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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第5章 友だちから
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第5話 友だちになってください

 結局、亜壽香とまともな話が出来ないまま、最終ゲーム終了から一か月がたとうとしていた。

 次郎、森、田村との仲はいくら良くなっても、肝心の亜壽香との差は埋まるキッカケが一向に来ない日々が続く。


 もう、このまま何も元に戻らずグダグダ続いていくだけなんじゃないか……。そんな思いが胸に過りながら、今日も家のドアを開ける。

 だけど、そんな今日、目の前に……亜壽香は現れた。


「……よ」

 細い道を挟んだ向かいの壁にもたれかかる亜壽香が圭に向けて小さく手を上げる。手にスマホをはなく、ずっとただ圭を待っていたことを物語っていた。


「……亜壽香……」

 最初、玄関をできることに躊躇したが、ここでそれをすることの意味はないんだと、自身を奮い立たせ、前に出る。


「圭……一緒に登校しよ」

「……お……おう」


 そのまま二人で肩を並べ、同じ目的地に向けて歩み続ける。ただ、会話はまるでなかった。どうにか言葉を絞り出そうと奮闘するが、やはりその一歩がなかなかに踏み出せない。


 このままでは、真の王と解放者の関係と何も変わらない。そんなことは理解しているし、一歩踏み出さないと始まらないのも分かっている。でも……。

 亜壽香もそれ以上、口を開くことなく無言で歩く。



 ……二人でいるとき……、いつもこんなに静かだったっけ……。圭が思い描く、前の亜壽香との日常から、あまりにかけ離れすぎている気がする。見た目の形はまるで変っていないはずなのに。


 でも……思い返せば、圭から話題を振るようなことはあまりなかった気がする。この二人の間では、たいがい亜壽香が話しかけてきて、圭がそれに返答するのが基本だった。でも、今は亜壽香も黙っているため、こんな静かなんだ。


「あのさ……圭……、その……久しぶり……」

 それでも、亜壽香は話しかけてくれた。まるで自分を笑うかのような自虐の笑いをこぼしつつ言う。


「……久しぶり」

 それで、圭もやっと声を出せる。だけど、たった一言。


 でも、その圭の返答に少し安堵したのか、亜壽香の表情が緩んだように見えた。

「あのさ……あたし……最近、バイト初めてさ……。あの時、用事があるっていったのも……、シフトの時間まで学校で待ってたんだよね」


「……そっか……。バイトか……」

 圭だってもっと、話を続けたい。だけど、言葉がそれ以上でない。


 結果、またそれきり会話が途切れる。もう、この無言の登校が永遠に続きそうに感じてしまう。いくら足を前に出しても、学校は一向に近づいてこない気がする。

 もう、こんな時間は終わってしまえ……、例えそんなことを思ってしまっても現実は非情、ひたすらに続く。


 たった一言、「あのさ」、この会話を始めることができる一言を口に出したいのに、出てこない。結局、亜壽香に一歩踏み入る勇気がない。


「あのさ……」

 でも、亜壽香はその一歩を踏み出し始めた。そして、永遠を終わらせるかのように、亜壽香は歩む足を止める。圭はそれに気づくのが遅れ、一歩先で止める。


「圭……これ」

 お互いの足が止まり、向かい合うと、亜壽香は一つの封筒を圭に差し出してきた。


「……これは?」


「……二万円が入っている……。バイト代が入ったからね……。ごめん、まだ残り一万円は……すぐには返せないんだけど」


「……あぁ……別に構わないよ……待ってるから……」

 そう言いながら、圭はその封筒を受け取る。


 そうか……亜壽香はもう、とうに一歩を踏み出そうとしていたんだ……。踏み出していたんだ……。


「うん。……必ず返すから」

 強く頷く亜壽香の姿を見てそれをより確信する。


 なら……さすがに……もう、圭も一歩を踏み出さないと……。

「……、バイト……どうなんだ? 大丈夫なのか? 初めてだろ?」


 圭の言葉に亜壽香は少し笑みを浮かべつつ、下を向く。

「……うん、ちょっとまだしんどいかな……まだ完全に慣れてなくて……」


「そっか……じゃぁ、俺もそのバイト……手伝おうか」

「……へ? いや、いいよ。そんなの、迷惑だもん」


 亜壽香は何度も首を横に振った。そうやってまた距離を置こうとする。圭だって同じ立場なら、そうする……。だけど、そんなやり方じゃ……いつまでたっても、圭たちの間は変わらない。


「いいだろ? 俺にぐらい迷惑かけろって。そのかわり、俺もバイトを強引に手伝うって迷惑、かけてやる」


 ちょっと大げさだったかもしれないが、今じゃこれぐらいでいい。亜壽香は目を真ん丸にしたが、同時に少し噴き出した。

「ありがとう……、じゃあ、バイト……手伝ってくれる?」

「おう。まかせとけ!」


 そういい、再び学校に向けて歩みを始めようとしたその時、

「ねぇ、圭!」


 また声をかけてくる亜壽香。

「なんだ?」


 振り向くと、そこには右手を差し出す亜壽香の姿があった。


「あたしに……こんなことを言う資格、ないかもしれない。だけど……もしよかったら……、あたしに迷惑ぐらいかけてよ……、頼ってくれる? あたしもまた、……圭を頼りたい……」


 そう言い、ぐっと目を圭に合わせてくる。

「あたしと……友だちになってください」


 友だち……か。


 圭も亜壽香の手に合わせるよう、少しずつ手を伸ばしていく。


 本当は前から亜壽香とは友だちだと思っていた。幼馴染で、昔からの腐れ縁で……、このやり取りはあまりに今更過ぎるのかもしれない。いや……だれがどう見たって今更過ぎる。


 でも、ここで「もう、とっくに友だちじゃないか」なんていう言葉はあまりにも無責任すぎて、出せるはずもなかった。

 だからこそ、圭もまた笑って、今更ながらこのセリフを連ねる。


「こちらこそ、友だちに……なってください」

 そうして、圭と亜壽香の手はゆっくりとつながれた。


 これから友だちをやり直すために、……もう一度……ここから始めるために。


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