ジュリアの最後
ファビオが流れに任せて川を泳いで随分経った頃陸地が見えてきた。
ファビオは陸地の手間まで来ると疲れた体を時折休ませながら何とか陸地に這い上がった。
ファビオは陸地に上がった後すぐ寝転び、急激に体を動かしたの反動で全く動く事が出来なかった。
ファビオはただずっと空をボーっと眺めていたが、それからしばらくするとこれからどうするのかを考え出した。
自分がこのままレールムに戻ってもポールに見つかればまた牢の中に入れられるかもしれない。
かといってこのままファビオとして生きていくにしても仕事なんてした事もなければ1人で生きていく自信すらない。
せっかく牢から出たというのにこれからの事を考えると不安でしょうがなかったが、それよりも今は早くここから出来るだけ遠くに行く事が先決だと思い、少し休んだ後ゆっくりだが歩き始めた。
そしてファビオは川の方から出来るだけ離れるように歩を進めていった。
ジュリアに決して見つかる事のない場所を探して……。
一方ジュリアはと言うとファビオがいなくなったその晩、用事を済ませてレールムから屋敷へ戻って来た。
ジュリアは帰って来た後、人形達がいるかどうかを確認する為に屋敷の中を探し回っていた。
そして人形達が屋敷の大広間に全員いるところを見つけた。
「あなた達逃げなかったのね……。まぁそれが賢明よ。あなた達の元の体は私が持っているんだから……逃げたところでどうしようもないものね。」
すると人形達は憔悴しきっているのか全く覇気のない返事をした。
「……ああ……。」
ジュリアは人形達のその様子に何か異変を感じて、突然厳しく問いただした。
「……何かあったの……?何かあったんだったら言いなさい!早く!」
人形達はジュリアの方を1度見たがすぐに視線を逸らして黙ってしまった。
ジュリアは痺れを切らしたのか今度は人形達に怒鳴りつけるようにして聞いた。
「何があったの⁉︎言いなさい早く‼︎さっさと言わないとあなた達の命がどうなっても知らないわよ⁉︎」
ジュリアのその言葉を聞いて人形の1人が周りの人形達を1度見渡した後、覚悟を決めて言った。
「……その……あんたがいなくなった後自分達の体を探してたんだ……。そしたらあんたの部屋の中で鍵を見つけて……それで……その鍵で牢屋の中に閉じ込められている男を逃がしちまった……。」
その言葉を聞いてジュリアの顔がみるみる青ざめていき表情が一変した。
「……鍵……まさか⁉︎」
そしてジュリアはその事実を確かめる為に急いで牢屋に向かおうとした。
「あなた達はそこにいなさい‼︎いい⁉︎さっき言った事が本当だったらあなた達はただじゃ済まないわよ‼︎」
ジュリアはそう言うと牢屋がある場所まで急いで走って行った。
人形達はジュリアの異常な態度を見て、身の危険を感じたのか話し合いを始めた。
「……おい……どうするんだ……?牢に誰もいないって事が分かったらあいつ俺達の事殺す気なんじゃないのか……?」
人形達全員が黙り込んでしまったが、少しして人形の1人が意を決したように言った。
「考えていても仕方ない……俺達も早くあいつの後を追って牢屋に向かおう。いざとなったら……。」
人形が黙ってしまったので他の人形が聞いた。
「……いざとなったら……?」
すると人形は覚悟を決めたように言った。
「……戻れなくなるかもしれないが仕方ない……。死ぬよりはマシだ……あいつを殺そう。」
人形達はお互いの顔を見回した後、皆納得したのか心が晴れたように清々しい表情で言った。
「……ああ、そうだな。死ぬよりは戻れなくなる方がマシか……殺そうぜ。」
「ああ、そうだな……。そうとなったらあいつを早く追いかけた方がいい!牢屋 に誰もいないと分かったらすぐに俺達の事を殺しにくるぞ!」
人形達は急いで屋敷から出てジュリアの後を追った。
ジュリアは牢屋に着くと急いで牢屋の中を確認した。
そして人形達が言っていた事が本当だったという事が分かった。
ジュリアは牢屋の前でしばらく呆然としてしまったが、少しすると人形達に対して信じられない程の怒りが湧いてきた。
(あいつら……もう殺すしかないわね……。せっかく集めた兵隊だったけどまた1からやり直しね……。さぁどうしようかしら……?とりあえずファビオの事を探すのが先決ね……まだそこまで遠くへは行ってはいないはずだわ……急がないと……!)
ジュリアが牢屋の前で考え事をしていると人形達が少し遅れてやってきた。
「おい!お前‼︎」
その怒声とも聞き取れる声にジュリアは驚いてとっさに人形達の方を見た。
「おい!お前俺達に何をしようとしている⁉︎言ってみろよ⁉︎」
人形達のその態度にジュリアは異変を感じながらも、よほど腹が立ったのかコケにするような言い方で言った。
「あら、あなた達には関係ないでしょ⁉︎あなた達をどうするかは私が決める事なんだから。」
「……何だと⁉︎」
人形達のその開き直り方を見てジュリアはようやく本当の状況を理解した。
(……まさか⁉︎)
人形達はジリジリとジュリアの方に近づこうとしていた。
「待ちなさい‼︎あなた達自分が何をしようとしているのか分かっているの⁉︎私に何かあったらあなた達は元の姿に戻れなくなるのよ⁉︎」
ジュリアは大声を上げて人形達を止めようとしたが人形達は聞く耳を持とうとはしなかった。
「……知った事か‼︎どうせお前は俺達の事を元に戻す気なんてないだろ⁉︎お前に殺される位なら……俺達がお前の事を殺してやるよ‼︎」
すると人形達が一斉にジュリアの方に向かって走ってきた。
「くっ……‼︎」
ジュリアはとっさに人形達と反対の方向に向かって逃げ出した。
「ちっ!逃げたぞ‼︎追え‼︎絶対に捕まえろ‼︎」
ジュリアは人形達の元の体が置いてある洞窟に向かって走り出した。その洞窟でジュリアは人形達の事を殺す気だった。
人形達もジュリアの後を必死に追いかけたが、ジュリアは森の中に上手く隠れながら洞窟に向かっていたので中々捕まえられなかった。
しばらく走るとジュリアは洞窟に辿り着いてその中に急いで入った。
「おい!あの洞窟の中に入ったぞ!急げ‼︎」
ジュリアが洞窟の中に入るのを見ていた1人の人形が仲間達を呼び寄せて急いでジュリアの後を追った。
ジュリアは洞窟に入ると人形達の体を置いてある洞窟の中の牢屋に向かった。
牢屋の前に近づくとジュリアの部下のメラニーが牢屋の前で椅子に座って見張りをしていた。
「メラニー!急いで牢を開けなさい!早く‼︎」
「ジュリア様っ⁉︎」
メラニーはジュリアの普通とは思えない慌てた様子に驚いていたが、しばらくして人形達がジュリアの後を追ってきている事に気づいて何となくだが状況を察したのか急いで牢屋の鍵を開けようとした。
次の瞬間、人形の1人がジュリアに追いついて屋敷から持ってきた鈍器のような物でとっさにジュリアの頭を思い切り殴った。
「くっ……‼︎」
ジュリアは頭を殴られた衝撃でその場へ崩れ落ちた。
ジュリアを殴った人形は今度はメラニーの方に向かって走り出し、メラニーが逃げようとしたが追いついて今度はメラニーの頭を思い切り鈍器で殴った。
そしてジュリア達を殴った人形が他の人形達に聞いた。
「……これでひとまず大丈夫だろ⁉︎おい!こいつらこれからどうするんだ⁉︎」
すると他の人形達が返事をした。
「ああ……とりあえず縛っておけばいいんじゃないか?動きさえ封じておけばこいつらから殺される事はないだろ?」
「ああ……そうだな。じゃあ俺はこいつを押さえておくからお前達はその女とロープを用意してくれ。早く!さっさと済ませるんだ!」
ジュリアとメラニーを押さえていない他の人形達が洞窟の中でロープを探し回っていた。
しばらくすると1人の人形がロープを見つけてジュリア達を押さえている人形の方へ向かった。
人形達は協力してジュリアとメラニーをロープで縛って動けなくした。
縛られて少し経った頃メラニーの意識が戻った。
「……痛っ……。……あなた達!自分が一体何をしているのか分かっているの⁉︎こんな事してただじゃ済まないわよ⁉︎」
すると人形達の中の1人が笑いながら言った。
「はっ!ただじゃ済まないってどうするんだ⁉︎その状況じゃ何も出来ねーよな⁉︎……それにお前達は大人しくしてたって俺達の事を殺す気だったんだろ⁉︎……だったら俺達の方からお前達の事を殺してやるよ‼︎」
その言葉にメラニーは本当に殺されるかもしれないと思ったのか、人形達に逆らわないようにしようとした。
「……待って!私は何も悪くないの……!あの女に言われてただここで見張りをしていただけなの!だから許して……!何でもするから!お願い!」
メラニーのその態度に人形は呆れた態度をしながら言った。
「はっ!何を今更……この後に及んで命乞いか?情けねーな。……もう手遅れなんだよ!お前達がやった事は‼︎」
「待って‼︎私は本当に何も関係ないの‼︎お願い!信じて‼︎」
メラニーのその態度に人形は話しても無駄だと思ったのかジュリアを押さえている人形の方を見て言った。
「おい!その女を起こせ!こいつじゃ話にならない。さっさとその女を起こして元の体に戻る方法を考えようぜ。」
「ああ……ちょっと待ってろ。今起こすから。」
そう言うとジュリアを押さえていた人形がジュリアの肩を揺すりながら言った。
「……おい、起きろ。……おい!……‼︎」
その人形はジュリアの体を揺するのを止めて、一呼吸吐いた後落ち着いてジュリアの脈を測り出した。
人形がジュリアの脈に手を当てるとジュリアの脈は止まっていた。
その人形はようやく事の重大さに気付き、他の人形達に震える声で言った。
「……おい……こいつ……。……たぶん死んでる……。」
その言葉に他の人形達も驚いて皆一斉にその人形達の方を見た。
「まさか……おい、待てよ!あれだけでか……⁉︎じゃあ俺達はもう本当に元に戻れないっていう事か⁉︎」
人形達は慌ててジュリアの方に行って生死を確認しようとした。
さっきの人形がもう1度ジュリアの脈を測って確かめたがジュリアの脈は止まっていた。
「……ダメだこれ……本当に死んでる……。」
人形達はもう元に戻る事が出来ないかもしれないという事実にショックで黙り込んでしまった。
そして人形の1人が突然取り乱しながら声を荒げて言った。
「……おい!どうするんだよ⁉︎そいつが死んだって事は俺達はもう元に戻る事が出来ないって事だろ⁉︎じゃあ……俺達はずっとこのままこの姿なのか⁉︎本当にこんな姿で一生暮らせっていうのか⁉︎……なぁ……一体どうしてくれるんだよ‼︎」
するとジュリアを殺した人形がメラニーの方を見て言った。
「……おい、待て!その女なら……その女なら何か知っているかもしれない。……おい!お前!お前は俺達を元に戻す方法を知っているのか⁉︎答えろ‼︎」
するとメラニーは首を横に振りながら言った。
「……知らない……私は何も知らない……。」
すると人形の1人が怒鳴り声を上げながら言った。
「おい!お前!何か隠そうとしてたらその時はお前が死ぬ事になるぞ‼︎本当に知ってる事はないのか⁉︎どうなんだ⁉︎答えろ‼︎」
しかしメラニーは泣きながら首を横に振って言った。
「……信じて……私は本当に何も知らないの……。あの魔術書の使い方も本当に分からない……。ごめんなさい……許して……。」
メラニーのその様子は人形達には嘘をついているようには見えなかった。
「……おい、どうするんだよ一体……。」
「……なぁ?俺達本当にずっとこのままなのか……?もう元の体に戻る事は本当に一生ないのか……?」
人形達はその場所から動く事が出来なかった。
自分達がやってしまった事を受け止める事が出来ないままその場所でひたすら立ち尽くしていた。




