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コントラクト・エンゲーム 4_王国崩壊編  作者: 亥BAR
第1章 絶望のボブと日常の圭
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第13話 音声ファイル

 LIONを通じて次郎から送られてきた音声ファイル。これが、田村の本性を示す情報が入っているデータであるとのことだが……。


「待て……これこそ、真の王による罠?」

 ファイルをタップしようとしたが、ふとそんなことを思ってしまう。だが、そんなことは考えるだけ無駄だとすぐに考え、ファイルをタップした。


 ダウンロードが始まり、しばらくすると音声が再生され始めた。


『……先輩……今なんていいました?』

 まず先に流れてきた声はおそらく次郎のもの。唐突に始まった音声ファイルであったため、会話の途中から録音をし始めたであろうことが推測できる。


『ジョークか本気かは……あなたのご想像にお任せしますよ』

 続いて聞こえてきたセリフは田村のもの。


 ということは、田村が影武者に接近してきた、という展開で起こった話なのだろう。


『何て言ったのか……そう聞いたつもりだったのですが? それともどういうつもりか?』

『……さぁ。どういうつもりで、なんて言ったのでしょう?』

 証拠の音声を取ろうとする次郎と感づいている田村ってところか……。


『まぁ、本題を入りましょうよ。ちなみに、西田くんが真の王の正体を知っているのならば、話は早いのですが……』


『……すみませんね。それに関しては本当に知りませんよ。おそらく、真の王の正体を知るものは存在しないと思いますよ』


『それが本当である証拠は出せますか?』


『無いことの証拠を出すのが難しいことぐらい、先輩なら十分理解されているのでは?』


『そうですか……ちなみに、最近、圭くんと仲が今一つのようですが?』

『それこそ、本当に関係のない話でしょう』


 このまま平行線の話を続けるのかと思いきや、突然ため息が聞こえてきた。音の大きさからして近いほう、すなわち次郎。


『申し訳ないですが、俺に対してどれだけ迫ってこようと、真の王には近づけないと思いますよ。俺は真の王に関する情報は持っていないですし、俺と人質に取ったとしても、真の王なら容赦なく俺を切ってくるでしょう。


 俺はそれぐらいの扱いだからこそ、真の王は俺の正体をさらすのに躊躇しなかったのだと思いますよ。特に解放者に対して見せればよかったものの、わざわざ先輩にまで見せたんです。

 そこから、情報が漏れることはないと思ったからなんじゃないでしょうか』


 次郎のこの解釈はおおむね間違っていないと考えられる。圭に対してといい、真の王はもともとゲームの勝敗など大して気にしていなかったのかもしれない。

 ただ、解放者と対峙することに意味があった……と。


『なるほどですね。それ自体が嘘である可能性もありますが……。考え方としては西田くんの意見のほうが遥かにすっきりすると思います』


『……俺だって、できるのであれば先輩の役に立ちたいと思っています。俺はあくまで真の王に支配される側……。解放者の手によって解放されるのを待ち望んでいるものの一人です。


 先輩が真の王を倒していただけるというのであれば、俺は喜んでそれを受け入れたいんですよ。ただ……、今の俺じゃ……どうすることもできなさそうですけど。お役に立てず、申し訳ありません』


『そうですか……』

 そこで少し沈黙が流れたが、すぐ田村からまた声が漏れる。

『ところで、友人である圭くんは、自分が真の王の影武者であることを知っているんですか?』


 ……っ!


『まさか! 伝えられるわけがないでしょう。あいつは知らないですし、関係もないことですよ。でも……不可解なことに……先輩方が圭を引きずり込んできたらしいですけどね』


 そうか……、演説の時に圭が長井の後ろに立っていたのだから、そういう風に次郎は見られる設定になったわけか。

 田村が圭を強引に巻き込んできたという設定に。


『おや……? 心配ですか? 喧嘩中だったのでは?』

『……喧嘩してても友は友です。あなたたちは圭を巻き込んで、何をしようとしているのですか!』

『そこですよ。そこが、わたしが今回、君と会った最大の理由です』


 突如はっきりと声を上げてそんなことを言い出した。


『なぜ、真の王は躊躇なく君の顔をさらさせたのか。解放者の正体にある程度の目星がついていたからというのも、理由の一つなのでは?

 西田くんも……少なからずそう思っているはずです』


 すなわち……小林圭が解放者の正体であること。当然、次郎はそのことを知っているが。


『あなたから真の王へ直接伝えておいてください。我々偽物の解放者は……いや……ニューキングダムは、逃げも隠れもしないと。

 あなたのお好きなタイミングで、どうぞ仕掛けてきてください。楽しみに待っていますから』


 このセリフを聞いただけで、田村の不敵な笑みが簡単に目に浮かんできた。間違いなく、次郎に向けてそんな表情を向けていたはずだ。


 さらに続いてくる『では』の一言で会話が終了するかと思いきや、次郎から田村を呼び止めるように強い声を放ってきた。


『一つだけ、質問します。先輩は支配形態からみんなの身を守るためにキングダムを創設されたんですよね? 先輩がさっき言ったこと、もし本音なのだとすれば、なぜあなたはキングダムを立ち上げたんですか?』


 さっき言ったこと……。録音前の話か……。

 田村の声は聞こえてこない。……録音前、一体どういう話があったというのか……。


『あなたは……本当はみんなの解放など望んでいない。それは行動するためのただの建前。そういう事なのですか? 

 さっき、先輩は言いましたよね。あの三つ巴のエンゲームは……』


『最高にワクワクしました』

 田村の声がかぶさるように聞こえてきた。

『君たちにも感謝しておきましょう。グッドゲーム』


 これが……田村の出した言葉……本性……?

 いや、普通に考えたらただの煽りだろ……。ジョークか本気かと問われればジョークを選択する。田村の性格から考えても、これぐらいの煽り、平気でしてくる。


 でも……なんだろう。この違和感は……。そもそも次郎だって煽りだと分かっているはずなのに……、こうして音声ファイルに残して圭にわざわざ……。

 その場で直接聞いた次郎は……何かを感じたのか……。


『先輩は……あの一連のエンゲームに対して、本気で楽しかったという感覚を持っているのですか? いや、それが本当なら、こうして真の王と対立しているのも……ワクワクするから?』


『わたしのこのセリフを……君はただの煽りだとは思わないんですね。君はわたしが本当に今この瞬間もワクワクしていると思っているのですか?』


『……違うのですか?』

『そうですね……。あえてノーコメントと言ってみましょうか。そのほうが、面白そうですから』


 ……。


『それと、せっかくだから答えておきましょうか。なぜ、わたしがキングダムを設立したのか。それは至極単純な話。楽しそうだったからですよ。

 実際、結果として、真の王が現れ、解放者が現れ、仲間が現れ……、ゲームは……こうでなくては面白くない、そうは思いませんか?


 わたしの策が見事的中して、解放者と真の王を出し抜き、一位になったあの瞬間、わたしは最高に楽しかったです。ゲームの途中、記憶がよみがえった瞬間から、ワクワクが止まりませんでした』


 ……分からない……この声だけでは、田村の言っていることが本心なのか、ただの煽り文句なのか……騙そうとしているのか……。


『これが、わたしの本心かどうかは、これを聞いている者にゆだねます』

 ……ご丁寧に……。


『じゃあ、ついでにもう一度だけ、西田くんに言っておきましょう。真の王に伝えておいてださい。

 楽しみに待っていますから、とね』


 その後、ドアが開く音が流れた後、音声は終了した。

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