3-2 百万喰らい・・・ワニ
自分の国の片隅で核の生んだ化け物が孵っているとはつゆ知らず、まして生まれたばかりのわたしはこの世のことすら知りません。ひとまずわたしが生を受けたとき、周りから大いに祝福されたのでした。先の九州の例のように母胎を傷つけることなく、体重も普通、なんなら平均よりもやや小さい赤ちゃんでした。わたしの小さな体を眺めて栄養不足を心配したパパとママは、おちちの他にサプリメントを砕いて飲ませ、固形物を食せるようになってからはわたしが泣いて嫌がるまでご飯を口に運んだそうです。これがいけなかったのかもしれません。齢一歳と少しで、限界以上に食べることを覚えてしまったのです。
わたしの体が他(同世代はそんなにいませんでしたが)と比べて小さいのは変わりありませんでしたが、特に問題なく成長し、そしてよく食べました。といっってもわたしみたいなちびすけの食事量などたかがしれていますし、それをまかなう分の食糧もお金もたくさんあります。それにわたしが大食いするとパパとママが喜ぶから、元気に、いつも際限なく食べ続けようとしました。その割には太りませんでしたので、周囲はわたしの食べっぷりをおもしろがりながらもどこかで不気味に感じていたのです。
わたしが二歳になった頃、敷地内の米倉の中身が一晩で半分も盗まれる事件が起こりました。犯人はわたしです。朝方に当番が倉の戸を開けて、水で戻していない堅いままの米をぼりぼりと歯で砕いていて、手のひらや口元には白く光る米粒をよだれで大量にひっつけていました。おどろいて尻餅をつく見張りを幼いわたしは心底不思議そうに眺めていたそうです。当然、口を動かしながら。
これを聞いた多くの人たちは「結構なことだ!」と豪快に笑ってくれました。後に笑えなくなります。