第11話 ゲーム
『ふふふ……あっはははは……』
……?
突然、スマホの向こうから笑い声が聞こえてきた。状況から考えれば……にわかには信じがたいが……田村の声か……。
間に挟まっている森からも疑問の声が漏れている。
なおも笑いが聞こえ続ける。田村がこんな風に笑っている姿などスマホ越しではまるで想像できない。もしかして……これが田村の裏の姿……?
『……なぜですか?』
……? 今度は藤島の声が聞こえてきた。田村に問いかけるセリフ。
『……なぜ、この状況で笑っているんですか?』
これは森が藤島に指示したセリフではない。すなわち、藤島が独断で発しているもの。
『これ、止めたほうがいい?』
森が心配して投げかけてきた。
『……いや、ひとまず好きに言わせておけ……。面倒ごとになりそうならすぐに止めに入れ』
状況を一番理解しているのは現場にいる藤島だ。ここはゆだねてみよう。
『なぜか……ですか?』
田村が笑いを止めて質問を返す。
『ふふっ、簡単じゃないですか。楽しいからですよ。あなたが追求した通りの話でしょう?』
……。
『……あなたは……仮にも裏切られたんですよ……? 自ら勝利を手にして、支配から抜け出し、真の王に再戦しようとした矢先のこと。
怒りをあらわにするならまだしも、楽しい?』
藤島の疑問はあまりにまともだった。誰もが当然のように思う事だ。だけど……田村はそういうタイプではないというのはすぐに分かった。
『藤島さん……、あなたはゲームが好きですか? わたしは大好きです。では、ゲームが好きなのか……それは……何が起こるか分からないからですよ。
ゲームは……すべて終わるまで結果は分かりません。うまくいって勝ちを確信しても、実は相手の策にはまっていたのかもしれません。負け確定寸前のところで強運が付き大逆転もあるかもしれません。
自分の意思だけですべてが決まらない。自分の思い通りにすべていかない、だからこそ面白いのでしょう。そんなゲームで満ち溢れている日常は……ワクワクに満ちている』
『……それが……先輩の本心?』
藤島がさらに質問を重ねるが、田村はそれに答えるより自分の言葉を続ける。
『確かに、藤島さんはわたしに反乱をして見せ、ニューキングダムの独立をしてのけました。わたしは藤島さんに負けました。
では、わたしはここで終わりなのでしょうか? わたしはすべてを失うのでしょうか?』
……それは……。
――否――
『否』
分かっている。
『……なぜ? ……ほかにも策があるというわけですか?』
『むろんでしょう。これはコントラクトと言うアプリと学校という舞台で繰り広げられるゲームの一場面でしかありません。ゲームというものは……攻略ルートが多彩に存在するものなんですよ?
今でもわたしの心の奥ではワクワクがまるで止まっていません。はっきりと感じます。では、次の手はどういこうか。ほかの道はないのか…』
……この田村のセリフ……、どうも圭には他人事には聞こえなかった。おそらく圭の奥底では同じようなことを思っているのだろう。でも……それはこの状況下では絶対表に出してはいけない感情だと圭は思う。
代わりに次郎を救い出すという目標を掲げて……その意思で動く。それはもしかしたらただのメッキ、嘘なのかもしれない。
だけど、そのメッキははがしてはいけないもの。しっかりと塗り固めないといけないもの。
『君は感じませんか? このゲームはまた新しい展開を迎え始めています。環境が変われは……ゲームはさらに進む。わたしはそれを感じ取り、追うだけです』
だけど、この人は……躊躇なくそれを見せるようになってしまった。果たして……これはどちらが正解となるのだろうか……。
『あぁ、そうですね。これからは見物するのも面白そうですね。藤島さんがこれからどう動くのか、アリスやボブがどう絡んでくるのか。真の王との決着はどのようにつくのか。
第三者視点から楽しむのもいいかもしれません』
……。
『藤島さん、ニューキングダムはあなたに預けるとしましょう。どう使おうがあなたの自由です。これからのあなたのご活躍を……楽しみにしていますから』
そこまでセリフが聞こえた後、突然教室のドアが開かれた。中から出てきたのは田村零士。真っ先に視線が向けられたのは、それを遠くから眺めていた圭だった。
仮面ファイターの仮面越しに、田村と視線がぶつかってしまう。
『やはり、この話は聞いていましたか。ここはあえてボブさんと言っておきましょう。聞こえているんですよね?』
田村の視線がまっすぐとこちらに向けられている。ただ、圭は一切の反応を見せず田村を見続ける。
『ボブさん、わたしは分かっていますよ。あなたもわたしと“同類”です』
遠くからでもわかる田村の不敵な笑み。
『これから、ますます面白くなりそうですね。しばらくはあなたの活躍を離れたところから楽しむとします』
その一言を最後に告げると、田村は何事もなかったかのように教室を後にしていった。
田村零士……最後に、疑心の種をまいていきやがったな……。




