第3話 誘拐……?
『西田次郎は我々が預かった。返してほしければ私のもとに来い』
コントラクトのチャットを通じて、次郎すなわち影武者のアカウントから送られてきたメッセージ。
そのあと、すぐに圭のスマホに次郎からの着信が入る。LIONを通じたものであるため、名前の表記はチャーリーとなっている。
着信音が教室に鳴り響く中、圭は森と顔を見合わせた。隣には状況を理解できていないのであろう藤島の姿もある。
「……これって……状況から考えれば真の王からってことに……なるな……」
森が圭のスマホを覗き込みながらそんなことを言う。
それはむろん圭も同じ考えだ。次郎に真の王へ話を伝えるように言っていたし、その結果がこれだというのも納得いく。だが……。
「……このチャットは……どういう意味だ?」
預かった? 返してほしければ? 誘拐としては腐りきったほどの定型文だ。まるで何も考えられていない一文。しかし……次郎は真の王の仲間……影武者だろう……。何が言いたい……。
「……まだ、鳴りやまないな……」
こうやってやり取りしている間も次郎からの着信はなり続けている。かれこれ一分以上……。止める気はないらしい。
LIONの電話なので当然留守電機能もない。
森と藤島に一度、黙るように指示。音声をスピーカーに設定して通話に出た。
通話が始まると同時、圭は無言を突き付ける。しばらくすると向こうから声が聞こえてきた。
「随分、のんびりとした受け取りだな。メッセージは受け取ってもらえなかったのかな?」
次郎の声ではなかった。女子の声……やはり真の王。
「……いや、どういう意味か理解が追い付かなかったんだ……。ぜひ、くわしく説明してもらえないだろうか?」
するとスマホの向こうから軽い笑い声が聞こえた。
「理解できない? なら、国語の授業はもっと集中して受けることをお勧めするよ。それかドラマで物語をお勉強するといい」
……イラつかせる気なのか……。
「御託はいい。どういう意味か答えろ」
一段と強い口調でその言葉を放ってみる。向こうはしばらく黙ったが、そっと言葉を並べ始めた。
「意味を知りたければ直接見たほうがいい。あたしに会いに来るといい。指定した場所で今もなおいる。遠慮なくこい。お前も……わたしに会いたいはずだ。なあに、約束の日が一日前倒しになるだけのことだ」
……どちらにしても会うんだ……。今の圭と真の王の間ではまず対面することが大きな壁。それを自ら崩すのは悪手……。それにそもそも……。
「敢えて意味のない質問をしておく。もし、俺がそれを断ったら?」
再び真の王の笑いがこぼれてくる。
「なぜ敢えた? 本当にくだらない質問だ……。お前の友人はわたしの手の中にある……。これ以上、くわしく言わせるつもりか?」
「……俺の友人はお前にとっての仲間でもあるはずだ。違うか?」
「果たしてどうかな? それに……ここで何を話そうが、お前は必ずわたしの元にくる。分かっているからな。
十分以内だ。さっさとこい」
真の王は最後、投げ捨てるように吐くと一方的に通話を断ち切ってきた。画面には通話の記録だけが静かに残る。
「……で、どうするの?」
真っ先に声をかけてきたのは森。圭の顔を仮面ごしに覗き込んでくる。
「……どうもこうもない。奴の言う通り、俺の選択肢は実質一つしかない。問題はニューキングダムのリーダーさんを連れていくかどうかだが……。
ここは……付いてきてもらおうか……」
そう言って藤島のほうを見るが、本人は少し怪訝な表情を見せてきた。その視線が森を向いているからその感情はすぐに分かった。アリスではなくボブに指示されようとしているこの状況が気に食わないと……。
森も理解してくれたようで、一度圭から視線を外し、藤島と顔を合わせた。
「じゃぁ、藤島も来てもらおうか。ここではっきりと藤島を真の王に見せておくことで、真の王にわたしたちの立場と影響力をしっかりと分かってもらう」
森が「それでいいんだよな?」と言うように首を回すので軽く頷いて見せた。
「藤島の存在は真の王との交渉に重要なキーとなりうる。というより、実質それが前提レベルだと考えていい。ニューキングダム抜きの俺たちは……真の王にとってそこまでの価値にはならないだろう」
藤島が首を頷き返してくれると、藤島の肩に今一度手を置いた。
「というわけだ。藤島、お前の立場を貸してもらうぞ。いいな?」
藤島はしっかり目を見据えて森に投げかける。
「……それが、みんなを救う道となるのならば」
「当然だ」
森は間髪入れず言い切った。




