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黄昏高校ボランティア部

作者: 光楼

私が黄昏(たそがれ)高校の入学式を終えて帰路につこうとしたとき、女先輩3人が私を囲んだ。


正面に立つショートヘアの先輩が口を開く。

「君の名は?」

自分と入れ替わってしまった人でも探しているのだろうか?私はためらうことなく質問に答えた。

「佐々風 美月です」

すると左後ろのセミロングでやや背の高めの先輩が言った。

「みっちゃんか」

あだ名を付けられた。みっちゃんと呼ばれるのは小学生以来だ。

そんなことを思っていると、右後ろのミディアムで清楚な先輩が控えめに発言する。

「あなたにお願いがあるんだけど……」

私の体を探してほしいとでも言われるのだろうか。すると正面の先輩がテンション高めでこう言った。

「部活やらない?」

なんだ、部活の勧誘か。


私が部活の勧誘を受けたのはこれが初めてではない。中学校に入学してすぐ吹奏楽部にしつこいくらいに勧誘を受けた。その時は毎回断って帰宅部を貫いた。でも今は部活をやってみたいと思っていた。

この学校には気になる部が多い。弦楽部とか、ごらく部とか、金部とか。私を勧誘するこの部は何部だろうか。

「ボランティア部だよ~!」

正面の先輩が自信満々に教えてくれたが、私はその部が何なのか知らない。

「ボランティア活動に参加して、地域の人との出会いを求める部活よ」

今度は右回りだろうか?右後ろの先輩が言ったのだが色々突っ込みたい。

案の定次に発言したのは左後ろの先輩だ。

「就職活動でも有利になれるぞ!」

たしかにボランティア活動をしていたと言えば、面接官への印象は良いかもしれない。

しかし今の説明を正面の先輩が否定した。

「違う違う、そんなんじゃなくって!」

一体何が違うというのだろうか。というのは冗談で、薄々言い方の問題だと感づいていた。

「ボランティア部というのは仮の姿、実際は他の部に助っ人を提供する部員派遣部なのだよ!」


この部活は一体何なのか。彼女らによれば、試合に出たいが人数が足りない部や、部員が不足して廃部になりそうな部に部員を派遣する部活らしい。後者に関しては部活の掛け持ちが不可なため、一度この部を退部して派遣先の部に入部届を出す必要があるらしい。

そんな部活が何故私を勧誘するのだろうか?

聞いてみると正面の先輩が答えた。

「一人だったから、いけると思って」

中学の時も一人の時を狙われていたような気がしたが、私が聞きたいのはそういう事ではなかった。

「そういうことじゃないでしょう?」

どうやら右後ろの先輩は分かってくれているようだ。そのまま説明してくれた。

「この学校は5月の一番最初の登校日に部活存続の審査があるの。その時に部員が4人に満たない部活は廃部になってしまうのよ。そしてボランティア部の部員はここにいる3人だけ。どういう事か分かる?」

先輩がやさしく問いかけた。

「つまり……このままじゃ廃部?」

すると唐突に正面の先輩が話し出した。

「その通り!だから君を勧誘しているのだよ」

何故このセリフを自慢気に言ったのかは私には理解できなかった。

「3人だけなんですか」

「そっ」

すると左後ろの先輩が補足をした。

「ちょっと前まではもっといたんだけどなぁ、派遣したっきり帰ってこなかった」

今度は左回りのようで、右後ろの先輩が発言した。

「確かクラシック同好会と放課後体育館倉庫部に1人ずつ派遣したのよね」

「なんで戻ってこないんですか?」

「なんか、あっちの方が楽しいらしくて……」


その後しばらく続いた沈黙を、正面の先輩が破った。

「それでも良いんだよ!」

皆、お前は何を言っているんだというような顔をしながら先輩の話を聞いた。

「途中でどっかに行っちゃっても良い、けど色んな部活に入れるのはこの部だけ!ここには失われた自由があるんだよ!」

すると左後ろの先輩も話し出した。

「そうだな。こんな部活、他にはないぞ」

案の定次に発言したのは右後ろの先輩だ。

「この部活、意外と楽しいのよ?」

そして発言者は正面に戻った。

「さぁみっちゃん、一緒に部活やろうよ!」


私はここに入部することに決めた。しかし先輩の発言に感化されたわけではない。なかなか入部先を1つに絞れない私にはぴったりの部活だったからだ。

次の登校日には入部届を出し、週1回の部活に通った。

あの先輩3名は皆2年生で、名前は正面にいたのが久留米 夏輝、右後ろにいたのが船橋 香織、左後ろにいたのが岬 (かなえ)だ。私はこの愉快な先輩たちと校内の美化活動や先生の手伝いをしたりして楽しく過ごした。


そして運命の5月1日、ボランティア部は部員0人で廃部となった。

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