第6話 「新」対王メンバー集結
次の日の放課後。田村に呼び出された教室の前で立ち止まった。
この教室に足を踏み入れるということは、手放しかけていた非日常が再び舞い戻ってくるというのと同義だ。しかも、この状況であれば、このまま非日常を捨て去る……この教室から離れることは間違いなく最善手であることも理解している。
このまま黙って去っていればいいものの……、とんだバカがいたものだ。
今までの圭は大きな目的を持っていなかった。人の手によって作られた目的に実質付き合っていただけ。しいて言うなら、抗うということに対して何らかの高揚感を得ていた……といったところか……。
だが、もうそれは違う。今の圭には明確は目的がある。キングダムを潰す、次郎を解放する……、コントラクトの連鎖を断ち切る。
この一連の最後を見届ける。
「あっ」
ふと、向こうから小さな声が漏れてきた。その声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには一人の女子生徒。
スリッパが学校指定のものでないため、学年は分からない。そして何より特徴的なのは顔……正しくは、そこにつけられた仮面。
「……」
森太菜だというのはすぐに分かった。対する森が歩める足を止め、こちらに向けて手を伸ばそうとしてくる。
「随分と奇怪なお姿をされていますね。顔を隠すための仮面ですか?」
そんな森が口を開くより先に、圭が先手を打っておいた。自分の顔を人差し指でチョンチョンと差す。
圭がプロヂュースしておきながら、それを奇怪と表現している自分。これだけでも、森ならこちらの意図は十分読んでくれるはずだ。
森は仮面を揺らしながら少しずつ近づいてくる。
「あなたも呼ばれて? であれば……同志ということでしょうか?」
そんな返しが来たところで、教室の扉がガラリと音を当てて開けられた。そこから顔を出したのは田村零士。
圭の顔を見るな否や不敵な笑みを浮かべる。
「そうこそ、おいでいただけました。お話を受けて頂いたこと、非常に感謝しておりますよ。それと……」
田村は今度、少し離れたところにいる森に視線をよこした。
「あなたもようこそ。解放者アリスさん」
田村に招き入れられる形で教室へ順に入っていく。
そして、真っ先に視線の中に入ってきたのは見覚えある人物の顔だった。
「長井先輩……どうも」
一応誠意を込めてこっちからペコリと一礼する。すると、長井は本当に田村とは対照的なさわやかな笑顔で対応してくる。
「やぁ、こんにちは。久しぶりだね、小林くん」
そして、圭の後ろにいる森に対してもにこやかな笑顔を投げかけてきた。
「で、アリスさんもこんにちは。まさか、こういう形で再開できるなんてね。でも、君が来てくれるというのは本当に心強いよ。ありがとう」
「……それは……どうも」
自然な態度の長井に対して、少しぎこちない雰囲気を見せる森。そんな二人をよそに、教室を見渡す。
この教室の中にはさらに二人の人物がいた。
二年生男女のペア。長井の側近だった奴らだ。
「まずは、ここにいるメンバーの紹介から始めましょうか」
パンと両手を一度叩き、教室内にいる人物に目を通していく田村。
「といっても、ほとんどのメンバーはそれなりに面識あるような気がしますね」
そういいながらまず田村は圭の肩にポンと手を置いてきた。少々馴れ馴れしいと思ったが、それを拒む動作は一応抑え込む。
「まず、彼は小林圭くんです。少し前からのわたしの友人です。そして、少し今回の件について手伝いをしていただきました。いろいろありまして、敏和くんとはそれなりの面識があります」
田村がそう言い長井に向かってニコリと笑うと、長井もまたそれを返す。
本当に、いろいろあった結果だよ……。
「そして、彼はスマホを持たないもの。すなわち、コントラクトのアプリと直接かかわりあっていない人物であるというのが大きな特徴といえるでしょうか。
あぁ、圭くんの魅力はたくさんありますよ。まず、その頭の回転力でしょ。そして正義感に……」
「……それ以上はやめてください。ただの拷問です」
田村は不敵な笑みにプラス、あからさまな笑い声をこぼすと、視線を別のところへと移していく。
「次に仮面を顔につけた不思議ちゃんですが」
「あぁ?」
不思議ちゃん呼ばわりされた森がなかなかにどす黒い「あぁ?」と披露してきた。田村は一瞬ピタリとその口を閉じるが、すぐ不敵な笑みに代わる。
「すみません。仮面をつけたこのヒーローさんは解放者アリスさん。当然、本名ではないと思いますが……。ですよね?」
「……解放者という苗字と、アリスという名をつける親が二つとも存在すると思うなら、勝手に想像していればいい」
田村は大げさに肩を揺らした。
「まぁ、この場ではアリスさんで統一しておきましょう。彼女は、その呼び方の通り、解放者の一員です。圭くん以外は直接対面して、対戦したのだから当然ご存じのはずです。
圭くんも、前に話した本物の解放者の一人だという認識をもって抱ければそれで充分です。
今回、彼女のほうからこちらに協力の申し出をもらってので、こうやってきていただきました。君たちも一度はわたしのことを受け入れてくれましたからね。わたしたちも、あなたを歓迎いたしましょう」
田村は森に向けていた手をそっと引っ込め、最後少し離れた位置にいる男女ペア二人のほうへと近づいて行った。
「では、最後にこちらの二人。武井良太さんと、藤島奈美さんです」
武井良太を呼ばれた男子生徒がまずお辞儀、そのあと続いて藤島奈美が軽い会釈をして見せた。
「彼らはもともと敏和くんの補佐として偽物の解放者側に立っていた方たちです。おそらく君たちも彼らの顔なら見たことあるのでは?」
田村はそう言いながら彼ら二人に顔を向ける。
「といっても、実はわたしも彼らとはそこまでの面識はまだないのですけどね。敏和くんが偽物の解放者として任務をこなすうえで集めた二人でしたから。
でも、今はわたしたち全員、同じ目標、打倒王、そしてキングダムを掲げる仲間です。敵味方関係なく、手を取り合っていきたいものですね」
そう締めくくり、全員に顔を一人ずつ合わせていく田村。そして両手を大きく広げる。
「ではメンバーの紹介はこれぐらいで済ませて、本題へと移っていきましょう」