表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイアリーズ -daily is die early-  作者: ヨシオカ タツキ
8/12

3ー5 百万喰らい…ワニ

 おとうさんから吉報が届いた日、わたしのおうちは売られることが決まりました。東北のある村に評判の占い師が居て、そこに引っ越すそうなのです。大人からすればわたしに比べて短い住まいのように感じたでしょうが、こどもの体感時間は長いのでしょう?世界の全てだったこの家を離れることが寂しかった。うそ、怖かった。

 さようなら、わたしの世界。いつも、おかあさんがわたしの幸せそうなお口を見ては羨ましそうにほっぺのおにくを緩ませるのです。

「おいしい?」

 お母さんは決まってそう話しかけてくるのです。

「おいしい!」

「そう」

 そうやってほほえむだけなのです。

「ままもいっしょにたべましょう?」

「いいえ、お母さんはいいのよ」

「ままはしょくがほそいひと」わたしはおかあさんをお菓子みたいで小さなひとさしゆびで指します。

「ふふ、そうね。それにしても難しい言葉を話すようになったのね」

 どこで覚えたのかしら、と着物の袖で口元を隠すおかあさん。わたしは、おかあさんにはいつも笑っていてほしいんです…。このころのおかあさんとときたら、辞めてしまったお手伝いさんの代わりの家事で大忙しで、ますますちっともわたしにかまってくれなくなったのは仕方のないことですけど。この歳まで経験したことのない仕事に慣れることが難しく、その上外からやってくる来る人たちとも難しいお話をしなければなりません。おかあさんは無知だから、その人達はいくらでもやりようがあります。知的で自分を責めるような物言いにさらされては焦ってしまって、その人達のいいように流されてしまいそうになるのを、一番の古株のお手伝いさんが支えてくれます。『ひゃくせんれんま』だという彼女はもう百歳近いおばあちゃんで、同年代と比べて少し多く刻まれた額の皺をさらに渓谷のように深くして外の人達に向かって怒鳴り声を聞かせます。おばあちゃんは強くてきれいで、わたしのあこがれの人でした。おばあちゃんが澄んだ目をして睨みをきかせたとたん、相手が目に見えて怯えてしまうのを物陰から盗み見るのが楽しくて、嬉しかった。でもおかあさんは違いました。何事も知らず、何事も処分できない自分を恥じます。そしてそれを改めようとするから、外の人が来てもおばあちゃんを呼ばず独りで対応しようとします。おかあさんはそれで一度、身を売ったことがありました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ