全裸で異世界に降り立った男
人は必ず全裸で生まれる。
たとえ誰であろうと無関係に、例外なく全裸だ。差別、不条理、不平等であふれ返った世の中でも、その瞬間だけは皆等しく全裸だ。賢人も愚者も偉人も凡人も男も女も例外なく全裸なのだ。
服を身に着けていないと言う平等。服を身に着けていないからこその平等。
差別不条理不平等は、人が服を着ているから起きているのではないか。もしかしたら人が服を着るほどに不幸が生まれているのかもしれない。
ならば、その逆。
服を脱げば脱ぐほどに、人は幸せになれるのではなかろうか――
「あ――――も――――ッ! 最悪最悪! 最ッッッ悪ですッッッ!! せっかく呼び出した救世主候補が、どうしてこんなド変態なんですかァ――――!!!!」
――そんな金切り声が、人気のない寂れた教会に響き渡った。
声の主はベビーピンクの髪色をした、ショートカットの少女である。
髪と同じ色をした瞳には涙が浮かび、起伏の乏しい……本人曰くまだ発展途上の身体を震わせ、悔しさを露わにしていた。
少女の目の前には一人の男。
身長は百七十センチ後半とそこそこ高身長、程よく引き締まった身体、クールな顔立ち。まさに中の上、人によっては上の中くらいの評価を受けられそうな好青年が――
――全裸で突っ立っていた。
「……いきなり人をこんな場所に誘拐しておいて、随分な挨拶だな。少しは礼儀というものを学んだ方がいいんじゃないか?」
「だったらあなたはまず人としての常識を学んでください! 何で全裸なの!? 何で全裸でそんな平然としていられるの!?」
人間には普通、羞恥心がある。そのため、もし全裸で人前に出てしまったのなら隠そうとするのが当然の行動だろう。
しかし少女の言う通り、男は何も、ナニも隠そうとせず平然としている。むしろ見せつけるように堂々としている始末である。
「バカなことを聞くんじゃない。俺はさっきまで自分の家にいたんだぞ」
「それがどうして全裸に繋がるんですか!」
「家でどんな格好をしていようが個人の勝手だろ! つまり俺がどんな格好をしていても――いやどんな格好もしていなかろうと、俺の自由のはずだ!」
「その『自由』は個人の勝手すぎますぅ!」
いい加減男の裸を我慢するのにも限界を迎えた少女は、男に向けて両手を突き出す。すると、全裸男の足元に幾何学模様の円が浮かび上がり、中央からせりあがるようにして衣服が一式現れた。
「こ……これは……っ」
「さあ! 早くその服を着てください! じゃないと私、怒りますよ!」
「今のと言い、俺を気づかぬうちに誘拐した手際と言い、もしやお前……ただ者じゃないな」
「ええ、あなたの言う通り。そして誘拐じゃありません! 私はあなたを召喚したんです! さあ早く着替えなさい! あまり失礼な態度でいると罰が当たりますよ! なんたって私は――女神なんですから!」