死ぬくらいなら裸を選べ!
「コウヤさん……っ!」
急に態度を変え、救世主になることを宣言したコウヤ。
エリンは感動したように手を合わせ、それはもう嬉しそうにコウヤを見つめると――
「……で、何が目的なんですか?」
――すぐに表情を一変し、ジト目でそう尋ねるのであった。
「目的? 何のことだ? 俺はただ世界を救いたいという一心で」
「誤魔化さないでいいですから。明らかに『願いをかなえる石』が欲しくて態度を変えたじゃないですか」
「なに、俺はただ……ささやかな願いがあるだけだ」
「じゃあ聞かせてくださいよ。そのささやかな願いっていうのを」
やれやれ仕方ない、そう言わんばかりに肩をすくめるコウヤに、エリンはなんだか嫌な予感が隠せないでいた。
そういえば一瞬、ほんの一瞬だけ忘れかけていたが、この男は変態だ。ならば望む願いもまた、それにふさわしいもので――
「俺はただ、公共の場で露出しても咎められない世界を作りたいだけさ」
世紀末より酷い世界である。
「そうだな、もしその魔法の石が手に入ったら、『人は基本脱いでいなければならない』という決まりでも作るか」
暴君よりも酷い。
「イヤァァァァアアッ!! そんな世界絶対嫌ぁ! まだ世界が滅んだほうがまだマシって思うくらい嫌ですぅぅ!!」
「わがままを言うな。死ぬくらいなら裸を選べ!」
「で、でもその石の力を使わないと、コウヤさんは元の世界に戻れませんよ!?」
「俺の願望が実現するならそれくらい一向にかまわん!」
「イヤァァァァアアアアアア!!!!」
全員死or全員裸。
対比にもなっていないその究極の二択はつい死を選んでしまいそうになるほどひどいものだった。
(ど、どっちも嫌です! でも魔王を倒すにはコウヤさんにお願いしなければならないのも事実……そうだ! 魔法の石は破壊するなりどこか手の届かない場所に捨てるなりすればいいのです! コウヤさんには代わりに出来る限りのお礼をして、どうにかあきらめてもらいましょう!)
「おいエリン、おい! 聞いているのか!」
「あっ、は、はい! なんでしょう!」
「まったく何を呆けているのか……まあいい。いやな、救世主を目指すことはいいとして、しかしどうやって魔王を倒せばいいんだ? 神であるお前に倒せないのに、俺が倒せるはずもないと思うのだが」
「あ、それなら安心してください! コウヤさんには、私が魔法の力を授けますので!」
「それでも魔王を倒せるとは思えないが……しかし、そんなことができるなら、やはりお前が魔王を倒せばよかったんじゃないか?」
「うっ……出来るならそうしたいところなのですが……あいにく、女神である私の力は『与える力』だけです。『裸の男』に『衣服』を与え、『普通の人間』に『魔法の力』を与える。ただそれだけ……とても魔王と戦える力ではありません」
それだけ、とエリンは言うが、そもそも特殊な能力など存在しない星で生まれ育ったコウヤからすれば十分にすごいものである。
「ま、まあ私のことはいいのです! 早速コウヤさんに力を与えますので、少しの間動かないでくださいね」
そういって、エリンは両手をコウヤの胸元へと持っていくと、目を閉じて集中し始めた。
しばらくすると、添えられた手を中心にポウッ……と淡い光がコウヤを包み込み――
「……え? うわ、何ですかこれ……」
エリンがドン引きした顔で、コウヤから手を離した。
「もう力を与えるのは終わったのか? 俺はどんな力を使えるようになったんだ?」
「えっとぉ……そのぉ……終わったというかオワタというか」
「何だそのはっきりしない言い方は。この先の戦いで生き残れるかどうか、この力にかかっているんだからちゃんと教えろ」
「は、はい。コウヤさんの力はですね、その、なんというか、ピンチになればなるほど強くなると言いますか、後がなくなるほど力を増すと言いますか……」
コウヤから文句を言われるも、変わらず煮え切らない返事のエリン。
「何かを捨てるからこそ得る物もあるんですかね、あ、あははは……」
「後がなくなるほど……捨てるからこそ……ハッ! もしや!」
エリンの言葉をヒントに、自分の力を推理するコウヤ。そして閃くと同時に、興奮した様子で高らかに声を上げた。
「つまり――『脱げば脱ぐほど強くなる』力か!」
「あぁぁああああ言っちゃった! せっかく言葉を選んで遠回しに表現しようとしてたのにドストレートで言っちゃった!」
自分にふさわしい力を手に入れ歓喜するコウヤ。
その一方で、とんでもない男がとんでもない力を手に入れてしまったことにエリンは頭を抱え叫ぶのであった。