4ー1 異色で異能の部隊…ツリガネ
警視庁某一室。ツリガネは自分が完全に場違いであることにひどく萎縮した。
周りに有るのは中肉中背の自分と違って機械の体、大きな体、動物の体、奇形の体、未知の体…ではない。目だ、目の違いだ。自分と周りに有る目が違う。いくつもの修羅場、もとい放射能をくぐり抜けてきた、熱血にして冷徹な目だ。
部屋には四十人弱、全員でラジオ体操ができそうなくらいの広さだった。周囲には自分と同じく、集められた人間が、言葉も仕草すら発せずたたずんでいるのに。無論ツリガネ自信も同じように振る舞うのだが、すぐにでも体の軸を柔らかく屈折させて、脱力したくてたまらない。昔から空気を読んでこなかった、自分の過去に習えば、この式の後仲間になるはずの周囲の者達から総スカンを食らうことになる。ツリガネは物覚えの悪い方だったが、ここ十数年で、さらされた自分の処遇をまともに振り返ってみれば、現状どうしているのが正しいのか、流石に覚えていられるのだ。それでも、居心地の悪さは拭えない。
ツリガネはお腹の辺りに力を込めた。次に具体的にイメージする。ちょうど腐敗した大きめのトマトと同じ規模と感触の人工の臓器から鉛筆の芯くらいの太さの金属の管を出す。五本で良い。そのうち三本は上半身へ、うち二本は下半身へ送る。他の天然の臓器を避けなければならないがこれは簡単、イメージするだけ。それぞれが四肢と首の境界まできたらさらに血管みたいに枝分かれさせて指の先まで行き渡らせる。首のやつは頭のてっぺんまで。
これらはいずれもツリガネの体内での出来事だ。誰も彼の特性に気づきようがんないし、彼が人知れず楽をしようとしていることにも気づきようがない。
鉄とその他有機物を組み合わせてつくられた合金かつ液体金属、ツリガネはその新金属を腹の中に収納していて、その変体をある程度、しかし自在にできるのだ。方法はただイメージするのみ。幾度と内蔵を火傷させ破かれながらもできるようになるまでイメージするのみ。体内の組織を壊されては治され、精神を壊されては治されながらも、ひたすらイメージするのみである。面倒くさがりで向こう見ずな彼自身が望むはずはない。不適合、不適格は何千人いたことか。故郷の工場では巣立ちの際には自分を含めたったの二人。二人はお互いを『きょうだい』と呼んでじゃれあった。
そうした多くの犠牲を払って得た特性の使い道といえば、今しているふうに体の末端までに金属を這わせて凝固する。足の裏から脳天まで血管のように張り巡らせる、こんなふうに体を内側から固定すれば一切脱力した状態で直立することができる。
もちろん居眠りも可能だ。しかし目だって開いている、瞼も固定済みだ。