ポールという男
ジュリアは生きていた。
ジュリアはあの日自らの意思でフサンダールに戻ろうとしなかったのだ。
ジュリアはこの20年という時間で色々な場所を見て回ったが、やがて自分の無力さに気付いた。
そして何か方法はないか考えた時、レイシアが作った魔術書の存在を思い出した。
ジュリアはその魔術書を使って自分の望みを叶えようと考えていた。
ジュリアは現在、レールムという国の城下町で暮らすようになっていた。
当時のレールムは王位争いの真っ只中にあった。
ジュリアはレイシアが持っている魔術書を使って、現在の王子と他の人間の魂を入れ替えて自らの思い通りに操ろうと考えていた。
しかしその為には、自らと一緒に王国を乗っ取ろうと考える人間を探す必要があった。
ジュリアはレールムを手に入れる為にある男に近付こうとしていた。
彼の名前はポールといった。
ポールの父親はレールム王の弟で、ポール自身は王位の継承とは全く関係が無かった。
しかしポールは、王家の近くにありながらも王家との違いに憤りを覚えていた。
実際王子とポールは歳は同じ位だが、周りの者から集める畏敬の念や扱いも全く違った。
しかしポールはそれ自体は許す事が出来たが、そんな彼がどうしても許す事が出来ない事があった。
それはポールがずっと思いを寄せ続けてきたレイラという女性が王子の婚約者になった事だった。
ポールはレイラを諦めようとしたが諦める事は出来なかった。
ポールはレイラを手に入れる為に王の座を手に入れようと考えるようになっていた。
そしてポールは王位争いが近づくと自分も何か出来ないかと考えていた。
色々な場所を渡り歩いているうちに彼の行動は周りの人達にも知れ渡るようになり、ジュリアの耳にも入っていた。
ジュリアはポールに近付こうと思いポールがよく使っている酒場を突き止め、ポールがその酒場に来た時を見計らって話しかけた。
「あなたがポールね?はじめまして。私はジュリアよ。」
ポールはその言葉でジュリアの方を1度振り向いたが、相手にしようとはせずに酒を飲んでいた。
するとジュリアがポールの隣に座って言った。
「あなたにとてもいい話があるの?聞いてもらえるかしら?」
するとポールは酒を飲むのを止めて、ジュリアの方を見ながら不機嫌そうに言った。
「何だ話って⁉︎言ってみろよ⁉︎」
ジュリアはポールのその様子を見て気を遣いながら合わせるように言った。
「あなたは王位の継承に興味があるんでしょう……?私にいい考えがあるの……。」
ポールは一瞬驚いた顔をしたがあまり信用してない様子で、酒を少し飲んだ後ジュリアに聞いた。
「何だ?その話ってのは?金が目当てか?言ってみろよ。」
するとジュリアは笑顔を作りながら言った。
「いえ、あなたにとってとてもいい話のはずよ。この方法ならきっとあなたは王様になれるわ。」
ポールはジュリアのその言葉に驚いたのか、疑ってはいたが一応真剣に話を聞いた。
「そのいい話っていうのはどんな話だ?話してみろ。」
するとジュリアがポールな方を見て少し笑みを浮かべながら言った。
「私は魔導師なの。ある魔法を使えば私はあなたを王子と入れ替える事が出来るわ。」
ポールは魔法という言葉に驚き恐怖も感じたが、それ以上に魔法で入れ替わるという内容が気になったので話を続けた。
「その入れ替わるっていうのは一体何なんだ?それに魔法なんてのは空想の話だろ……?そんなもの信じれるか。」
するとジュリアは笑顔のまま話を続けた。
「そう……でもとりあえず話を聞いてもらえるかしら?じゃあまず肝心の魔法の中身ね……。ある魔術書の魔法を使うとその魔法をかけられた人間同士の魂が入れ替わるの。つまりあなたの魂は次の王になるファビオ王子の体に乗り移るわ。そしてあなたは誰からも疑われる事なく王として生きていく事が出来るようになるわ。」
ポールはジュリアの言っている事を全然信用していなかったが、このままの状態では王になる事など不可能なので仕方なく話を続けるしかなかった。
「……それで……?その魔法を使って入れ替わったら他はどうなるんだ?」
ジュリアはファビオに印象をよく見せる為に笑顔のまま話を続けた。
「そうね……後はあなたと王子が入れ替わったらその体の意識はあなたの物になるわ。それにあなたが元に戻りたいと思えば同じ魔法を使っていつでも元に戻る事が出来る。後はあなたが王として生活している間はポール王子を捕らえておかないといけないという事位ね。」
ファビオは全く信用していなかったが、このままの状態ではどうする事も出来ないので詳しく話を聞こうとした。
「……それで?その魔法が本当だというのをどうやって証明する気だ?俺を信用させる事が出来るのか……?」
するとジュリアは笑みを浮かべて言った。
「1度魔法の効果を見ればあなたはきっと信じるわ。私が保証する。」
ポールは信じてはいなかったが、他に手立てもなかったのでとりあえず付き合う事にした。
「分かったよ……とりあえずその魔法が本当かどうか確かめてやる。それで……?俺はどうすればいい?どこかで待ってればいいのか?」
するとジュリアが困った顔をして言った。
「それなんだけど……魔術書は今私の手元にはないの……。」
「魔術書がない……⁉︎」
「ええ……その魔術書は私の故郷に住んでいる幼馴染みが持っているの……。彼女は今でもその場所に住んでいるはずだわ。だから彼女の元まで取りにいかないといけないの。」
ポールはジュリアの言っている事が全く信用出来なかったが、このままただ待っていても仕方ないので話に乗る事にした。
「……分かったよ。じゃあ1度確かめてやるよ。それで……?俺はどうすればいいんだ?具体的に何をすればいいか教えてくれ。」
「それなんだけど……私が1人で魔術書を奪いに行っても魔術書を奪う事は出来ないと思うの……だからあなたにも一緒に付いてきて欲しいの。あなたは王位を手に入れる為にきっと仲間もいるんでしょう?その人達に手伝ってもらう事は出来ないかしら?」
ポールはジュリアの故郷に行く事に対してとても恐れを感じていたのか、ためらいながらジュリアに聞いた。
「分かったよ……ただ……俺も付いて行かなくちゃいけないのか?別に俺がいなくても他の奴等とだけでどうにか出来ないのか?」
「いえね……あなたがいないと私の身が危ないかもしれないから……。どうにかあなたの方でその人達を抑えておいてもらわなきゃね……そうじゃないと私は安心して仕事が出来ないわ……。」
「……。」
ポールはこの状況のまま待っても仕方ないと思ったのがジュリアの要求を飲んだ。
「分かったよ……じゃあ俺も一緒に行くよ。後の事をどうするかはお前に任せるよ。」
「そう言ってくれて嬉しいわ……きっとあなたの満足のいく結果を手にする事が出来ると思うわ。」
「ああ……じゃあ日時が分かったら教えてくれ。俺もいつでも行けるように準備しておく。」
「ええ、分かったわ。じゃあ私も日時が決まったら伝えに来るわ。また会いましょう。」
「ああ……。」
ジュリアとポールはフサンダールに行く為の準備を着々と進めていった。




