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ボーカルとギターとドラムの発言、彼らを知る関係者の証言

このフェスを計画したと言われてるバンドのボーカルのギリは、ステージ上で燃えながら死んだ。ちなみにギリは本名、見山浩一。享年21歳で、細見。ナイーブな性格であったと言われている。死ぬ間際までSNSを更新し続けていた。ギリは常にぎりぎりの生活をしていたことからつけた名前である。金髪で痩せている。好物はカップラーメンで、死ぬ日の朝もカップラーメンを食べていた。


見山のある日の動画でのコメントはこうだ。

「俺はこのフェスで死んで伝説になるんだ。俺の考えに同意してくれている仲間はこんなにたくさんいる!見ろよ!みんなが協力してくれる!ああ、もちろん死ぬなんて馬鹿なことすんな!って言ってくる奴はたくさんいるよ!もっと生きて抵抗しろよ!って言ってくるやつもたくさんいるよ!わかってるよ!俺の、俺らのことを思って言ってくれてることだってのも分かってるよ!でも、俺はもう、何もかも許せねーんだよ!こんな日本が、本当に、本当に許せないんだ!こんなままの社会で生きていこうとなんて思えるか?思えねーよ!どう考えたって無理だって!これは、このフェスは俺たちができる、唯一の抵抗なんだ」


見山は、別の動画でこうも言っている。

「この動画を観てる人、こんにちは。これが公開されてる頃に、俺はもうこの世にいないと思う。今回のフェスを主催したのは俺と俺らバンドメンバーです。あと、アイドルのじゅーちゃんと、君島さんと、菅野さんと、市岡さん。あと、ミシコのやつらと、ぐるぐるあぼーのメンバー。今言ったメンバーが中心。あとは、協力してくれるファンのみんな。みんなにありがとうと言いたい。このフェスが開催されて、俺がきちんと死んでれば、それが成功だからね!その成功のために、俺らめっちゃ頑張ってるから!最高の演奏したあと、最高の状態で死ぬから!ちゃんと観ておけよ!で、こういうスーサイド・フェスを考えた意図をね、言っておきたいと思う。俺は、もうこういう手段でしか、世界を変えられないんじゃないか、と思ったんだ。もちろん、生きてね。生きて、こう世の中変えていく、っていうのもできるかもしれない。ミュージシャンだったら、生きてメッセージとどけろよ!って言う人がいるのも分かるよ。分かる。俺らだって、本当はそうしたかった。でも、俺ら、ね。知ってのとおり、うまくねーし、才能ねーし、売れてねーし。だから自殺ってのは安易な手段なんだな、ってのも感づいてはいるんだよ。こんなかたちで伝説になる!っつってもね。そんなの伝説じぇねーよ、っていろんな人に死んだ後も言われるんだろうな~、って。そうも思ってる。ははは(笑)。でもね、ほんとちっぽけで、ださくて、売れてねー、こんな俺らができることってなんだ?ってすげー考えた時に出た答えがこれだったんだ。俺らにとっては、一生懸命考えた上での結論だったんだよ。そこを分かってほしい。それくらい、俺たちはもう、こう、追い詰められてるんだ。もう、将来に希望なんて持てないし、この国が明るい方向に行くなんてことも想像できない。きっと戦争は起きるだろうし、日本人を自画自賛するのはもっといろんなところで起こるだろうし、それを冷めた目で見てる奴もいるだろうし、もう日本死ね!って思ってる奴らも、きっと何人もいると思う。そこで、俺らが考えたのがこのスーサイド・フェスだったんだ」


見山は口調を強めて、なおも語る。

「俺らの死をもって、社会にうったえたいんだよ。こういう手段を選ばなきゃいけないほど、今の若者は苦しんでる、って。反抗したくても、もうそんな力すら残ってないんだ。自分で自分を殺すしかないんだよ。で、俺らが死んだことで、逆に俺らと、同世代の奴らがさ。逆にさ。ああ、こいつらは自殺した!でも、俺はもっと、生きて、こういう奴らを生まないようにしよう!そういういい社会を作ろう!って思うかもしれないじゃん?選挙とか行ったけどさ。結局、高齢の人が選んだ人が選ばれてんだもん。俺ら無力じゃん、って。そんな無力な俺らができる最後の抵抗なんだよ。だから、それを分かってほしい。両親には手紙も書いてるけど、ここでも謝っておきます!すみません!僕、死にます!あと、色々お世話になった人とかね。ファンの子にもね。ごめん。でも、俺らのことを分かってくれると思うんだ。本当のファンなら。いや、本当のファンでも反対するかな。まあ、どっちにしろ、俺らはもう決めたから。この決心は揺るがない。スーサイド・フェスで演奏して、全部の曲が終わってから爆発起こしてみんなで死にます。これが、ギリとしての俺の生きざまです。いっつも、いっつもぎりぎりの、ぎっりぎりの人生だったけど、最後まで多分色々とギリギリだろうけど、まあよろしく!バイバイ」

これらの動画は時を経て消去されている。Kは、個人宅のPCの中からこの動画を発見した。


ギターのミチもステージ上で炎に包まれて死んだ。彼の本名は渡辺満。享年20歳。彼は、茶髪で痩せている。タバコは3回挑戦したが、うまく吸えなかった。酒も苦手だ。父親は10歳の時に借金を残して死んだ。シングルマザー家庭で育った渡辺は、こう言い残している。

「俺たちは、こういうかたちでしか、生きている証を残せなかったんだ。もちろん、もしかしたら今後生きていけば、色々良いことも起きるかもしれない。そんな可能性が少しでもあるかもしれない、とは少しだけ思う時もある。でも、世の中が、俺の人生が今後良い方向に転ぶとは、どうしても信じられないんだ。先の未来のことなんて考えられない。だって、今の時点で明日食べるものの心配しなきゃならない。親の借金の心配しなきゃならない。限界なんだ、もう何もかも。もちろん、こういうスーサイド仲間ができたのは良いことだ。でも、これは、こういう死ぬことを目的としているからつながっていられる仲間なんだ。そういうのは仲間じゃない、っていう批判があることも知ってる。でも、俺たちを止めることはもうできない。それほど強い怒りを感じてるんだ。あらゆることに関してね」


渡辺は、貧しい家庭に生まれた。ギターは、高校時代に軽音部の先輩からゆずり受けたものだ。楽器を買う金もない。高校に行きながらバイトをして、実家の借金返済にあてた。バイトの合間でギターの練習をした。渡辺は普段は寡黙な男だった。めったに饒舌になることはない。もくもくとバイトでも接客をし、バンドでも冷静にギターを弾く。目立つタイプではないが、冷静に、正確に行動する男だった。


渡辺を知る小学生時代のクラスメイト、清水佑はこう言う。

「なべっちは、すげークール。すげークールで何考えてんのかよく分からないこともある(笑)。そんなタイプ。いやでも、まさか自殺するとは思わなかったです。だって、冷静に色々やってましたからね。勉強も運動も、そこそこできたと思います。あとそう、歌も上手かった!たしか、ギターは中学の時から始めたはず。成人式で会った時にバンドやってるっていうの聞いて、なるほどなーやっぱり音楽やってるんだーって思いましたもん。成人式の時も、別に普通でしたよ。そんな深刻なようにも見えなかった」



ドラムのマルは本名、山本純一。享年21歳。彼は坊主で顔が大きい。やせていて筋肉質ではあるが、顔は大きいほうだった。彼が死ぬ間際にはなったという一言が、こうだ。

「うっす!俺ら死ぬっす!ばいばい!」

彼は、最後まで明るい笑顔でドラムをたたいていた。まるで、その後に死ぬとは思えないほどの爽やかな笑顔を振りまいていたと言われている。残された映像でも、彼が映ると確かに満面の笑みを浮かべている。マルこと山本は、基本的に誰に対しても笑顔を振りまくタイプだった。明るく笑顔で人と接するので、周囲は彼が悩んでいたことなどを思いもつかない。


山本の中学時代の同級生だった田中和明は、彼のことについてこう語っている。

「山本君は、けっこう明るい人だったんですよ。いつもうっす!とか言ってて。人見知りもしないし、誰に対しても公平に接してるし。ほんと、フェスで死んだとか信じられないです。死ぬような人には見えませんでしたもん。ただ、確かに何を考えてるかよくわからないようなところはあったこもしれません。表面的には明るく接するけど、こう、心の中は読ませない、というようなところがあったようには思います」


この同級生の男、田中和明は、このフェスをニュースになってから知った。マスコミが取材にきて山本のことを話すことになり、面倒だなと感じた。山本の葬式には来なかった。なぜなら、その程度の関係だったから。田中にとっては、よく知らない同級生の死よりも、己の就職活動のほうがはるかに重要だった。それは、学生として非常にまっとうなことだ。よく知りもしない同級生が自殺して、それに関してよく分からないマスコミからコメントを求められても、わずらわしいことしかない。


田中は努力のかいあって、広告代理店に入社した。この広告代理店では、新入社員は奴隷のように働かされる。2020年代半ばを過ぎても、日本人の長時間労働の働き方は変わらない。田中には一流の企業で試練に耐える運命が待っていた。田中は、33歳の時に過労が重なり、それを紛らわすために酒を大量に飲んだ。飲み過ぎた田中は、線路に落ちて電車にひかれて死亡した。2028年の12月。年末の時期だった。ホームドアが普及してきたにも関わらず、田中は酔った勢いでホームドアを飛び越え、線路にダイブしたのである。彼の最後のSNSのメッセージはこうだ。

「今日はすっげー飲みたい気分!」

彼は酒に飲み込まれ、社会に飲み込まれ、死んだ。

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