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第4話 人質

 真の王に待っているといわれた教室の前に立った。若干、隣にいる藤島が緊張している模様。

 森がそんな藤島の背中をそっとさすってほぐしている。


 小さな声で森に向かって耳打ち。

「よし……、教室を開けるぞ」


「おい。そこにいるんだろ? さっさと入ってこい」


 直後教室の中から女子の荒げた声が聞こえてくる。その声に大きく反応したのは藤島。ビクリと肩を大きく揺らす。森はどちらかと言えばその藤島に驚きを見せ感じか。


 ……早速先手を打たれたか……。いや、すでに後手ゴテだ。精神的な優位は向こうにある。


 一息入れた後扉をスライドさせた。扉の真正面からは誰の姿も見えない。一歩教室の中に入り、顔を横に向けると人物はそこにいた。


「……っ!」

 そこにいた真の王の姿に思わずひるんでしまった。


「……随分と乱暴だな……」

 どういうセリフを吐くか悩んだ挙げくに出てきた言葉。圭がもう一歩進むと遅れて森と藤島が入っては、真の王に顔を向ける。そして圭と同じように驚愕の表情を作り上げる。


 対して藤島はむしろあざ笑う笑みを浮かべる。

「何を驚いている。はっきりと言っただろう? 西田次郎は預かったと。この状況は想定していたはずだろ?

 それとも、冗談だ、ありえないと目をつぶっていたのか? それだとしても、愚かな話だ」


 そうだ……真の王の言う通りだった。確かに可能性として浮上していた状況ではある。だが、それはあまりに現実離れした状況であるため、可能性から除去していた……。


 というよりは、想定していたとしても、驚きを禁じ得ないこと……。


 圭が見た光景……それは……、椅子に縛られ拘束状態にある次郎の姿。そして、その次郎に向けて“カッターナイフ”を所持している女子生徒……真の王。


 カッターナイフという代物は普通に見れば滑稽に見える。いや、おそらく今での圭の目には滑稽に映っている。しかし、それ以上に圭の精神に動揺をもたらしていた。


「……次郎……お前……」


「悪いな。今こいつは契約で必要最低限のことしか話すことができない。しっかりそこは理解してもらおうか」


「……」

 次郎の口が物理的に封じられているわけではない。猿ぐつわやガムテープなどといった代物は一切ない。だが、それは必要ない。コントラクトというアプリがそれ以上に強力な力を有しているのだから。


「誘拐か……。自分の仲間を人質にとるだなんて……その思考、どうかしているよ」


「確かに普通であればその通りだ。だが、解放者、お前に対してはそればかりではない。もはや、わたしの中で君の正体は実質確定しているのだから。

 そして、お前も自身の正体を隠す気はない。違うか?」


「まぁ、今から否定することは何もないな、そこは。そもそも、次郎のスマホから俺のスマホにかけていて、結果今ここに俺がいるしな」


 次郎のスマホのLIONに表示されている圭の名前はボブになっているはずだ。だが、実際の名前は圭の名前になっている。簡単に確証も得られることだろう。


「いいだろう。状況は理解してことにしてやる……。で、ここまでやるからには何かしらの要求があると言うことなのだろう? 言ってみろよ」


 真の王は次郎に向けたカッターナイフの刃をさらに近づけた。

「要求自体はシンプルだ。こいつからも話を聞いているからな。というより、お前がそう指示したんだろう。であれば推測できるはずだ」


 真の王は次郎にチラリと顔を向ける。そしてカッターナイフを持っていない左手で頬をピンとはじく。


「そこにいるニューキングダムを率いる藤島含めた解放者全員がわたし率いるグループ:キングダムに入ることだ。それ以上はない」


「それ以上は……て、どう考えても最上級の要求だろうが……、いくらなんでも、エンゲームなしを考えれば求めすぎだと思うぞ?」


「それはどうかな? この答えはお前たちの人質、西田次郎に対する感情によっていくらでも変わる。解放者ボブ。求めすぎかどうかは、お前自身に問うといい」


 まったくもっていやらしい……。だけど、実に効果的だ……。冷静になって考えれば、圭はもはや真の王に歯向かうことは難しい。

 だが、この状況でそれを見せるわけにはいかない。


「その前に逆に問うぞ。お前は人質をどうこうすることは出来ない」


「ほう? それはどういう意味だ? 仲間を傷つけることはできない、なんて甘い推測じゃあるまいな?」


「そもそも、カッターナイフで人を刺す。そんな度胸がお前にあるのか?」


「むろんだとも。試してみるか?」

 真の王はカッターナイフの刃をさらに引き延ばし、立てながら笑って見せた。

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