守られた約束
次の日の朝レイシアは準備を済ませてファビオの下に向かおうとしていた。
レイシアはまだ誰も起きていない早朝に馬に乗って家を出た。
アランは目が覚めて窓から外をボーっと眺めていたら、突然レイシアが馬に乗ってアランの目の前を通り過ぎて行った。
(……何だあれ……?おばあちゃん⁉︎)
アランははっきりと分からなかったので確かめるために窓を開けて身を乗り出した。
アランが目を凝らしながら馬に乗っている人間を見てみるとその後ろ姿は確かにレイシアのように見えた。
(……おばあちゃんだよな……?何でこんな朝早くから……どこに行くんだ?ああ‼︎確か俺が橋の下のじいさんの話をしたな!じゃあラグダナか!)
アランは少し気になったがその時はそれ程大した事じゃないと思い深く考えなかった。
しかし時間が経つにつれ何故レイシアがラグダナに行ったのかが気になるようになっていった。
(あのじいさんの所に行くのか……?確かあのじいさんレールムの王子だったとか言ってたよな……。まさか!いや、ないない!……でも何でおばあちゃんこんな朝っぱらから出かけてるんだ⁉︎まるで誰かに見つからないようにするためだ……。あのじいさんが本当に昔王子だったとしたら……助けたら褒美がもらえるんだよな……。それもレールムの王子っていったらとんでもない物がもらえるかもしれないな……。)
アランはそんな事ばかり気にしているうちに眠れなくなり、次第にその事が気になって仕方なくなった。
(……あー!くそっ!)
アランはやはりその事が気になって仕方なかったのでレイシアの後を追いかける事にした。
アランは誰にも気付かれないように辺りを気にしながら家を出た。
家を出ると牧場に向かい、牧場に着くと厩舎から馬を一頭連れ出した。
(さぁ、ばあちゃんの後を追いかけるか!こんなチャンス滅多にないかもしれない……俺だって褒美をもらうんだ!)
アランは馬に乗ると勢いよく手綱を引いた。
「よし!行け!」
アランはレイシアを追って村を出た。レールムの王子という言葉にほんの少しだけ期待感を抱きながら。
レイシアが村を出てしばらくするとラグダナの町が見えてきた。
ラグダナに入るとレイシアはそのままファビオがいる橋の方まで向かった。
橋に着くとファビオが見当たらなかったので、馬を繋いで辺りを見回してみると橋の下でファビオを見つけた。
ファビオは橋の下で眠っていた。
(まさかこんな所で……本当にとんでもない事しちゃったわね……。とにかくどうにかしてあげないと……。)
レイシアは橋の下の方まで降りて行ってファビオの所へ向かった。
レイシアがファビオの所に行くとジャックが隣で眠っていた。
(……誰かしらこの子……?随分若いわね……。……まさか私に何かするために用意したんじゃないわよね⁉︎……本当にこのまま起こしていいの……?……そうね、仮にそうだったとしても仕方ないわね……。私が悪いんだものね……。とりあえず彼等を起こしましょうか。ここでこうしてたって仕方ないわ……。)
レイシアは覚悟を決めてファビオ達に話しかけた。
「あの……あの!レイシアです!昨日約束した……起きて下さい!」
するとファビオとジャックが目を覚ました。
ジャックは完全に目を覚ましたようだったがファビオは寝ぼけていてジャックが体を揺すりながら起こしていた。
「おい、じいさん。誰か来たぞ……。もしかして昨日言ってたのじゃないか?おい、じいさん!起きろって!」
ファビオはジャックに起こされてようやく目が覚めたのか返事をした。
「……ん……あぁ……ちょっと待ってくれ。今起きる……。」
ファビオは目を覚ますと辺りを見回し出したが、レイシアを見つけると驚いた様子で言った。
「……あんたは……本当に来てくれたのか……?」
するとレイシアは笑顔で言った。
「ええ……行きましょう。あなたの体を元に戻さないと……。」
するとファビオは返事をするまでに少し時間がかかってしまったが、少し言葉に詰まりながらも感謝の気持ちを言った。
「……そうか……ありがとう……本当にありがとう……。」
ファビオが感慨に浸って黙り込んでしまっていたので、ジャックが代わりにレイシアに言った。
「あんた達これからこのじいさんを元に戻すためにどっか行くんだろ?それなんだけどさ、俺も行くよ。そのじいさんに頼まれちまってさ。」
レイシアは危惧していた事なのでとりあえず話を合わせながら様子を伺う事にした。
「……あなたも……?」
「ああ、俺も何か役に立てる事があるかもしれないし……それにどこかに乗り込むんだったら人数多い方がいいだろ?まぁ心配しなくていいよ。俺はじいさんが元に戻った後の褒美が欲しいだけだから。」
「ええ……私は構わないけど……。それに私は色々と言える立場じゃないから……あなた達に任せるわ。」
するとファビオが立場がなさそうな感じでレイシアに言った。
「……すいません……こんなに早く来ると思わなかったものですから……。彼に一緒に来て欲しいと頼んだのは私です。仲間は多い方がいいと思って……しかしあなたに何も聞かなかったのはいけなかったですね……本当に申し訳ない……。」
「いえ、私は別に……。仲間は多い方がいいかもしれませんね。私は大丈夫です。それでいつ出発されるんですか?」
その言葉を聞いてファビオはジャックの方を見ながら言った。
「ああ……出発……。そうだな……私はいつでもいいんですが……。ちょっと待って下さい。ジャック君、出発するっていう話だ。どうだ?すぐにでも行けるか?」
「いや、突然出発って言ったってよ……まだ起きたばっかりだぜ……。それに朝飯もまだ食ってないだろ。これから何があるかも分からないってのにそんなんでどうすんだよ。よし!とりあえず朝飯だ!俺が準備するからあんたも食っていきなよ。すぐに準備するからさ。」
ジャックにそう言われてレイシアは少し困りながら答えた。
「……ええ……。」
ジャックはそれからすぐに朝食の準備に取り掛かった。
レイシアとファビオは朝食の準備が出来るのをその場で座って待っていた。
レイシアがラグダナに着いてしばらく経った頃アランもラグダナに到着した。
アランはレイシアがいるのがファビオの所だと思い橋の方へと向かった。
(あのじいさん確かいつもあの橋の下にいるんだったよな……今日もあの橋の下にいればいいけど……。)
アランはファビオが橋の下にいる事を信じてそこに向かった。
アランが橋に着いて橋の上から辺りを見渡してみるとファビオ達の姿は見当たらなかった。
(……何だ⁉︎いないじゃないかよ!)
アランは馬から降りて橋の辺りを探してみると橋の下でファビオ達が朝食を取っていた。
(何だ⁉︎こんな所に住んでんのかよ⁉︎……あー……あればあちゃんだよな……。一緒に飯なんか食べちゃって、まぁ……。)
アランはその光景を遠くで眺めながらふと思った事があった。
(俺があいつらの事手伝うって言ったらおばあちゃん絶対ダメって言うよな……そうなったら俺は褒美がもらうないのか……。)
アランは少し考えた後、とりあえず様子を見るために離れながら付いて行く事にした。
(まぁここはとりあえず様子見だな……黙って付いて行って出て行く状況が来るのを待つしかないな……。何かあいつらが困る時が来るかもしれないし……とりあえず離れて待つか……。)
アランはとりあえずこの場は橋の近くに隠れてファビオ達が来るのを待っていた。
一方ファビオ達はというと朝食を食べ終えていよいよ出発しようとしていた。
「よし、行くか。あんまりのんびりしていても仕方ないしな。さっさと魔術書とやらを手に入れて王様に戻ろうぜ、じいさん。」
「ああ……。」
ファビオ達が橋から上に上がっているとジャックが突然何かに気付いたように言った。
「あーそうだ……俺達も馬を準備しないといけないな……。よし、じゃああんたはちょっとそこで待っててくれ。俺とじいさんでちょっと馬を調達してくるからさ。」
「……ええ……分かったわ……。」
レイシアはおそらく盗んでくるのだろうと察しはついたが、この状況では何か言う事は出来ず黙っておくしかなかった。
「さぁ、じいさん。とっとと馬を調達してこようぜ。なーに、後で返せば問題ないさ。」
「……ああ……。」
ファビオもいけない事だとは分かっていたがこの状況ではそんな事も言っていられず、ジャックに言われるまま馬の調達に付いて行った。
牧場に着くとジャックは辺りを警戒しながら厩舎に近付き、誰もいない事を確認した後ファビオに言った。
「さぁ、いいぜじいさん。ここから馬を拝借しよう。俺が小屋の鍵を開けるからじいさんは後ろで待っててくれ。」
「……ああ。」
ジャックが厩舎の鍵を開けているのをファビオは黙ってじっと見つめていた。
次の瞬間ジャックが開けていた厩舎の鍵が開いた。
するとジャックは小声でファビオを急かすように言った。
「……おい、開いたぞじいさん。早く馬を持ってくぞ。もたもたしてると誰か来ちまうかもしれねーからな。」
「……ああ、分かった。」
ファビオはジャックに言われた通り小屋の中に繋いである馬のロープを外し、馬を連れて厩舎を出た。
ファビオが出たのを確認するとジャックも馬を連れて厩舎を出て、厩舎の鍵を閉めた。
「よし、早く行こうぜ。さっさとあのばあさんの所に戻って早く出発しよう。」
「……ああ、そうだな。早く戻ろう。」
ファビオとジャックは厩舎から出た後、馬に乗ってレイシアの所へ向かった。
ファビオとジャックが橋の上まで戻るとレイシアがさっきいた場所で待っていた。
レイシアの近くに来るとジャックが作り笑いをしながらレイシアに言った。
「はっは!悪りぃ悪りぃ。でもそんなに時間はかからなかっただろ?……さぁ準備も整ったみたいだし行くとするか!」
「……ええ……。」
レイシアは取ってきた馬の事には触れず橋の近くに繋いである自分の馬に乗る準備をした。
そしてレイシアが馬に乗ったのを確認するとジャックが言った。
「さぁ、行くか。それで?これから行く所はじいさんが分かってるんだよな?俺達はただ付いて行けばいいのか?」
するとファビオが2人の方を見て言った。
「ああ……何となくなんだが場所は覚えている。確かレールムから東に行った辺りだ。私が先に行くから付いて来てくれ。」
「ああ、分かった。じゃあ頼むぜ、じいさん。」
レイシアは2人の話を何も言わず黙って聞いていたが、気持ちを切り替えてファビオに言った。
「さぁ行きましょう。早くあなたの体を取り戻さないと……。」
「ええ……それじゃあ出発しますよ。付いて来て下さい。」
ファビオ達は馬に乗ってジュリアが住んでいた森へと出発した。
3人が馬に乗って出発するのをアランは隠れながらじっと見ていた。
(……行くのか?気付かれないように間合いをはかりながら追いかけなきゃな……やばい、急がないと見失っちまう……。くそっ!どれ位の距離を取ればいいんだ⁉︎ややこしいな……とりあえず早く追いかけよう。)
アランは急いで馬に乗りファビオ達を見失なわないように追いかけた。
ファビオ達はアランの存在など知るはずもなく一同はジュリアの森に向かって突き進んでいた。




