第2話 決戦に向けて
作戦は次のステップへ移行すべく圭はスマホを手に次郎へ通話を入れ始めた。LIONを通じた会話、すなわち……解放者ボブから解放者チャーリーへの通話ということになる。
コールはほんの数回。通話が始まるとしばらくの間、無言の時間が過ぎる。
その時間を切ったのは圭のほう。
「解放者ボブより、解放者チャーリー……および真の王の影武者に伝えることがある。いいな?」
『……』
返事は来なかった。だが、それこそが問題ないという意味だとすぐに察する。もはやこの間柄において不必要な会話は邪魔にしかならないというわけだ。
ゆえに、こちらも結論を端的に伝えることに尽力する。
「解放者はニューキングダムを取り込んだ。これでコントラクトによって支配を受けている者たちはほとんど、二勢力に分かれることになった。ニューキングダムとキングダムだ。
あとは分かるよな? ここで決戦を行えば、勢力は一つのものになる。分かりやすく言えば天下統一ってことだな。この決戦で分かりやすく白黒がつけられる」
「……それを真の王に伝えろ……と? それを伝えたところで真の王が乗ってくると思うのか?」
「乗るさ……。少なくとも真の王は敵対する者に対して潰そうという動きははっきり見られた。すべてを支配してしまえば敵はいなくなる。必ず真の王は乗ってくる。
お前は何も考えずこれを伝えればいい。解放者ボブとして流れてきた情報ということにしてな」
「……そうか……。なら、俺は遠慮なく得られた情報として真の王に提供するとしよう。影武者として」
納得いく次郎の返事を聞けたので、通話を切ろうと指を画面にかけた。だが、それを拒むように次郎の声がまた聞こえてくる。
「ちなみにボブとして……一つだけ聞いてもいいか?」
現時点で必要のない質問だ。だけど、そのまま切るのは出来なかった。
「……なんだ?」
スマホの向こうで息を吸う音が聞こえてくる。そのまま、一息でセリフが吐かれた。
「解放者は真の王を倒せるのか?」
……何かと思えば、そんな質問か……。
「さあな……やって見なくちゃ分からんよ……。どちらにしても俺たちは追い込まれているんだ。逆転のチャンスを必死につかもうとしている時点で察しているはずだ」
「……」
「でも、問題ない……。変わるさ……絶対……」
次郎との連絡が終了した。そのあと、三日後に待機している教室を次郎のスマホに送っておいた。
後は……食いついてくれるかどうかだ。
その二日後、面会の前日にてアリスらと会談をすることにした。仮面をかぶったアリスとニューキングダムのリーダー藤島、そしてアリスと同じ仮面をかぶった圭……すなわちボブ。
「形だけではあるが一応藤島にも紹介しておこう。ボブだ」
森に紹介されたので、軽く藤島に向かって会釈をしておく。だけど、これは本当に形式的なものに他ならない。
この仮面の奥の顔など、藤島は分かっているのだから。
「悪いけど、必要以上にボブの正体を言及しようとするのはやめてもらいたい。今必要なのはそれではないことを理解してほしい。いいな?」
藤島は圭を一瞥し、すぐにアリスに視線を戻す。そのまま承知したと言うように小さく首を縦に振った。
「ありがとう。では……明日の段取りについて説明しておこうか」
この場ではアリスに仕切っている風に装っていく。藤島が信頼を向けているのがあくまでアリスである以上、圭ことボブが指示するより効果的に藤島を動かせる。
そもそもボブの指示など納得できないだろう。
事前にアリスに説明していた内容をこの場で全体説明するように話してもらう。
「と言っても、藤島には対してしてほしいことはない。基本的には隣で立ってくれればそれでいい。重要なのはニューキングダムのリーダーがそこにいるという事実。
真の王からしてみれば、君はキングダムに取り込むべき存在だ。そして、自身の存在を揺るがすものを支配するつもりなのだろう」
藤島の手がぐっと握られるのが見えた。今、自分の手の中にどういう影響力があるのかを実感しようとしているのだろう。
「真の王との対決はわたしたちが行う。君はそれを見届けてほしい」
参加してきても邪魔なだけ、というのは口が裂けてもいうまい。
「では、もう少し具体的な話へと移っていこうか」
そう言ってアリスがスマホに手をかけたときだった。
ふと画面を触るアリスの手がピタリと止まる。
「……どうした?」
「……ボブ……自分のスマホを見て……」
有無言わさないという感じだった。藤島が空気が変わったのを察しオロオロとし始める。その中、圭もスマホを取り出し、画面をつける。
すると通いが入っていることに気が付いた。コントラクトを通じたチャット。通知の相手は「ザ・キング」。それはすなわち真の王の影武者のアカウントであり、同時に……次郎が持たされたもう一つのアカウント。
チャットの送り先は、仮面ファイター5103と543レイン。すなわち……アリスとボブ。
その内容は……。
『西田次郎は我々が預かった。返してほしければ私のもとに来い』
そのメッセージが目に入ったころ、圭のスマホに次郎からの着信が入り始めた。




