魔導師の楽園の最後
一方ポール達も船に乗り込んでレールムへと向かおうとしていた。
ポールが船を停めさせた場所はジュリアと来た時と同じ人気が無い浅瀬だったので、レイシア達が船を乗る場所とポール達が船に乗る場所は違っていて、ポール達に見つからずに済んでいた。
ポールは兵士を連れて船に乗り込むと、船は間も無くレールムに向けて出航した。
ポールは船に乗っている間、ずっとフサンダールの事を考えていた。
(俺の存在を知っている人間がこれ以上いたらまずいな……確かジュリアはあの村の確かが魔術書を作ったって言ってたな……だとしたらあの村の連中はあの魔法の存在を知っている可能性が高い……。それにあの村の連中ならあの魔術書を作れるのかもしれない……。まずいな……どちらにしてもあの村の連中は生かしておく訳にはいかない。始末するしかないな……。)
ポールはフサンダールの村を滅ぼす事を決意した。
レールムの城に戻るとポールはフサンダールまで付いて来た兵士達に会議室に集まるように言い、兵士達が会議室に集まると極秘裏に会議を始めた。
「そなた達が先程見てきた村があっただろう?あの村を今から兵を集めて滅ぼしてまいれ。良いか?」
兵士達は王の突然の無茶な命令に皆言葉を失い返事をする事が出来なかった。
すると1人の兵士がおそるおそるポールに聞いた。
「……あの……滅ぼすのですか……?……あの……今からですか……?」
するとポールは淡々と命じた。
「ああ、そうだ。滅ぼしてくるのだ。何をしている?さっさと行くのだ!」
兵士達は状況が理解出来ずにいたが、1人の兵士がおそるおそるポールに聞いた。
「……あの……何故滅ぼすのですか……?……何か理由があるのですか……?」
するとポールは少し苛立った態度を取りながら言った。
「そなた達が知る必要はない!とにかくさっさと言って滅ぼしてくれば良いのだ!私の命令に逆らうというのか⁉︎何をしている⁉︎さっさと行かぬか‼︎」
「……はいっ‼︎」
ポールのそのただならぬ様子に兵士達は従うしかなかった。
そして会議室から出て準備を始めようとしている時、1人の兵士がおそるおそるポールに聞いた。
「……あの……陛下。あの村を滅ぼすとなれば兵の数はこれだけでは足りぬのではないでしょうか?どのようになさるおつもりでしょうか?」
「ああ……そうだな。好きなだけ兵を連れて行って構わん。そなたに任せる。必ず殲滅してまいれ。良いか?」
「はっ!分かりました!……あの……他の兵士達にあの村を滅ぼすの理由はどのように説明すればよろしいでしょうか?」
「理由か……?そうだな……あの村の連中がレールムを襲おうと考えているとでも言っておけ。どんな理由でも構わん。とにかく急ぐのだ!早く行け!」
「はっ!分かりました!」
ポールはフサンダールの人々に対する恐怖と不安で落ち着かない状況になっていた。
一方兵士達はというとポールの期待に応えようという思いで、急いで城にいる兵士達を集めてフサンダールに向かおうとした。
彼等は話し合った結果、他の兵士達に説明する為の理由をフサンダールの人々がレールムの侵略を企てているという事にした。
兵士の1人がポールに確認を取りに行ったが、ポールは早くフサンダールを滅ぼす事が先決だと言ってあまり深く考えずに了承した。
そしてフサンダールを滅ぼす為に集められた兵士達は船に乗り込んでレールムを出発した。
ポールに近い兵士達以外はちゃんとした証拠も無く突然村を滅ぼすという事に納得出来ていなかった。
「おい!どうしたっていうんだ王様は……⁉︎そんな村がレールムを侵略するなんて話聞いた事もなかったぞ⁉︎本当に確かな情報なのか、それは⁉︎ちゃんと情報が正しいかどうか分かるまで待つ事は出来ないのか……⁉︎」
「……ああ。……それにこんなに簡単に人を殺す事を決めるなんて決して許される事じゃないぞ……。どうにか止めさせる事は出来ないもんか……。」
するとポールに近い兵士がその話を聞いていて、凄い形相をしながら話していた兵士達に言った。
「何を言っている!王はレールムの事を思ってこの決断を下されたのだ!それをお前等という奴は……王の命令に逆らうという事がどういう事か貴様等分かっているのか‼︎そんな事をすれば貴様等もただでは済まんぞ‼︎」
その言葉に納得していない兵士達も素直に言う事を聞くしかなかった。
兵士達の中には決して許されない事だと分かっている者もいたが、王の命令に逆らう事は出来ず、自分自身をごまかして納得するしかなかった。
ポールがフサンダールを去ってから2日も経たないうちに、フサンダールを滅ぼす為の兵力が乗った船がフサンダールの港に到着した。
フサンダールを殲滅させる為の兵力達が船を降りてフサンダールに降りたった。
フサンダールに降りたった兵士の数はゆうに300は超えていた。
その数はフサンダールに済んでいる100人足らずの住人を滅ぼすのには十分過ぎる程の数だった。
彼等はさらに拳銃や狙撃銃等様々な武器を揃えて万全な戦力を揃えており、フサンダールの住人達に逃げ場はなかった。
兵士達はあらかじめ決めていた配置にそれぞれが着き、作戦開始の合図が出るのをその場で待っていた。
そして1人の兵士が上空に発煙筒を上げた。
次の瞬間フサンダールの各家の前で待機していた兵士達が家の中に突撃した。
家の中に侵入した兵士達は家の住人を見つけると拳銃を構えて狙いを定めた。
家の住人達は突然の事に驚いてほとんど対策が取れなかった。
「……うわっ‼︎何だお前等⁉︎何の用だ⁉︎一体……⁉︎」
「パンッ!パンッ!」
「ぐわぁっ‼︎……くっ……おい!何やってるんだお前達⁉︎さっさと逃げろ‼︎」
「パンッ!パンッ!」
「……きゃー‼︎誰か……誰か助けてー‼︎」
「くっ……クソー‼︎」
「パンッ!」
レールムの兵士の突然の襲撃にフサンダールの人々は成す術がなく、村の人々は次々と殺されていき村全体に大きな悲鳴が響き渡っていた。
兵士達は王の命令だと自らに言い聞かせながら、余計な感情は捨てて与えられた命令を実行する事に集中した。
民家の中にいる住人達を始末すると、兵士達は村の中を散策し民家にいなかった村の住人達を始末しようとした。
しかし家の外で待っていた兵士がほとんど始末していた。
一方村の周りで見張っていた兵士が村の外にいた村人を発見した。
村人は兵士に見つかると逃げようとして急いで森の中に逃げ込んだ。
「くっ……おい!何やってる⁉︎早く逃げろ‼︎追い付かれるぞ‼︎」
「……私の事はいいから早く行って‼︎あなただけでも早く逃げて‼︎」
「パンッ!パンッ!」
追い付かれた女が兵士の銃に撃たれて殺された。
「くっ……クソー‼︎何なんだこれは……‼︎一体どうなってるんだよー‼︎」
男はその場所から必死に逃げようとした。
しかし兵士は走って追いかけながら後方から銃を撃ち続けた。
「パンッ!パンッ!パンッ!」
やがて逃げていた男の足に後方から飛んでくる銃弾が直撃した。
「ぐわぁっ……‼︎」
兵士は何も言わず男の方に近づき、そして静かに男の頭に銃口を向けた。
撃たれた男は必死の思いで最後の気力を振り絞って兵士に問いただした。
「なっ、何なんだお前達は……⁉︎何でこんな事をする?俺達が一体何をしたっていうんだ……⁉︎」
すると兵士は無念な表情を浮かべて重い口を開いた。
「……すまない……王の命令なんだ……。」
「……王の命令……⁉︎何を言っているんだ……⁉︎待て……止めろ……止めてくれー‼︎」
「パンッ!」
兵士達が作戦を実行に移してから数時間が経った後フサンダールの住人全員が殺されていた。
兵士達はフサンダールの人々の死体を集め、穴を掘って埋葬した。
兵士達はフサンダールの村に人かいなくなった事を確認すると、王の命令通り跡形も無くフサンダールを消す為に村全体に火を放った。
村に放たれた火はやがてどんどんと燃え広がり、やがてフサンダールは大きな火の海と化した。
火は燃え盛り全ての建物を焼き尽くした後、しばらく経ち火が消えた頃フサンダールは全ての建物がなくなり更地と化した。
魔導師だけしか知らなかった場所はこうして世界中のほとんどの人々から存在を知られる事なく世界から姿を消した。
フサンダールを滅ぼすと兵士達は船に戻りレールムへ向かった。
ポールに近い兵士が作戦が成功した事を喜びながら他の兵士達をねぎらっていた。
「よし!皆ご苦労だった!王もさぞ喜ばれる事だろう。さあレールムに戻るぞ!」
その兵士の言葉に返事をする者はほとんどいなかった。
兵士達はレールムに戻る最中も罪のない人間達の命を奪った罪悪感からかほとんどの兵士が口を開こうとはしなかった。
兵士達の王への不信感等一切関係なく、ポールの身勝手な願いは果たされてしまった。
レールムに着くとポールに命令された兵士達がポールの下に行き、フサンダールでの結果を報告しようとした。
「陛下!ただいま戻りました!」
ポールは焦る気持ちを出来るだけ抑えながら冷静なふりをして聞いた。
「うむ……それで……?あの村はどうなったのだ……?」
すると兵士が高らかにフサンダールでの結果を報告した。
「はっ!あの村に住んでいたと思われる住人は全て始末致しました。またあの村の民家も全て焼き払っておきましたのであの村は今や跡形もありません!」
兵士のその言葉を聞きポールは安堵した。
「……そうか……本当にご苦労だったな。そなた達には礼を言うぞ。」
「いえ!私共は陛下の命令とあればどんな事でもやるだけであります!また何かありましたら何なりとお申し付け下さいませ!」
ポールは余程安心出来たのが嬉しかったのか、その兵士に笑顔で言った。
「ああ……そうだな。また何かあればそなたに頼むとしようかの。……そういえばそなたにはまだきちんと礼をしてなかったな……褒美は何がいい?どんな物でも与えてやるぞ?申してみよ。」
「……いえ……私は陛下からそのようなお言葉を頂けるだけで十分であります。褒美等滅相もございません。」
ポールはその兵士の言葉は嬉しかったがそれよりも今は1人になって少し考え事をしたいと思ったのか、出来るだけ自然に話を終わらせるようにした。
「そうか……まぁよい。次会う時にでも聞くからその時まで考えておけばよいわ。私は疲れたから少し休む……下がってよいぞ。」
「はっ!」
兵士はポールにそう言われると敬礼した後急いで王宮を出た。
フサンダールが無くなった事でポールの心配の種はジュリアに移った。
(これであの魔術書の存在を知っているのはジュリアとファビオだけになったな……ファビオの居場所もあの女以外は分からんし結局あいつを探すしかないのか……これ以上は探しようがないぞ……。一体どこにいる……?何故突然現れなくなったのだ……?)
ポールはジュリアを探す為に色々と手は尽くしてみたがジュリアを見つける事は出来なかった。
そしてジュリアがポールの前に現れぬまま時間だけが何年も過ぎていった。
ポールはあまりにも長い間ジュリアが現れない事にひたすら怯えて過ごすようになっていた。
しかしポールはフサンダールを滅ぼした時ジュリアは死んだのだと思うようにして、徐々にジュリアの事を気にする事はなくなっていった。




