性がない等間隔な年輪だった


「白夜、って知ってる……?」

ユターノが呟いたとき、高らかに澄んだ音階の……夕暮れ時に聴くようなどこかしら哀愁のある音色の鐘の音が鳴り響いた。



「こちらに居らしたのですね……もしよろしければお食事されませんか?そろそろ夕食の時間ですよ」

10歳くらいの少女が話し掛けてきた。よく見ると化粧を一切落として年相応の雰囲気になったラズラ様だ……ってものすごーく見覚えのある誰かに似てる。


あ、可愛い可愛い私の姪のアイリだ。


10歳上の姉は……それこそ私のトラウマと化した中学入学時の引っ越しの前に欧州イケメンと国際結婚をして可愛いハーフの娘を産んでいるのだが、その可愛い姪のアイリに本当によく似ているのである。


欧州に生活基盤を置いているので頻繁に会えるわけではないが、毎年バカンスの時期は来日して長期滞在してくれる。金髪に近いくらいの淡い栗毛のフワフワの髪と深い蒼色の眼の素直で可愛い本当に天使みたいな子。叔母さんよ、って茶化す姉にも流されず「おねーちゃん」と呼んでくれる可愛い可愛い姪。

……あぁもう今何回可愛いって言ったっけ!


ヤバい、アイリに似てると思ったらめちゃめちゃ親近感湧く。ラズラ様もすごく美少女だわー。



ほわゎわーんと浮かれた頭でもちょっと引っ掛かる何かがあった…………ん?


「……夕…………?こんなに明るいのに???」


「ええ、7の鐘が鳴りましたし。皆で休む時間を決めて生活しないといつまでたっても明るいのですからとても疲れてしまいますでしょう?」


事も無げに言われ、さっきユターノが呟いた「白夜」という言葉と結びつく。あぁ、そうか……この世界では陽が沈まず、位置があまり変わらないからモレイやタグが戸惑ってるんだ……。本当に異世界なんだと思い知らされる。元の世界に戻れるのか不確かな状況だし、今の自分が結局のところ生きてるのか死んでいるのかさえハッキリしてないんだけど。



食事、と聞いたら何だかお腹は空いてきた。食堂へ案内しようとしてくれるラズラ様の後に続こうとして、動物を室内に入れるのはどうなの?と思ったから中庭に居たんだっけ、と思い出した。


「ブルーム達はどうしたら……?」

藍色の馬の首を撫でながら訊ねてみると、それならばと中庭からも出入りできる部屋を用意してくれて部屋にブルーム達を上げることも構わないと言ってくれた。ただ一階なので人の出入りなどが上階の客室よりは気になるかもしれませんよ?とは言われたが、心細いよりはマシだと思うので構わない。


食堂のテーブルにはシンプルだけど暖かみのある食事が並んでいた。時間感覚が無いのだけどよく考えたら食事自体が相当久し振りかもしれない……食べられるのかな?物に触れることは問題ないみたいだから大丈夫だと思いたい……お腹が鳴きそうなくらいイイ匂いに恐る恐る一口食べてみる……。


あ、塩味ベースだけどハーブや香辛料の使い方が上手い!好み!めっちゃ好み!


日本人の魂に染み付いた醤油や味噌味なんかの発酵系は期待できそうにないけれど、とりあえず異世界メシが合いそうで良かったー!と心の中でガッツポーズをしながら食べているとラズラ様がこっちを見ながらニコニコ微笑んでいる。


あぁもぅラズラ様の微笑みも天使………ッ!


「カーヤ様のお口に合いまして……?」

恐る恐る訊ねられたので、気持ちとしては親指立ててgood!のハンドサインをしたいところだったけれど国が変わればサインの意味も変わることがあったよね、と思い直しニッコリ笑い返す。


「美味しいです。お腹が空いているのも忘れてたみたいで……ありがとうございます、ラズラ様。」


「どうかラズラ、とお呼び下さいませ。カーヤ様の方が遥かに目上の存在でございます。」

目を丸くしたラズラ様に即座に訂正されてしまった。まだ随分幼いのにキッチリ使い分けているあたりが流石だと思う。


「いや私こそ様付けされる程の者でも……」


「そんなことはありません。もしも気にされるのであれば私がそう呼びたいのだし、そう呼ばれたいのですと言えばよろしいですか……?私の周りには私をそう呼んでくれる者がおりません……」

ぽつりと少し寂しそうに言葉をこぼした。


そうかもしれない。

まだ小学校高学年くらいの子が自分に敬語を使う大人に囲まれて過ごすのってキツい時があるのかも。親兄弟がいる場所でなら幾分か崩せるんだろうけど神殿はきっとそんな環境じゃないよね……


「分かったよ、ラズラ。でも私はカーヤ様じゃないよ?」


「いいえ、カーヤ様と呼ばせて下さいませ。どうやら貴女様のお姿は意識を向けないと認識できないくらいに透けているようなのです。私が何もない場所に話し掛けているのを他の人が見たら不思議でしょう?命の女神の愛称で呼び掛けているのであれば、神に仕える私が話し掛ける対象として理解の範疇に収まるとは思われませんか?」


………ハハハ………笑えない―――



私の本当の名前で呼ばれない………異世界で過ごすにはむしろ相応しいのか……。何か酸っぱい記憶蒸し返しそうだけど本名寄りだしニックネームだと思えばま、いっか。


仕方なく乾いた笑いで了承の意を伝えた―――



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