第6話 謎のタイミング
圭によるチーム数を減らすという提案を受けた田村。それは今度、長井に振っていく。
「敏和くんはどう思いますか?」
「……うん、悪くないと思うね。正直、何も起きなくてどうすればいいのか悩み始めていたから助かったよ。ちなみに、チーム編成はどう変える?」
「はっきりとした答えは後で出しますが、おそらく敏和くんは藤島さんのチームへ。圭くんはわたしのチームに迎え入れようかと思っています」
……! そう来るのか…。意外にも程があった。藤島のチームに圭と長井まとめて放り込むと思っていたのだが……。
まず、田村が今追っている人物は影武者こと西田次郎。そんな中に友人の圭を入れるのは避けたかったはずだ。しかし、だからと言って圭を藤島チームに入れたら、アリスと圭という不穏な存在が二人になる。
しかも、圭が解放者の可能性があるなら、それも避けるべき。
そして、現状では、とにかくニューキングダムの勢力を挙げるのが先決。であるならば、メンバーを藤島チームに集めれば、勢力を大きく見せられる。そして、長井という監視役を置けば、圭とアリスの行動に制限もかけられる。
しかし、結果は避けたいはずの、圭を田村チームに迎え入れる。何も知らない圭としては戸惑う話ではないが、田村が追っている相手を知っている圭から見てしまえば、あまりに不可解。
「具体的な話は改めて報告しようと思います。では、ここでもう一つ、話を一つしておきましょうか」
圭の不可解は残念ながら、今の状況で疑問として述べることはできない。長井は事情を知っている身なので、止めることは可能だが、これまた残念。基本、長井は田村の指示に従う立場か。
であれば、このまま話を通すしかあるまい。
「君たち二人は、アリスさんからの接触、ありましたか?」
……っ!?
「え? アリス……いや、特にはないけど」
長井が一度過去を思い出すようなしぐさを見せて、そう答える。
「俺も全くないですね」
そう、平然と答えたが……正直なところは少し不意を突かれている。まったく、考えることが多すぎる。
「なぜ、いきなりそんな話をするんだい?」
「アリスさんが何かしら企みを持っているかもしれないからです。今はわたしに協力してくれるという形になっていますが、あくまで口約束ですし……、あくまで敵が同じだから共闘しているだけ、本来なら敵対している人物とすら言えるほどですからね。
まぁ、二人にはこれからもアリスさんには十分な注意を向けてください。特にチームに入る敏和くんは」
……今更すぎないか……その話は……。
「そういえば、なぜアリスとはコントラクトで契約を結ばなかったんだい? そうすれば少しは不安を削れたと思うんだけど」
「それはどうでしょうね。実際、わたしがコントラクトで共闘契約を結びましたが、穴をついて裏切った経緯がありますからね。そんなことがあった仲で、アリスとわたしの間で再度契約などほとんど無意味でしょう。
向こうからはコンタクトで契約するなんて話を一切してこなかったし、わたしもそれは重々承知して受け入れました。もはや、この間ではコントラクトで結ぶ契約は大した価値にならないんですよ」
まったくだ……。少なくとも、こいつから約束を守るための契約を持ち込まれても、了承したくはないな。
しかし、このタイミングなのはなぜだ……。この感じだと長井にもこの話はまだしてなかったように見受ける。アリスが危なっかしい存在なのはチーム編成前から十分察しているはず。
この話をするなら、結成直後にしたはずだ。いくらでもこの話をするタイミングならあったはず。
なら、このタイミングならではの……。
チーム編成を変えるという提案……? それじゃない、もっと根本……。変わり始める発端……。
次郎と田村のやり取りか……。であれば、あの音声ファイルで起こったのは……こいつの策の一つ……。
……試してみるか……。
「先輩、そんな不安なら、なぜそもそもそのアリスというやつをチームに迎え入れたんですか? しかも、目の届く位置ではなく、藤島さんのチームに入れたのも……、その先輩の警戒様から見れば、それこそ愚策だったのでは?」
田村は「いい質問だ」と言わんばかりに、いい笑顔で圭に指さす。
「まず、アリスさんと藤島さんチームに入れたのは、単純。危ないからですよ。近くにおいて、足元をすくわれたら嫌ですからね」
その答えは的を射ていないように思える。だからこそ、近くでしっかり見張っておくべきだろう。遠くに置いておくほうが、どこで策を練って足を引っかけようとしているか分かりづらい。
「また、アリスさんに力があるのも間違いないですからね。協力していただけるのならば、確かな戦力にはなりますから。実際、藤島さんチームで、大いに活躍していただいているようですよ。
それに、わたしは一度、アリスさんを騙した身ですしね。本来なら起こってしかるべきレベルなのに、彼女はむしろわたしに手を貸そうとしてくれました。彼女の思いも受け止めているつもりです。
一度裏切ったわたしに協力を持ち掛けてくれる彼女に対して、断りを入れるのは筋違いなのではと考えた結果だったんです」
後半の話は……筋が通っていると言えば通っているか……。しかし、田村というキャラが、筋違いなどという話で、受け入れるか……。そういう話は、ある程度ばっさり切りすれ垂れる人物像になっていたが……。
やはり……かましていくしかあるまい……。
「それ……本心なのですか?」
「……どういう意味ですか?」
少し田村の表情が変わるのを確認した。
「実際は……、そのほうが面白いからじゃないんですか?」
このセリフを放つと、田村の圭を見る目が明らかに変わった。手ごたえはありすぎる。
「アリスという不穏分子をチームに迎え入れたのは、そこから何か面白い展開が生まれる可能性を見出したのではないんですか? この不穏粒子がいることで、自分で描いた策がどう転ぶか分からなくなる、そんなスリルを楽しみたい……とか?」
いくら何でも、この考えが田村の的を射ているとは思えない。さすがに悪手すぎる。ワクワクを求めるにしても、もっと勝利に近づける策になるはず。だが、問題はそこではない。
田村零士が……こちらの合図に気づくかどうか……、言うまでもなく気づいているか……。
「小林くん……突然なにを言い出しているんだい? いくら何でも、それはあまりにおかしな話じゃないかい?」
「敏和くん。今日は一旦終わりにしましょう。このままこの教室から出て行ってもらえますか?」
圭が放った唐突の推測に突っ込みを入れる長井。それを抑止したのは田村零士だった。
手を挙げて長井に静止をかける。
「少し、圭くんと二人きりで話したいことができたんです。了承していただけませんか?」
長井は田村に対して何か言いたそうに口も少し動かす。そして今度は圭のほうを見てくる。本来なら、圭にさっきの言葉の訂正を求めたいところだったのだろうか。しかし、長井は基本的に田村の指示に従う立場。
「……分かった。じゃあ、先に今日は帰るよ」
そういって、素直に教室を出ていった。
それからしばらく、たったころ。長井が本当に離れたところを見計らったのか、ぐいっと圭に近づいてきた。
「というわけで、少し圭くんとお話したいのですが……、もちろん構わないですよね?」
田村は右片の広角をこれでもかと吊り上げ、圭を睨みつけてきた。
間違いない……、田村もまた、この状況は想定通りだったわけだ。




