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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第1章 絶望のボブと日常の圭
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第14話 もう一度……

 次郎から音声ファイルを一通り聞き終え、頭を整理するため一度、来ていた制服を着替えに動いた。

 茶を飲んだりして一息ついた後、もう一度スマホに手をかける。


「……俺は一体、これをどう捉えるべきなのか……」


 圭だって、なんやかんやである程度、田村のことは知っているつもりだ。むろん、彼の腹に抱えている者や、思考などは分からない。でも、その性格と、どういうタイプの人間かは分かる……。


 と言いたいが、その田村がすべて演技だというのであれば、その話は全て崩れ落ちることになる。


 何しろ、圭だって田村の前では偽りの自分を演じていたのだ……。そもそも、圭が大半を共にした田村は、コントラクトの影響で記憶が改ざんされていた状態。それを踏まえるとすれば……やはり、何も田村のことは知らないというべきなのか。


 もう一度音声ファイルを再生し、片耳でそれを聞きながら思考を続ける。


「ここで考えるべきことは……この田村のセリフの意図か……」

 エンゲームに対して、コントラクトを通じた契約合戦に対して、ワクワクするという感情を本当に抱き、その感情の元、行動しているのか。


 いや……今本当に考えるべきことは……そこなのか? いや、それは違う。こんなこと、いくら考えてもはっきりとした答えは出ないんだ。ならば思考するだけ無駄な話。


 事実、不確定ではっきりとした答えが得られないことに対して、答えを出そうと突っ込み続けたその結果はどうだった? あの敗北だろう。

 圭は田村の思惑通り、偽物の解放者にひたすら翻弄されたのだ。偽物の解放者がどの立場のものなのか、それを暴くことに意識を向けすぎていたか……。


 この場合、圭がなすべきことは……、可能性を想定して対策をすること……自分がどう行動するべきか、思考する。


 それか……、

「直接、先輩に聞いて確かめてみるか……」


 ただ、田村は、圭と次郎が今喧嘩中であると認識している。その状況下で連絡を取り合うのは不自然となるのか……。

 いや、関係はないか……、実際、喧嘩中ではあっても、情報が流れてきたのが事実だ。今更、そこに不自然が出ようとも……。


 今思えば、今日の下校時、田村が圭に声をかけてきたこと、そして一緒の下校をしてきたのも、これに関係するのかもしれない。

 釘を差すためだったのか、鎌をかけるためだったのか。


 この状況下で圭がとるべき最善手とは……。



 思考を重ねた結果、出した答え……、それは西田次郎と話をすることだった。ケータイから久しぶりに田村の電話番号を起こし、通話をかける。

 コールが鳴るやすぐに次郎は電話に出た。


『圭! よかった。連絡取れたか!』

 そして真っ先に飛んできたのは次郎のそんな声。


 だが、それを無視してこちらからセリフを飛ばす。

「黙れ。この電話で余計なことを話すつもりは一切ない。ただ、俺の質問にだけ答えろ」


『……了解』

 次郎はすぐに声をおとなしくしてきた。これは圭に対する恐れではない、状況を理解して対応してくれているんだと、思う。


「お前が送ったメッセージは聞いた。田村零士のセリフはしっかり頭に入った。そのうえで、直接田村先輩と対峙したお前に聞く。

 あの人は……本気でワクワク感の元、コントラクトに関わっている人物だと思ったのか?」


『……俺ではそこを判断しきれないからこそ、お前に委ねようと思ったんだけどな』


 まぁ……そうなるんだろうな……。ここで無理に次郎に答えさせようとしても、ただ責任を押し付けるだけになるか……。


「次郎……お前は……今でもなお、解放者チャーリーなんだよな? 影武者であるが、同時に解放者でもあるんだよな。チャーリーは解放者ボブとの仲間意識を持っていると考えていいよな?」


『あぁ……』


『もう一度だけ聞いておくが、お前が王側か解放者側か……それとも田村側か……、今の次郎はどの側に一番、身を預けられるんだ?』


『……それはむろん、解放者だ。言うまでもない』


 そうだ、次郎ならそう言う。そして圭はそれを信じる。

『なら話は早い。次郎……』


 一度息を吐き、呼吸を整えケータイを口に近づけた。

『俺はお前を助けたい。俺はお前を助けることができる最善手を取り続けたい。そこでお前に質問だ』


 さらに一つ間を置く。

『田村の力を借りて、……田村に委ねてお前を助けるべきか? それとも……俺がお前を助けるべきか?』


『そ……それは……』


『今のお前にとって信頼できる人物を選べ。お前は田村と対峙して田村から何を見たかは知らない。だけど、お前は何かを感じたんだろう。そして、俺にこのメッセージをよこしてきた。


 安心しろ、俺はお前が出した結論に対して責任をもってやる。責任をもってお前を助けてやる。

 俺はどの選択肢を取れば、お前を助けることができるんだ?』


 しばらく、次郎から声は聞こえてこなかった。考え込んでいるんだろう。メッセージの中にあったように、あいつは今でも俺のことを友として考えてくれている。であるなら、葛藤しているのだろう。


 田村に任せておけば、圭は必要以上に面倒なことにならず次郎救出を達成しえるかもしれない。だけど、田村には別の一面が見え始めた。そのうえで、次郎はどの選択肢をとるのか……。


 その答えは……分かりきっている。

『圭……お前こそが解放者だ……。俺は……お前が解放者だと信じている。俺は……お前になら安心して……任せられる』


「そう言ってくれると思っていた」

 重要なのは田村がどうかじゃない。圭と次郎がどういう感情を抱いているかだ。もう、圭は赤の他人を救う偽善者ではない。

 友人を……次郎を救うために動くただの自身の欲ありきの解放者だ。


「もう一度……立ち上がってみるよ……」

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