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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第2章 進むべき道
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第8話 反旗を翻す

 田村が教室から出ていったあとのこと。ずっと録音し続けていたボイスレコーダーを停止させ、ゆっくりと廊下を出た。

 そして、真っ先に視線を向けるのは隣の教室。


 圭がいた教室より一歩南、奥側。こっそりとその教室の中を覗くとそこには藤島奈美の姿があった。黒板のすぐ下で座り込み、壁にもたれかかっている。

 こちらの教室の中の話はある程度聞こえていたはずだ。


 これも当然作戦通り。森にこの会合の場所時間を教えた後だ。森は藤島に今後の話をするためにと言って、あの教室に越させた。むろん、実際は田村との会話を聞かせるため。


 かなり早い段階で教室に圭が入ったのは、田村や長井が奥の教室に誰かいないか確認しようとするのを避けるため。事実、田村は奥の教室に行こうとしたので、しっかり止めておいた。

 

 この後、藤島がどう動くか……。いや、藤島の動きはこちらに決めてやる。とにかく、今は藤島にばれないうちに教室を離れた。



 にしても、田村が最後に言ってきた一連のセリフ。本心といったあの言葉は……。

 あれを信じるのだとすれば……、少なくとも真の王に再戦することを楽しんでいるということになる。……案外、次郎の言う通りなのかもしれない……。


 いや……それよりもだ……。手を打つなら早くしないと……。もう、今すぐにでも結構したいレベルだ。

 少なくとも、長井が藤島のチームに入るより先に動かないと……。


 多分、田村もこの策を推測しているのだろう。今回のこの策には解放者がとるであろう行動に対するけん制も大きな意味合いになっているはず。

 しかも、今すぐ決行するわけではないあたり……、向こうもまた、誘いに来ていると考えていい。


 こちらとしては、いい手ではないかもしれないが、その誘いには乗るほかない。田村はおそらく、アリスの反乱は想定内だ。チャンスがあるとすれば、藤島の裏切りを想定しているかどうか……。


 ここまで来たら、想定している可能性も出てきた。ある程度は見込んでいたのかもしれない。であれば、その裏をかくしかない。

 これはまた、想像以上にスピーディに進めていかないと。


 家に帰るとすぐに通話ボタンを押した。相手は森太菜。

「アリス。今回のやり取りの音声ファイルを送る。決行は準備ができ次第すぐだ。藤島をしっかり誘導しておけ」


 森は特に質問することもなく「了解」と告げ、通話は切れた。



 予定の準備が完了したのは三日後だった。想像以上に素早く準備が整ったのは非常にありがたい。だが、この状況ではそれでもギリギリと言ったところか……。

 田村には感づかれないように配慮して進めてきたが、果たしてうまくいくかどうか……。


 圭は一人空き教室で解放者の仮面をかぶって待機した。田村と藤島の決選教室が見える位置。

 向こうから藤島がやってくるのもしっかりと見えた。


 ちなみにアリスは隣にはいない。策に事情、アリスは裏で藤島に指示を出す側。すなわち、藤島とアリスが無線でつながっており、そのアリスと圭がまた無線でつながっている状態。


 作戦の内容は実に簡単だ、少しでも考えれば誰もが思いつく。だが、だからこそ、田村にとってそれが想定外となる……はず……だと思う。

 少なくとも、田村からしてみれば想定相手は解放者だ。そこをしっかりついていければいい……。


 やがて、藤島が予定の教室へと入っていった。その直後、スマホに音声が入ってきた。


『藤島さん。こんにちは』

 田村の声だ。


『こんにちは、田村先輩……』

 次に聞こえた声は藤島のものだった。だが……声が震えているように思える……。


『どうされたのですか? かなり緊張しているようですね?』


「アリス、藤島に声を変えろ。リラックスさせてやれ」


『藤島さん、大丈夫。安心して……“みんなが”付いているから。深呼吸して……落ち着いて』


 おそらく藤島の呼吸音が聞こえてくる。それにかぶさるように田村の声が続く。


『わたしに話があるんですよね? 相談ですか? ゆっくりと聞きますから話してください』


『あたしは……』

 藤島の声が聞こえたが、すぐに止まる。代わりに聞こえてくるのは深呼吸の音。スマホを二つ通しているのに分かりやすく伝わる緊張。

 だが、それでいい。それぐらいの人物だからこそ、これを成し遂げられる。


『あたしは……そしてニューキングダムは……。田村先輩……あなたからの独立を宣言します!』


 かなりの沈黙の後、田村の声がそっと漏れる。

『……それは……どういうことですか?』


 あまり驚いたようには聞こえない。状況を噛みしめて冷静に選んだ言葉に見受ける。これは想定内ということだろう。

 だけど……果たして……これは……想定内かな?


 圭はチラリと教室の外を見た。すると藤島たちがいる教室に向かってどんどん歩みを進めていく人たちが。

 だんだん、スマホにも無数の足音が聞こえてくる。


『……かなりの人が来ているようですね……これは……一体……』


 田村の疑問の声が漏れる瞬間だった。教室のドアが開かれ、無数の人たちがなだれ込んでくる。


『何事……? まさか……君たちは……ニューキングダムのメンバー!?』


『そうです。……あたしは……いえ、あたしたちニューキングダムははっきりとここに宣言します。あなたの遊び道具になど……なりはしません!』

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