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第1話 偽善

 長井が出ていくのを確認し、ひと段落付いたことを認識した。予想外の展開になりはしたが、大きく問題になることもないだろう。

 圭もそのまま黙って教室のドアから出ようとした。


「待って、小林くん……」

 不意に藤島から声を掛けられ、ドアにかけた手を止める。声を出して返事はしなかったが、黙って藤島のほうへ振り向いた。


「君も……本当に解放者なの? ……つまり……ボブ?」


「……同じ質問をついさっきしただろ? そしてその答えもしたはずだ」


 この質問はこの状況じゃあまりに無意味だ。ここにいた誰もが、その答えを実質確信しているはず。


「……でも……君も……田村先輩の友人なんだよね?」


「それは先輩が勝手に言っていることだ。それに……要は友情を取るか思想を取るか、ということだろう。俺は……田村先輩との友情よりは思想を優先するだけのこと」


 藤島は圭のことは信用していないということなのだろうか……。しかし、圭を信用しないようなら、そもそもアリスすら信用していないとも思うが……。


 そんな藤島はこんどアリスこと森に顔を向ける。

「……ちなみにアリスさんは……あの人がボブであることを肯定するのですか?」


「……悪いがノーコメントだ」

 これは森もこう答えるしかない。契約上、圭がボブであることをはっきりと口にすることは出来ないのだから。


「まぁ……どちらでも構いません。どちらにしても……あたしはもう後には引けませんから……。……と言っても……正直……どうすればいいのか分からないんですけどね……」


 そう言って藤島はその場でうなだれた。


 それもまた仕方のないことだろう。おそらく藤島がアリスと協力することにしたのは一重に長井の存在があったからだろう。田村が裏ある人物で会ったとしても、長井は違うと思い込んでいた。


 もっともそれは圭とて同じだったのだから、そういった意味では長井が一枚上手。長井にもまたしてやられたと言うことになるか。


 藤島にとって選択の大きな要素であった長井が根本から違ったことで、自分の選択した道がどうなるのか分からなくなっているのだろう。そういうやつだからこそ、アリスによって操られるし、リーダーの器になれないのもある。


 そういった意味では……こいつはもう……何もできない。


「藤島の気持ちは十分察するよ」

 そう声をかけたのは森。藤島の肩にそっと手を置く。


「こっちも想定外だった。わたしもてっきり、長井は藤島側に来ると思っていたからな。お前も、長井と手を組んで状況を打破しようとしていたのだろう。

 しかし……状況は大きく変わってしまった……」


 森は今度、藤島の手を真正面から握り締める。


「しかし、安心しろ。お前の選択は間違っていなかった。それをわたしたち解放者が結果をもって証明する。すべての支配を終わらせてやる。キングダムを打ち崩し、コントラクトの支配を断ち切って見せよう。

 わたしの意思は……思想はその一点だ。


 そして、それはすぐそこにある。藤島……お前の力……ニューキングダムをもう少しだけ、使わせてもらうぞ」


 ……どちらにしても、今の藤島が頼れる人物はアリスしかいない。藤島はアリスの仮面を前にしてぐっとアリスの手を握り返していた。



 その日の夕方、森と圭はLIONを通じて通話をしていた。

『まぁ……なんとかなったということで……いいのかな?』

 少し不安げな声を出す森。


「いや、十分だ。アリスのアシストもあったし、悪くはないだろう。それに必要だったのはあくまでニューキングダムという組織だ。これで、実質真の王率いるキングダムとの決戦にもなりうる」


『それならいいけど……』


 少し森と会話しながら、ふと少し疑問に思ったことをつぶやく。

「ところで……アリス……お前の本当の思想は……なんなんだ?」


『……え?』


 不意の質問になったためか、森の声が閉ざされる。


「はっきりと言うが、長井の言葉は的を射ているとしか言いようがない。関係のない赤の他人のために自ら立ち向かう……そんな偽善者はそうそういない。

 俺だってそんな偽善者ではまったくない。田村も長井も……そうではなかった。


 お前は……どうなんだ?」


『……前に言わなかったっけ? もともとあたしと友人でコントラクトのグループを作って、キングダムに入った。けど、そのキングダムが支配形態に変わったから、それを元に戻すため』


「それこそ偽善じゃないのか? 田村がやったように、自分たちのグループをピラミッドから抜けるようにしたらいいだけだろう。

 キングダム自体を覆す理由にはならない」


『……』


「思えば、俺とアリスが出会ってからずっとそうだ。最初は自分の支配を逃れるためだと思っていたが……お前の行動範囲はそれを超えているように思える」


『それはわたしが本当の偽善者……いや……ヒーローだからなんじゃない?』

 そのセリフが吐かれた後、向こうから一方的に通話を切ってきた。


 森太菜……お互いの関係もあるが……やはり、まだ相手のことはまだ理解しきれていないらしい。

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