2-1 銀幕の外側
俺たちは核と共存することのできる初めての人類になっちまったみたいだ。
二十七年前、ロシアが中国に核ミサイルを打ち込んでから大陸は人類史上初最大規模の爆発を経験したらしい。新記録だ、めでてぇじゃねぇか!しかもユーラシア全土を一気に汚染っていう副賞までついてきやがる。アインシュタインは第三次世界大戦がどのような戦いになるのかわからないが、第四次世界大戦では皆で石ころを投げ合うのだと言った。まぁこれは世界大戦じゃないしノーカンだわな、それにまだ結構色々残ってる。核兵器もどこかが隠し持っているのかもしれないぜ。でもアメリカには当たらない。例え残りの百九十六カ国がミサイルを持っていたとして、その全てをアメリカめがけてぶっ放しても何一つとして着弾しない。それは未知の技術だった。
北ユーラシア一帯で舞い上がった放射線物質は何も付近の国々だけが影響を受ける訳じゃない。一世紀くらい前にも東アジアやら半島やらから有害物質なるもんが風で日本に運ばれて騒ぎになったそうじゃない。今回も同じことさ、ただそれがもっと有害物質だったってだけのこと。そしていずれ全世界を覆うはずだったっんだぜ?
はじめは太平洋沖西経百七十度あたりで突然無風状態になり、また波がほとんど立たなくなるという報告書が発表されたことだった。北アメリカ西側だけではない、東側数百キロ先ヨーロッパを挟んだ大西洋のど真ん中にも同じような現象が見られた。はっきりとした報告は無いが陸も同じだろう。その魔法のような壁はいろんな呼び方があるが、便宜的に『銀幕』と呼ぶのがスタンダードで、俺たちもそう呼んでる。なんにせよ未だ謎が多い。しかしそいつが地球の風向きを変えたのは確かなことだ。銀幕にぶつかった風は進む方向を変え大陸に舞い戻ってくる。主に東南アジアに、死の粒子を乗せて。