第7話 田村の本心
長井が立ち去ったことにより、教室で田村と二人きりとなった圭。その空気は緊迫そのもの。
さて……この状況に持ち込んだはいいものの、この後はどうすればいいものか……。
「いやぁ……早速釣れましたね」
不敵な笑みでそんなセリフを吐くのは相手。
「……釣る相手……間違えていません?」
「間違っていないですよ」
圭をエサにして真の王を釣ろうと言っていたのは一体どこの誰だったのだろうか。
「そういえば先輩……長井先輩が来る前、昨日の夜にやった次郎とのやり取りの内容を気にしていたみたいでしたが……ここで話しておきましょうか?」
「あぁ、それならばもう大丈夫です。あらかた、内容はすでに理解しました。ただ、どこまで話されたのか……知りたいんですけどね」
……ここでは、ある程度迫っていくべきだな。問い詰める形で推し進めてみるとしよう。
「直接、次郎から聞いた話は大きく分けて二つ。一つは、先輩と直接会って、その本心を聞いたということ。そして、先輩は危険な人だから、できるのならば逃げてくれと言っていました。
頭のおかしいゲーム狂だと……聞きました」
田村は圭の言葉に軽く笑いをこぼした。
「少し誇張されたみたいですが……、概ね西田くんに抱いてほしかった印象は伝わってくれたみたいで……なによりですね」
「……それは、本当なんですか? 今、真の王を倒すため動いているのも……そういうやり取りやゲームが楽しいから、やっているんですか?」
「それは西田くんにも言ったのですが、君の想像にお任せしておきましょう」
否定はしない……あくまでの判断は相手に委ねる。この感じは、本当にどちらなのか捉えきれない。何かしらの意図がありそうで、つかみづらい。
「正直言っていいなら、少し疑いを持っています。さっき言ったように、アリスという人をチームに取り入れたのが、面白半分だったのならば……、解放するのが第一目的ではなく、あくまで楽しむという前提で行っている行為なのだとすれば……、俺はこれ以上、先輩に協力したいとは思えないんです」
「……では、アリスと組んでわたしを倒しに来ますか?」
……これは圭の策を見越しての言葉か……ただの釘差しか……、ハッタリか。いや、圭が解放者ボブであると仮定すれば、当然出てくる選択肢。
「別に先輩を倒そうだなんて思いやしませんよ。俺には何のメリットもないんですから……、どう考えてもそんなことはしないです。ただ、かかわるのをやめると言っているんです」
「それは残念です……しかし、君がその選択肢を取るのだとすれば、わたしは止めません……強要などはするつもりありませんから」
まったく否定をしに来ないな……。圭や次郎に自分のことをどう思われようと気にも介していないのか……。
なら、別の方向から行ってみるか……。否定しないなら、それを利用すればいい。
「でも……先輩に聞いておきたいことがあるんですけど……いいですか?」
「かまいませんよ。何でしょう?」
圭は一呼吸を置いた後、意を決して言ってみた。
「先輩が追っている影武者って……次郎のことなんですか?」
あまりに分かりきっている話。だが、ただの小林圭は知らない。それに対して、この人はどう出るのか……。
「……どうしてそう思われたんですか? ……って、聞くまでもないですよね。そうでなければ、このタイミングで西田くんとわたしが会っていた理由の説明ができないですからね。
そうですよ、君からすれば非情な話だと思ったので、隠していたのですが、わたしが西田くんに近づけば、すぐにばれてしまいますよね」
……そして、そうやって次ぐに圭にまで情報が流れることを前提で話を進めていたんだ。実際、圭と次郎の仲を気にしていたのも、ここからだったのだろう。
「でも、勘違いしてほしくないのですが、西田くんは決してわたしたちの敵ではありません。あくまで西田くんは真の王による支配を受けて、影武者に仕立て上げられた身。彼もまた、解放する相手ですから」
「……遊び半分でやっている人にそんな話をされても……何とも言えませんね」
「それを言われたらなんと返せばいいのか……」
……もう一押しか……。
「最後に質問、ならばなぜ、俺を先輩のチームに迎え入れようとしたんですか?」
「……」
ここにきて、田村の口が止まった。
「おそらく、影武者の正体が次郎であること、俺にバラし前提だったんでしょう? いや……長井先輩が来る前のやり取りで、俺がすでに感づいていると思っていながら、知っている前提で……この編成を指示してきたんでしょう?
なぜですか? やはり……、それが楽しそうだから?」
一歩前に出て田村に近づく。
「先輩は……、俺とその友人の関係が崩れるさまを見て楽しんでいるとか? いや……違いますか……。次郎の正体が影武者だと知った俺が反応し、どう動くのかを見て楽しもうとしている……違いますか?」
自分で言っているが、これは違う。解放者ボブが今更影武者の正体がどうのこうので、面白い反応などあるはずがない。あるのだとすれば、こいつは……解放者ボブをさらに躍らせることに楽しみを感じている。
そして、この意図は十分伝わっているはず……。
「そもそも、影武者の正体が次郎だと分かっていて、かつ俺のことを案ずるなら俺をチームに迎え入れなかったはずです、協力を求めなかったはずです。ということは……それも含めて楽しみとしていた」
「……これでも、君を確かな戦力として見ていたんですけどね……。確かに西田くんのことはつらい話ですが、君ならそれを乗り越えられるだろうと、なにより西田くんを救うために……動ける人だと思っていたんです」
まったく……どれが本心で、どれが口先か……。いや、どれも口先か……。どうせ、こいつの真意など分かれやしない。
「本音をしゃべれ……そういいたそうな顔をしていますね」
「……」
圭が言い返せないでいると、田村は不敵な笑みを浮かべつつ、少し圭から離れた。そのまま、背中を見せつつ顔だけ圭に向けてくる。
「では、わたしの本当の本心を一つ教えておきましょう。わたしはね……ゲームが好きです。勝てると楽しいし、負けると悔しいです。そして、悔しくて、絶対に次は勝ちたいと思います。そして、実際に勝てたときは……さらに楽しい」
右手から指を一本伸ばす。
「わたしはかつて、真の王にすべてを奪われた。悔しかったです、わたしが積み上げた楽しい戦績を横からかっさらっていったんですよ?
奪い返したいと思いませんか? どうやれば奪い返せるか、どうすれば勝てるか考えるのは……どうやったら楽しくなれるか考えるのは……ワクワクしませんか? 実際に勝てたら……なんて楽しいことなのか……」
そんなセリフを吐いた後、こんどはドアの前で両手を軽く広げた。
「君はこんなわたしを見たあとで、どうしますか? すべてはあなたの判断に委ねます。
君はこれからどう動くのでしょうか? 解放者の皆さんは、どんな風に動いてくるのでしょうか? 今から楽しみでなりません」
その言葉を残して、田村は教室を出ていった。




