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どうか、この世界の救世主に――

「女神だと? お前が?」

「ええそうですとも! この教会で人々の祈りから生まれた女神エリン。それが私です!」

「……俄かには信じられんな」

「そこは信じてください、としか言えません。だから信じてくださいコウヤさん」


 コウヤと呼ばれた男は、教えていないはずの自分の名前を少女が知っていることに驚きを示す。俺の名前を知っているのか――そんな意味を込めた眼差しを向ければ、エリンと名乗った少女は『そりゃあ、女神ですから』と得意げに胸を張った。


「納得……まではいかなくとも、話を聞く気にはなりましたか?」

「……いいだろう。どちらにしろ、こんな見ず知らずの場所に連れてこられた時点で俺に選択肢はないのだからな」


「では話を始めます……いえ、始めたいので――」


 こほん、と一つ咳ばらいを入れ、エリンは恥ずかしそうに頬を赤らめながら叫んだ。



「いい加減服を着てください!」



 〇



 コウヤからしてみれば、家で脱衣リラックス(いつも通りに)していたところをいきなり知らない場所まで連れてこられたのだから、己の格好について文句を言われるのは理不尽である。しかもその犯人らしき人物は謝罪することもなく、服を着るように要求してくる始末だ。はっきり言っておもしろくない。


 しかし『服を着るまで話はしない』と言われてしまえば、どんなに不本意だとしてもその言葉に従うしかなかった。


 自分が今いる場所。それが日本どころか地球ではないことをすでにコウヤは察していた。

 気づかぬうちに人を瞬間移動させたことや、地面から衣服を浮き上がらせることなど、元居た世界では説明がつかない現象が起きているのだ。異世界だから、という説明が一番納得できる。


 なによりピンク髪の人間など地球にはいない。染めてない限り。


 さすがに異世界となってしまうと、これからのことを考えても目の前の少女から話を聞かねばどうしようもない。誠に不本意の極みだが、服を着るとしよう。

 そんな考えで着替えるコウヤを、エリンは満足そうに見ていた。


「あぁ……よかった……服を着てくれて本当に良かったです……!」

「なに人の着替えを見ながらニヤニヤしてやがる。この変態女神め」

「んなぁっ!? こ、コウヤさんにだけは変態って言われたくないのですよ!」

「騒がしいぞ。着替えてやったんだからさっさと話を始めろ」

「ううう~~~~な、なんか納得いかないです」


 誘拐犯呼ばわりの次は変態呼ばわり。どんどん女神から遠ざかっていく自分の評価に不満が隠せない。できることならコウヤに女神について事細かく説明し、自分はそれほどすごい存在なのだと教えたいところだが、しかし()()()()()()()()()()()()()()()ことも事実。


 エリンは気を取り直し、コウヤを召喚した理由について話し始めた。


「あなたにお願いしたいことはただ一つ。この世界の救世主になってほしいのです」


 魔王――そう呼ばれる存在が目覚めたのは、つい最近のこと。

 しかし魔王の目覚めに共鳴するように、世界各地を災厄が襲った。

 このままでは、世界が滅亡してしまうのも時間の問題である。


「どうか、どうか魔王を倒し、世界を救ってください! お願いしますコウヤさん!」



 ○



 泣くように、悲痛そうな声で叫ぶエリン。

 しかし――それに対するコウヤの目は、ひどく冷めたものであった。


「ふざけるなよ」


「……っ」


「魔王の脅威? 世界の滅亡? 確かにかわいそうな話ではあるが、それをなぜ俺が解決しなければならない。自分を神だというのなら、お前がどうにかすればいいだろう」


「それは……ごめんなさい、出来ないんです。確かに私は女神ですが、この教会を見てもらえばわかるように、多くの人から信仰されている名のある神ではありません。私程度の力では魔王を倒すことなんて……」


「だから俺を召喚したと? 別の世界の人間なら迷惑をかけていいと思ったのか? 別の世界の人間なら死んでもいいと思ったのか? だとすれば、お前はとんだ傲慢だ。ああ、ある意味神らしいともいえるかもしれないな」


「そんなこと思ってなんか――っ! ……いえ、そうですよね。そう思われて当然です。本当にごめんなさいコウヤさん。この話は忘れてください。あなたを巻き込むことはやめます。私たちこの世界の住人だけで、魔王の狙う『どんな願いでもかなえる魔法の石』を守って見せま――」


「待て」


「――え?」

「ちょっと待て。お前、今何と言った?」

「えっと、コウヤさんを巻き込むことはやめますと」

「その後だ! 何と言った!」

「は、はい! 私たちだけで『どんな願いでもかなえる魔法の石』を守ると――」

「それだ!」

「……はい?」


 先ほどまで、静かに怒っているような雰囲気だったコウヤ。しかし今は、まるで少年のように目を輝かしながらエリンに詰め寄っていた。


「どんな願いでもかなえる石だと! 『どんな願いでも』っていうのは、どんな願いでもってことか!?」

「えっと、言ってることの意味がよくわかりませんがたぶんそうです!」


 180度態度の変わったコウヤに驚き慌てながら、しかしどうもチャンスっぽいとエリンは何度も首を縦に振って肯定する。


「……気が変わった」

「え……そ、それって!」

「気が変わったぞ女神エリン! 魔王討伐、確かに俺が引き受けた!

「コ――コウヤさん……っ!」



「いいだろう上等だ! 俺がこの世界の救世主になってやる!!!!」



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