王と囚人2
ポールが傭兵達と約束した森まで行くと傭兵達はすでに全員が集まっていた。
ポールが約束した場所はレールムの関所に向かう時に必ず通る道で、周りは森林で覆われていて近くに人が住んでいる事は全く無いような場所だった。
この場所なら逃げられでもしない限り他に助けを呼びに行く事は出来ないとポールは考えていた。
ポールはその場所に金で雇った50人近くの傭兵達を集めていた。
ファビオの護衛の兵士の数はいくらレールムから出るといってもせいぜい2〜30人近くがいいところだろうとポールは予想していた。
数では分はあると思っているが全員を始末している時間などない。ポールは兵士達を傭兵達に任せて、自分はファビオだけを狙う気だった。
ポールは自分の顔がバレないようにフードを深くかぶり、変装してファビオが通るのを待った。
ポール達がファビオを待って随分経った頃、遠くから人影がこちらに向かって来ているのが分かった。
すると集めた傭兵達のうちの1人がポールに話しかけてきた。
「なぁ、あんた……金はもらってるから別にいいんだけどよ。……その、やっぱり殺しってのは気が引けるよな。」
するとポールがその男の方を見て言った。
「……ああ。気持ちは分からないでもないがそういう約束だろ?……それよりも王子は殺さずにいてくれよ。あいつは大事な人質なんだ……。」
すると傭兵の男が笑いながら言った。
「へっへ、分かってるって。さぁ腕が鳴るぜ。」
ポール達はファビオが近づいて来るのを森の中に身を潜めながらじっと待っていた。
そしてファビオがすぐそこまでやって来た。
ポールはその瞬間、タイミングを見計らって傭兵達に大声で命令した。
「今だ!全員行け‼︎」
ポールの命令で傭兵達が一斉にファビオ達に向かって襲いかかった。
ファビオを護衛する兵士達は突然の奇襲に驚いて、動きが一瞬止まってしまっていた。
ファビオを護衛する兵士達ポールが予想した人数よりもはるかに少ない10人足らずだった。
そんな程度の数ではポールが用意した傭兵達に太刀打ち出来る訳もなかった。
兵士達が奇襲に驚いている隙に傭兵達は兵士達を次々と斬り捨てていった。
「おらぁ!どんどん斬れ!一気に片付けるぞ!」
「ぐわぁっ!くっ……お逃げ下さい王子!早く‼︎」
ファビオの周りにいた兵士はファビオを逃がそうと必死に守っていた。
ファビオは動揺していたのか、兵士の近くを離れて必死に逃げようとしていた。
「……クソー!一体何なんだこれは⁉︎」
ファビオが逃げようとしている方へポールは急いで回り込んだ。
するとポールの様子を見ていた傭兵の1人がポールの方へと走ってきた。
「へっへ……そいつかい……?王子ってのは?」
「ああ……急いで取り押さえるんだ。」
するとその話を聞いていたファビオが慌てた様子でポール達に言った。
「待て‼︎何が望みだ⁉︎金か⁉︎金なら払う!だから助けてくれ‼︎」
すると傭兵は笑みを浮かべながら言った。
「……へっへ……そうか。じゃあ俺はお前に付いてもいいけどな。」
そう言うと傭兵はポールの方を見た。
次の瞬間ポールが傭兵を斬り捨てた。
「ぐわぁー‼︎」
傭兵が倒れるとポールは辺りを見回し、他の傭兵達が兵士達と争っているのを確認した後王子に刃を向けた。
「急げ‼︎この場所からさっさと離れろ!さっさと歩け‼︎」
ファビオは動揺していたが動こうとはしなかった。
「待て!待ってくれ‼︎金なら払う!だから助けてくれ‼︎」
するとポールはファビオの首元に刃を向けた。
「さっさと歩くんだ。殺されたくなかったらな……。早くしろ。」
ファビオは抵抗する事が出来ず、ポールに言われた通りその場から歩くしかなかった。
ポールはファビオを連れて誰かが近づいてきていないかを確認しながら、ジュリアが待っているはずの小屋へと向かった。
それから随分歩いてポールはファビオを連れて、ジュリアが待っている小屋に着いた。
小屋の前でポールがジュリアを呼んだ。
「おい!ジュリア!俺だ!開けてくれ!」
ポールの声が聞こえたジュリアが小屋の中からドアを開けた。
「おい!こいつをロープで縛るぞ!俺がこいつに剣を向けておくからお前はロープで縛ってくれ!」
「……ええ。分かったわ。ちょっと待って……今ロープを持ってくるから……。」
ジュリアがロープを取りに行くと、ポールはすかさずファビオに強い口調で部屋の中に入るように強要した。
「おい!さっさと中に入るんだ!急げ‼︎殺されたいのか⁉︎」
ファビオは怯えながら声を震わせて言った。
「わ、分かった……入るから……ちょっと待ってくれ……。」
ファビオは抵抗する事が出来ず、ポールに言われた通り小屋の中に入った。
ポール達が小屋の中に入るとジュリアがロープを持って近づいてきた。
「ジュリア!俺が剣を向けているからこいつをロープで縛ってくれ!」
「ええ、分かったわ。」
ジュリアはポールに言われた通りファビオをロープで縛り始めた。
「おい!動くなよ!妙な真似しようとしたらすぐ殺すからな‼︎」
ポールはファビオが動かないように怒号を上げて威嚇していた。
ジュリアはファビオの手足をロープで縛って動けなくするとポールに言った。
「いいわよ。縛り終わったわ。」
「よし……分かった。」
するとポールはファビオを魔法陣の中心まで担いで移動させた。
ポールはファビオを運び終えると、自分は反対側の魔法陣に移動した後にジュリアに言った。
「さぁいいぞジュリア……俺の事も縛ってくれ……。」
「ええ……分かったわ。」
ジュリアは言われた通りポールをロープで縛り始めた。
ポールの手足を縛り終えて動けなくするとジュリアが言った。
「さぁ、いいわ。縛り終えたわよ。」
「……ああ、分かった。……いつでもいいぞ……始めてくれ。」
「……ええ。じゃあ始めるわよ……。」
ジュリアが魔術書を開いて呪文を唱えようとした瞬間、突然ポールがジュリアを呼び止めた。
「ジュリア!ちょっと待ってくれ。……俺のフードを取ってくれないか?」
「フード……?ええ……いいけど。」
ジュリアはポールに言われた通りポールのフードを外した。
フードが外れるとポールはファビオの方を見て言った。
「俺が誰だか分かるか⁉︎ファビオ?」
「……お前はポール⁉︎」
ポールの正体が分かるとファビオは激怒して怒鳴りつけながら言った。
「どういうつもりだポール⁉︎お前自分が一体何をしているのか分かっているのか⁉︎お前だけじゃない‼︎こんな事してお前の周りの奴等だってどうなるか分からんぞ‼︎」
「ああ……分かってるよ。だが何の問題も無いな!俺とお前はこれから入れ替わるんだからな‼︎」
ポールのその言葉をファビオは全く理解出来ず、バカにした笑い方をしながら言った。
「……入れ替わる?……何を言っているんだお前?おい、ポール!訳の分からない事言ってないでさっさとこの縄を解け!今ならこの一件はなかった事にしてやる。もちろん父上にだって言わないしそれにお前の望みだって叶えてやる。何が望みなんだポール?言ってみろ。何でも叶えてやるから……だからこの縄を早く解いてくれ。」
ファビオのその言葉を聞いてポールが笑いながら言った。
「望みか……あいにくお前から叶えてもらう望みなんてないな。王の座も……レイラも!全て俺の物なんだよ‼︎」
するとポールが今度はジュリアに激しい口調で言った。
「いいぞジュリア!早くやれ!ためらうな!早くやれー‼︎」
「……分かったわ。始めるわよ。」
ジュリアは話を終えると魔術書の呪文を唱え出した。
ファビオは何がなんだか分からずに、ただ恐怖で喚き叫んでいた。
「止めろ‼︎何をする気だ?おい……止めろ。止めてくれー!」
ファビオの叫びも虚しくジュリアが呪文を唱えると魔法陣が光り出した。
魔法陣が光っている間もファビオは叫び続けていたがどうする事も出来ず、やがて魔法陣の光は消えた。
ジュリアは光が消えたのを確認してファビオの体の方へと行った。
そして入れ替わっているはずのファビオの体のポールに話しかけた。
「……ポール……?ちゃんと入れ替わってるの……?」
するとファビオの体がジュリアの方を向いて言った。
「……ああ。……どうなってる⁉︎俺はちゃんと入れ替わっているのか⁉︎」
するとジュリアが笑みを浮かべて言った。
「ええ……!ちゃんと入れ替わってるわよ!ちょっと待って。今鏡を持ってくるから……。」
するとジュリアは鏡を取りにその場から離れた。
ジュリアが鏡を取ってきてポールに見せると、その姿は紛れもなくファビオの姿だった。
「これが俺……。間違いない。俺は間違いなくファビオになっている。……成功だ。これで俺は間違いなく王になったんだ……。」
するとそれを見ていたファビオが言った。
「……どういう事だ?何で目の前に俺がいる……?」
ファビオがただ呆然としていると、ジュリアが笑みを浮かべながらファビオに近づいて鏡を見せた。
するとそこにはポールの姿が映っていた。
「……どういう事だこれ……?何でポールが映っている?待て!そういえばさっき入れ替わるとか言ってたよな⁉︎あれは本当だって言うのか⁉︎おい、一体どうなってるんだ、これは……?」
ポールは錯乱してずっと同じような事を言っていたが次第に話すのを止めて黙ってしまった。
するとポールがジュリアに向かって元気よく言った。
「ジュリア!俺のロープを解いてくれ‼︎頼む!」
「ええ、分かったわ。ちょっと待って……。」
ジュリアはポールのロープを解いた。
「ありがとな……ジュリア。お前には本当に感謝している……これからもお互い力を合わせて頑張っていこう。」
「……ええ。そうね。」
すると突然ファビオがポール達に向けて怒鳴りながら言った。
「待て!お前等の目的は一体何だ⁉︎こんな事して……俺の体を奪うような真似をして……一体どうするつもりなんだ!これから⁉︎」
するとポールがファビオの方を見て笑いながら言った。
「ふっ。目的か……まぁ今のお前にはもう関係ないがまぁ教えてやってもいいか……。俺はなこれからお前の代わりに王になるんだ。王になってあの国の権力も……レイラも……!全て俺の物になったんだ‼︎俺は欲しかった物を全て手にしたんだ‼︎」
するとファビオが哀れんだような言い方で言った。
「……ふっ。何だお前?俺がずっとうらやましかったのか?それで俺の体を乗っとろうと考えた訳か……?」
するとファビオのその挑発にポールの表情がみるみる変わった。
「……何だと?」
ポールはファビオの所まで行ってその体を踏みつけようとしたがさっきまで自分の体だったのだ。
ポールは踏みつけようとする自分を冷静になって止めた。
「はーっ……。」
ポールは1つ深呼吸をした後にジュリアの方を見て言った。
「なぁジュリア……これからどうするつもりだ……?何か考えはあるのか?」
するとジュリアが笑みを浮かべながら言った。
「あなたはもう自由よ……早くお城に戻ったら?あなたを待っている人達がたくさんいるでしょ?それにこの男の事は私に任せるって約束したはずよね……?」
ポールはその事がずっと気になっていたが、ジュリアが教えようとしなかったので知らなかった。
だが体が入れ替わった今となってはそうも言っていられない。ファビオの方を一緒見た後、気を取り直してジュリアに聞いた。
「そうつをどうする気だ……?まさかこのまま何も話さないって訳じゃないだろうな……?」
「……そうね……あなたにはいずれ話すかもしれないわね……。でもそれは今じゃない。もしあなたが今私の事を襲おうとすれば私はその男を助けてあなたを元に戻すわ。それでもいいかしら……?」
ポールは嫌な予感はしたがこの場では2対1と分が悪い。
何よりジュリアに対しての得体の知れない恐怖とせっかく王になれるのにそれを失うかもしれない恐怖心とで思い切った行動を取る事が出来なかった。
ポールはここは大人しくジュリアの言う事を聞く事にした。
「……ああ、分かった。じゃあ俺は城に戻るよ。それで今後の事についてはどうする気なんだ……?何かあった時連絡が取れるようにしておきたいんだか……?」
「それだったら私が今度あなたの所へ直接行かせてもらうわ。お城に行けばあなたに会えるでしょうしね。その時にゆっくり話しましょう。」
「ああ……そうか。分かった。」
ポールはこの場はジュリアの言う事を素直に聞いた方がいいと思い、小屋から出る事にした。
「……じゃあ俺は城に戻るよ。何かあった連絡をくれ。」
「ええ……分かったわ。」
ポールが話を終えて小屋から出ようとドアに手をかけた時、ファビオがポールに大声で叫んだ。
「待て‼︎ポール!貴様こんな事をして本当に許されると思っているのか⁉︎さっさと戻せ!戻すんだ‼︎」
するとポールが後ろを振り返って、ファビオの状況を哀れんだのかそれともこの状況が変わらないという余裕からなのか、笑いながら答えた。
「ふっ……。許されるも何もあるか⁉︎第一お前には自由が効かないだろ⁉︎そんな状況で何を言ってやがる⁉︎……?」
ポールが話しているとジュリアが手で静止してポールが話をするのを止めた。
「行きなさい、早く。」
「……ああ。」
ポールはジュリアが不気味だったのでここはそのまま小屋から出る事にした。
ファビオはポールの事を叫びながら呼び続けていたが、ジュリアはポールが遠くに行くのを静かに待っていた。
そしてポールがいなくなって暫く経つと、ジュリアは小屋の外に出て辺りを確認しに行った。
小屋の周辺にポールがいない事を確認するとジュリアは小屋の中まで戻って来てファビオに言った。
「ふふっ……さぁあなたには一緒に来てもらうわよ。」
ジュリアのその言葉にファビオはとても恐怖を感じながらも命乞いをするように言った。
「……待て。何が望みなんだ……?言ってくれ……!何でも言う事を聞くから……だから元に戻してくれ。頼む……。」
「……望みね。」
しかしジュリアはファビオの言う事を聞く気が全くなかった。ファビオは元に戻ればジュリアに対して弱味が全く無くなる……むしろジュリアに対しての怒りでジュリアを始末しようとするだろう。それにポールは元に戻ろうとはしないのだ、絶対に。ファビオを人質に取っておけばポールは自分の言う事を聞くしかない。ファビオが死ねばポールも死ぬのだ。
ジュリアはとりあえずこの場はファビオを誰にも分からない所へ連れて行くのが先決だと考えた。
そしてジュリアはファビオの足の部分のロープだけを解いて言った。
「立ちなさい、早く。」
ジュリアがそう言うとファビオはこれから先何をされるかを考えるととても恐ろしくて動こうととはしなかった。
「……待て。俺をどうする気だ?それを教えてくれないとお前の言う事は聞く事は出来ない……」
「いいから早く立ちなさい。早く。」
ファビオはジュリアに対する恐怖で言う事を聞くしかなく、言われた通り立ち上がった。
ジュリアはファビオが立ち上がると小屋から出てある場所に行くように指示した。
ファビオがジュリアの指示通りその場所に向かうとそこは森の奥深くで、ジュリアによって作られた牢屋があった。
「入りなさい、早く。」
ジュリアはファビオを牢屋の中に入れると鍵をかけて牢屋から出られなくした。
「手を出しなさい。」
ファビオが言われた通り牢の中から手を出すと、ジュリアは持っていたナイフでファビオの手を縛っているロープを切った。
それが終えるとナイフを牢の中に投げ込んだ。
「後は自分でやっておきなさい。……さぁ私はもう行くわ。食事はたまに運んできてあげるからあなたがここで死ぬ事はないでしょう。まぁせいぜいこの何もない場所でどうやって生きていくか考える事ね。」
するとポールが牢に身を乗り出しながら言った。
「待ってくれ‼︎元に戻してくれたら何でもする‼︎望みは何なんだ⁉︎言ってくれ‼︎だから……お願いだから助けてくれ‼︎」
「望みね……。」
するとジュリアはファビオの方を見てあざ笑いながら言った。
「あいにくあなたに望みなんてないの……!あなたはここで大人しくしていなさい。それがあなたに出来る唯一の事よ。……それにあまりしつこく言わないの。そんな事してたら食事も持ってきてあげないわよ。それじゃああなたも困るでしょう……?」
「……そんな……。」
ファビオは打ちひしがれてしまい、それから口を開く事はなかった。
「さてと……じゃあそろそろ私は行くわ。今日はもう疲れたから話は今度食事を持ってきてあげた時にでもゆっくりしましょう。それまでそこで大人しくしているのよ。じゃあね。」
そう言うとジュリアはその場所から立ち去ってしまった。
ファビオは離れて行くジュリアの姿をただ呆然と見ている事しか出来なかった。




