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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第2章 進むべき道
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第16話 長井の友情

 藤島のそのセリフの後、長井はしんと黙り落ちた。うつむき大きなため息を吐く。そのまま、少し歩くと教室の壁にもたれかかった。


「……なるほどね……良く分かったよ……。君の意思はもう揺るがないんだね……。おそらく、零士くんの発言もおおかたその通りなんだろう……。となれば……僕も零士くんに騙されていたという事……なのかな……」


「……な……なら!」

 藤島が声を上げるがすぐに長井はそれを止める。

「……でも無理だよ。僕は……アリスや小林くんに手を貸すような真似だけはできない」


 ここにきて長井の言葉が予想外の方向に傾き始めてしまった。極力顔には出さないようにして、長井の言葉に耳を傾ける。


「藤島さんの気持ちは十分理解したつもりだよ。零士くんの思惑はもしかしたら僕らの思想とは異なるものなのかもしれない。だけど……悪いけど僕は……友人である零士くんを取ろうと思う」


「なぜ?」

 思わず圭の口から疑問の声が漏れてしまう。


「君が言ったんじゃないか」

 長井は圭に向けて爽やかな笑みを浮かべる。


「選択肢は二つ。敗北して力が落ちたとしても友人である零士くんに付いていくか。それとも、みんなを解放するという意思を受け継ぐか……。僕はその中で、前者を取るというまでだよ」


「……先輩は……田村先輩に騙されているかもしれない……というのにですか?」


「それでも零士くんは僕の友人だからね。状況と藤島さんのことを確かめるためにここに気はしたけど、最初から僕の答えは決まっていたんだ」


 ……なぜだ……。ここにきて長井の思考を誘導しきれていなかった? ……というか、この状況でもなお田村を取るなど……思ってもいなかった。長井は……思想を大事にするタイプだと思っていたのに……読み違えた……のか?


「何を言っているんですか? 田村先輩は敗北者。彼に付いたとしても価値はない。思想を成し遂げるには……藤島さんとともになるか、自ら立ち上がるしかない。そのどちらも拒み、あなたは敗北の道へ進むというのですか?」


「逆に聞こう。負けたからと言って友人の縁が切れるともうかい? 価値があるかないかで……友人を選ぶものなのかい?

 それは……さすがに違うんじゃないかな?」


「そ……それは……別に、友人を捨てろとも見捨てろとも言っていませんよ。ただ、あなたの思想を成し遂げるには」


「思想と友人なら、僕は友人を取ると言うことだ」

「……っ」


 ……そうか……長井は……解放者としてよりは、田村との友人のほうが大きい存在だったわけか……。圭の行った誘導も……こいつは効いていなかったわけか……。


「……分かりました」

 ならば、もういい。想定外ではあるが……問題はない。ならば、逆に利用するまでのこと。


「所詮……長井先輩も田村先輩も……、みんなを救うということは……それほど重要ではなかったというわけですね……。コントラクトの支配を受けている人たちがいると知りながら、……自ら解放者として立ち上がりながらも、結局は友人を取るわけですか……」


「どうとでも言うといいよ。僕の決意は変わらない。そもそも僕はコントラクトで支配を受けているわけでもないし、零士くんも支配からは解放されているんだ。

 他人のために自らを危険に追い込めるほど、僕はヒーローでは……偽善者ではなかったというだけさ」


 これは……長井の本音なのだろう。長井だって偽物の解放者を名乗ったのは田村の指示であって、自らの意志ではなかった……というわけか。


 隣には少しショックを受けたように顔をゆがませる藤島の姿。

「……長井先輩……それは本気で言っているんですか?」


「……別に君に嘘を付いていたわけではないよ。みんなを救いたいという気持ちも間違いなく本気だったと思う。だけど……それより優先順位が高いものがあった……それだけの話さ」


 藤島に対してニコリと笑みを受けると、また圭に視線を戻した。

「君に聞いていいのかは分からないけど、解放者は実際、どういう思想で動いているんだい? なによりも解放を優先する、みんなを救うことを最優先とする偽善者チームだとでも言うのかい?」


「……」

 それに関して、本音を言うならばYESとはいいがたい。少なくとも圭もまた、解放者には意図してなっていない。森によって脅されたところから今の至るのだから。


 今でこそ、自らの意思で解放に向けて動いているが、その中での最優先はあくまで次郎……すなわち……そうか……。圭もまた……長井と同じなのか……。


「当然だ!!」

 そんな中だった。教室の中に一人、そのセリフと共に勢いよく入ってくる人物がいた。仮面ファイターの仮面をかぶり、堂々と宣言するそいつはアリス……すなわち森太菜。


「……アリスさん!?」

 藤島、そして長井が驚愕する中、一歩長井に向かって歩み進む。


「解放者はコントラクトで支配を受けているものすべてを解放するため動いている。偽善者? そうだ、そこになんの問題がある?」

 森がいつになく力強く、長井に負けないようにはっきりと言葉を並べていく。


「長井敏和……少しは認めていたが……どうやら底が知れたようだな。お前は解放者の器からは程遠い。敗者と共にいるのがお似合いだな」


 ……森……こいつ……策の切り替えを察して助け船を出してきたのか……。


「もう結構だ。長井……お前に用はない。だが、安心してくれていい。少しでもお前が望んでいた皆の解放はわたしたちが成し遂げて見せる。

 藤島さん……あなたもついてきてくれるんだよな?」


 藤島の肩にポンと手を置くアリス。さすがに少し攻めすぎだと思ったが、その心配は無意味だった。

「……あ……はい」

 アリスは想定よりずっと藤島の信頼を得ていたらしい。長井の前でしっかりと首を縦に振った。


 対して長井は最後まで爽やかな笑みを崩すことなく、黙って教室を出ていった。

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