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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第2章 進むべき道
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第9話 追い詰め

 藤島と田村がいる教室の中は、今頃かなりの人数で埋め尽くされていることだろう。入っていくのを見たところ、三十人は固いか……。当然、それはすべてニューキングダムの一員、またはそれに賛同した者たち。


 この三日間で藤島と森にしてもらった準備はこの仲間を集う事だった。現状を説明し、この状況を作り出すために協力を募った結果となる。


『なるほど……藤島さんはわたしに対して反乱をしようというわけですか……。しかし解せないですね。別にあなたがたをわたしの遊び道具にしようなどとは思っていませんよ?


 わたしはみなさんを解放するためにニューキングダムを結成しました。すべてはみんなを解放するために必要なこと。藤島さん……あなたは随分とひどい言いがかりをしようとしていませんか?』


『あらかじめ言っておきたいのですが、あたしはあなたと長井先輩、そして小林圭という人の三人で話していた会話を聞いていました、隣の教室で。


 録音したものをここにいる全員で共有しています。なんなら、この場でお聞きさせましょうか?』


『そうですね。ぜひとも聞いてみたいものですね』


 会話通りしばらくすると、かなり遠い声ではあったが、音ファイルの音が聞こえてきた。


 あの時の会話がそっくりそのまま流されていった。田村と圭のやり取りから、長井が来た後行われた会議、そして圭と田村と二人に切りなった後のやり取りまで。すなわち、田村が一つ本心を述べた分まで。


 それは、解放者が抱くべき思想からはかなり離れたものなのは言うまでもない。


 実際は藤島が取ったものではない。圭が取ったものを森が……そして、それが藤島へ、ニューキングダムのメンバーへと伝達された。


『ではもう一度聞きましょうか。田村先輩はあたしの言葉を言いがかりとおっしゃるのですか?』


 この藤島の問いに対して、わずかながら鼻で笑う音が聞こえてきた。


『これはおかしいですね。あなたはさっき、隣の教室でこれを聞いたとおっしゃいましたよね?


 にしては……随分とこの音声ファイルは、音質が高いと思いませんか? 多少服がこすれた音など聞こえるし、声もこもっています。ですが、そこまでわたしの声は遠いようには思えない。


 少なくともこれほどはっきりとした音声を……隣の教室から壁越しで取れるとは思えないですね……。感覚としては誰かのポケットの中……。わたしでないとしたら敏和くん……いや、これは敏和くんが帰った後の話も入っているのですから、一択。圭くんのポケットの中で取られたもの……。


 なぜ、そんなものがあなたの手からでてくるのでしょう?』


 まぁ、田村が当然理解できることだろう。だが、それを田村が推測したところで何も変わらない。それに田村はニューキングダムのメンバーがいるこの状況下ではこれ以上の追求すらできない。


 田村はすぐにアリスとの繋がりを察したことだろう。圭が解放者ボブでアリスからさらに藤島に渡ったことはもう理解したはずだ。


 しかし、それをどうやって説明する? 自分たちが偽物で……いや、本物解放者で別に偽物の解放者がいると言ってもいい。そして、その偽物の人物の手を借りてこの音声ファイルをでっち上げた?


 藤島を悪者にするなら、偽物の手を借りて田村を貶める策を考えたということになるか……。アリスを悪に仕立て上げたいなら、藤島やほかのみんなはその偽物に騙され操られているんだと言うか……。


 だがどちらも弱い。それは音声ファイルに残された田村の発言を上塗りするほどの影響力にはなりえない。

 

 もし、音声ファイルを聞いた直後、これは自分の声ではない、でっち上げだと言えば少しは変わったかもしれない。しかし、田村は頭が回る。そのセリフではただの言い逃れで説得力には欠けると判断し、より確実な攻めを選択する。


 おそらく、圭もその場で起こったらその選択をしていただろう。しかし、それはそれで茨だ。


『確かにあたしにはこの音声ファイルを提供してくれたバックがいます。皆さんにもそれは言ってあります。ただ、あなたの不純な動機に嫌悪し、あたしと共に戦ってくれる本物解放者なんですよ』


 素晴らしい、傑作だ。嘘は何一つとして言っていないのだから。藤島も想定よりしっかりやってくれている。


 すべて森が指示した言葉を発しているだけ。それゆえにタイムラグやしゃべり方で違和感はでてくる。しかし、藤島はバックがいることをすでにメンバーに話して、この場に立っているのだ。この状況は十分だ。


『……バック……そのバックとは誰なのでしょうか? 本物の解放者? 違いますよね? それは偽物の解放者のことですよね?

 聞いているんでしょう? ねぇ、アリスさん、そしてボブさん?』


 偽物に対して言及してくるか……。それも想定通りだ。ニューキングダムのメンバーはざわついたようだが、問題ない。


『聞いてください。皆さん、わたしは敏和くん……すなわち皆さんが知っている解放者と共に戦ってきました。しかし、その前に立ちふさがるものがいました。偽物の解放者です。


 たしか、敏和くんが演説で一回その話もしていたはずです。実際は真の王と偽物とわたしたちの三つ巴のエンゲームだったんです。そしてわたしたちは二勢力に対して勝利しました。その偽物がアリスとボブと名乗る人たちです。


 あなたは……藤島さんは彼らに騙されているんです。皆さんも含めて、騙されているだけなんですよ?』


『ではなぜ、小林圭が取ったのであろう音声ファイルがその偽物に渡ったと思ったんですか?』


『……』

 ピタリと田村の口が止まる。誘導されていたのを察したらしい。

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