カムルの村
レイシアとエミーはフサンダールから逃げた後ある場所へと向かっていた。
その場所はエミーの父親が住んでいるカムルという名の人里離れた場所にある辺境の村だった。
レイシアは本当はそこに行くのだけは嫌だったが、こんな状況で他に頼れる人間もいなかったので仕方なかった。
エミーの父親はその村で牧場を営み、主に馬の飼育をしながら生活していた。
レイシアとエミーは船を降りて大陸に着くと、そこから汽車に乗ってカムルの村の近くまで行き、村の1番近くの駅から歩いて村まで向かった。
カムルの村は1番近くの駅から歩いても4〜5時間は歩かないといけない辺境の場所にあり、徒歩で行く人間にはとても辛い場所にあった。
レイシアとエミーは辺りに全く建物等も無く自然ばかりしか見えない道をただひたすら歩いていた。
「ねぇ、お母さん。まだ着かないの⁉︎もういい加減疲れちゃったよ……。」
「我慢しなさい……もう少しだから。あと少ししたらちゃんと着くから……。」
エミーはレイシアに手を引かれながらカムルの村に着くまでただひたすら我慢していた。
レイシアとエミーが歩き出して随分時間が経った頃ようやくカムルの村が見えてきた。
カムルの村に着くとエミーは不思議そうな表情でレイシアに聞いた。
「……ここが私の生まれた場所?……全然覚えてないや……何もない場所なんだね。本当に私はここで生まれたの?」
するとレイシアはエミーの方を見て少し微笑みながら言った。
「そうよ……あなたはこの場所で生まれたのよ……。あなたは覚えてないかもしれないけどこの場所で暮らしていたのよ。……さぁとりあえずお父さんの所へ行きましょう。村の中を見て回るのはその後ね。」
そう言うとレイシアはエミーの手を引いてエミーの父親の家に向かった。
レイシア達がエミーの父親の家に着くと1人の男が家の前の大きな牧場で何かの作業をしていた。
その男はレイシア達の存在に気付くと作業の手を止め、レイシア達の方へと近づいてきた。
「……何だ……帰ってきたのか?もう戻って来る事はないと思ってたんだがな……。」
その男の言葉にエミーは憤りのようなものを感じたがフサンダールでの事を考えるとそうも言ってられず、出来るだけ冷静に対処した。
「ええ……ちょっと訳があってね……。少し長くなるかもしれないから中で話せないかしら?」
「ああ……構わないが。……とりあえず荷物をよこせ。お前とエミーの分もだ。」
男はレイシアとエミーから荷物を受け取ると家の方まで歩いて行った。
レイシアとエミーもその男の後ろを付いて行き、エミーは家に着くまでの間その男の事をただじっと見つめていた。
家の中に入るとレイシアとエミーはリビングに通されたが、レイシアはその場所に着くなりすぐにエミーに言葉をかけた。
「いい、エミー……お父さんとお母さんが少し話をするからあなたは少し離れた場所で遊んでなさい。終わったらちゃんと呼びに行くから。いいわね?少しの間だから……。」
「何で……?私も一緒にいちゃいけないの?」
「少しの間だから……その話が終わったら後でいくらでも話せるから。ほら、早く行きなさい。」
「……分かった。」
エミーはレイシアに言われた通り少し離れた場所へと向かった。
レイシアはエミーがいなくなるのを見届けた後、エミーの父親にフサンダールで起きた事を話し始めた。
エミーの父親はその話を聞いて驚いていたが、何故レイシアが戻ってきたのかをようやく理解した。
「……そんな事が……。」
「ええ……だからエミーをしばらく預かって欲しいの。私は少ししたらフサンダールに戻るから……。」
するとエミーの父親はレイシアの方を見て少し声を荒げながら言った。
「ダメだ!その話が本当だったら今戻るのは危険じゃないか!それにあの子はどうなる⁉︎もしお前に何かあったらあの子が悲しむだろ!気の毒かもしれないが今は耐えろ!」
レイシアはその言葉を聞いて少し気まずさのようなものを感じていたが、今はそれよりもとりあえず居ることが出来る場所が出来た事に安堵していた。
「ええ……そうね。分かったわ。じゃあ少し時間をおいて考えてみる事にするから……。とりあえずここに少しの間だけお世話になる事にするわ。あなたには出来るだけ迷惑かけないようにするから。」
「ああ……別に気にしなくていい。それがエミーの為だからな。普段と変わらず生活すればいい。」
「ええ……分かった。それじゃあエミーを呼んで来るから……あの子は小さい頃家を出たっきりあなたの顔を見てないから覚えているかどうか分からないし……とりあえずここに連れて来るわね。」
「……ああ。」
そう言うとレイシアはエミーの事を探しに行った。
レイシアはエミーをリビングから少し離れた廊下で見つけて言った。
「エミー、もういいわよ。お父さんの所に行くから付いてきなさい。」
エミーはレイシアの方を見ても何も言わずにただ黙って付いて行った。
エミーは父親の前に来ると最初は顔を見ようとはしなかったが、しばらくして父の顔を見て言った。
「お父さん……?お父さんなの?」
するとエミーの父親は少し微笑んで言った。
「ああ……そうだエミー。大きくなったな。エミーが成長した姿が見れてお父さん嬉しいぞ。」
その言葉を聞いてエミーはいきなり父の胸に飛び込んだ。
「お父さん……お父さんだ!あのね……ずっと会いたかったんだよ!ずっとお父さんは何してるのかなぁって……どんな人なのかなぁってそんな事ばかり考えてたの!」
「ああ……そうか。お父さんもずっとエミーに会いたかったぞ。エミーがどうしているのかいつも心配していたんだぞ。」
するとエミーは父の顔を覗き込んで言った。
「……本当に?」
「ああ……本当だ。エミーに会う事が出来てお父さも本当に嬉しいぞ。これからはずっと一緒だ。」
「本当に……?本当にずっと一緒に暮らせるの……?やった!やったー!これからはずっと一緒なの⁉︎もういなくなったりしないの⁉︎」
「ああ……絶対にいなくなったりしない。ずっと一緒さ……エミーは何も心配する事はない。これからはパパとママとみんなで一緒に暮らすんだ。」
「やったー!良かった……本当はずっとそうなって欲しいと思ってたんだ……だから本当に良かった……。」
エミーはそう言うと父の胸の中で泣き崩れれしまった。
レイシアはその光景を見て少し複雑な心境になっていた。
エミーが喜んでいるのは嬉しいがレイシアはずっとここにいようと考えている訳ではなかった。
とりあえず今はフサンダールに戻る事が出来ないので何も言わずに我慢するしかなかった。
レイシアは時期を見てフサンダールの様子を確認するまではエミーにその事を言わないでおこうと固く決意した。




