第1話 愛情を知らぬもの
この作品は処女作です。更新日時は未定ですが、あまり間が開かないように頑張ります!
私立高校の推薦受験が終わってまだ間もないこの頃、その少年は白い息を吐きながらカバンを自分の横に置き、寒そうに公園のベンチに座っていた。
受験が終わっても自由登校にはならない中学校では学校には用が無いのに行かなくてはならないという半ば強制的に行かされている気分になる。
だが、少年には嬉しいことでもあった。
なぜ、嬉しいのか。
これというのも、少年が家を毛嫌いしているからなのだ。
少年には1分1秒と家には居たくないのだ。
今、寒い中ベンチに座っているのも家に帰りたくなかったのだ。
ー少年の名前は天羽 夜。容姿は整っており記憶力もとてもいいが勉強は全くしておらず成績は中の上だ。
今年で16歳になるが、13歳の頃まで自分の家の道場で居合道を習っていた。もちろん運動センスは抜群である。
そんな夜だが幼い頃から親から虐待を受けており家が好きではない。
暴力を振るわれる原因は離婚問題にあった。物心ついた頃には本当の両親はおらず離婚に離婚を重ねていった結果。
全くの赤の他人のお世話になっていた。
今では完全に邪魔者扱いを受けており、それでも住むところが全くない夜にとって今の家しか泊まるところがないのだ。
邪魔者扱いの夜は家ではサンドバッグ状態である。
何か不満なことがあるとすぐに夜をはけ口にし暴力を振るうのだ。
もちろん抵抗しようとするが居合道の師範代である親父に勝てるわけもなく体には無数の傷が増えるばかりである。
今の目標は一刻でも早くあの家を出ることだった。
「はぁ〜、早く出ていきたいものだ」
夜はベンチに深く座りながら溜息を吐きながらそう呟いた。
それから嫌々ながらもベンチからゆっくりと立ち上がると、自分の横に置いておいたカバンを肩に掛け、冷えている手をポケットに突っ込むと気が進まないが家路につく事にした。
公園を出てすぐのちょっとした大きな交差点で信号が青になるまで待っていると
プーーーーー!!!
「きゃああああ!!!」
「おい!逃げろ!」
車の凄まじいクラクションが夜の近くで鳴り響くと共に、周りからは叫び声と忠告が飛び交っている。
そこでようやく気がつく、トラックが信号待ちしている俺に突っ込んできていることを。
ぶつかると思われたその瞬間、時がゆっくりになった。
いや、ゆっくりになったように見えていた。
そのゆっくりになっている時には夜の中では様々な思いが心の底から湧き上がってきていた。
ーあぁ、俺は死ぬのか。生まれてから家では虐待ばかり受けていた。それが当たり前だと思っていた。
それが間違えだとわかったのは小学校の時、わかったと同時に同学年のみんなが羨ましくなった。みんなは痛いことされてないんだ。甘えさせてくれるんだ。好きなものを自由に食べていいんだ。
そんな事をその時思った。
今となってはどうでもいい。
親との絆?愛情?何だそれは?
俺は愛情を知らないし親との絆なんてものはない。
それどころか、嫌悪と憎悪しかない。
今はそんなものは望んでいない。興味がない。
あぁ〜、死んでよかったのかも。
いや、嘘だ。死んでよかったなんて思わない。愛情に興味が無いなんて大嘘だ。
やっぱり嫌だ。死にたくない。
もし、もしもだ、俺の願いを一つだけ叶えてくれるのなら俺は迷わず言うだろう。
「愛情がほしい」
そんな言葉をぶつかる瞬間に呟くと夜に激しい衝撃が襲った。
衝撃と共に一瞬にして意識が消えていった。
そして夜の願いを聞いたものは誰もいない。
「ん?ここは?」
夜はゆっくりと目を開けながら体を起こした。
そこは当たり一帯が全く見えないほど暗い、だが周りからは美しい音色の鐘がずっとなっていた。
「俺は死んだはずだが…」
トラックに引かれた夜は跳ね飛ばされて確かに死んだ。
だが今こうして生きていた。
夜は混乱しながら現状を確認してみることにした。
すると少し違和感があり当たりを見渡す。
夜は自分の体の周りには光がある事に気がついた。
光の原因を調べるためゆっくりと警戒しながらも顔を上げる。
夜は言葉を失った。
そこにあったのは美しく金色に輝く果実だった。
それはリンゴにとても似ており木の周り一帯を照らしていた。
そのリンゴを見た瞬間、夜にとてつもない空腹感が襲った。
(!?何だこの空腹感は?)
そんな事を考えていると上にあったリンゴが落ちてきた。まるで食べろと言わんばかりに。
(ダメだ!これが普通の果実だとは思えない!)
夜は拒絶しようとするが本能には逆らえず我を忘れてリンゴに必死にかぶりつく。
次の瞬間自分の満腹感とともに意識が深い暗闇に落ちていった。
「また、気を失ってたのか……で?ここはどこだ?」
今日はずっと気を失い続けている夜は突然の出来事が多すぎて冷静を失ってはいたが、いつもはとても冷静で判断力はとてもある方だ。
「お次は森の中か」
夜が横たわっているそこは綺麗な湖のある森の中だった。
周りを見渡しても森の出口は全く見えず昼間なので比較的明るかった。本来ならばこの訳もわからない場所に放り出されてパニックになるのだが今の夜はここがどこなのか、自分はどんな力を使えるのか元々知っていたかのように分かるのだ。
そしてこの世界のことも全て知っていた。
そう、全てだ。この世界の裏事情も知ったらすぐにでも殺されそうな情報が頭の中には当たり前のようにあった。
「何だこれは?こんな事俺は知らなかったことだぞ?それに魔法ってなんだ?」
夜は頭の中にある、あるワードに引っ掛かっていた。
それは、魔法だ。
自分の元いた世界には無かったこと空想上の物、そんな物がこの世界には当たり前のようにあった。
魔法には属性がある。
火、水、風、土、回復、無属性の6つの属性があり、そんな中から適性があるかを冒険者又は騎士になる人は確認する。
無属性は適性の中には入っていない。
理由は誰しもが生まれながらに持つ属性であるからだ。
適性がない人は無属性だけ、適性がある人は優秀な魔導師になったりする。適性が2つ以上ある人はそれぞれの国に1人いるかいないかぐらいのレア度だ。
そして魔法を行使するには魔力と術式が必要になる。
魔力の方は生まれながらの魔力量と生まれてからどれだけ魔力を使うかによって自分が将来どれぐらいの魔力量になるかは決まってくる。
魔力量が多い程、魔法の行使量や魔法の規模が違ってくる。
魔法の行使には、自分の想像力が必要になってくる。想像力が豊かな人ほどより強い魔法が行使できる。だが強い魔法には魔力の多さが必要になる。
それだけではなく、術式の構築の速さも必要になってくる。規模が大きいほど術式の構築は遅くなるがこれは、人それぞれ違う脳内での術式構築が早いか遅いかで決まってくる。
そんな魔法だが、まだ発見されていない魔法がある。それは雷と氷魔法だ。なぜ?知っているか?
夜自身が氷魔法を使えるということと、なぜかこの世界について異様なまでにある知識でわかる。それと夜の魔力量は異常だ。
大規模な殲滅魔法は一般(魔導師の中でもトップクラス)には1、2回程度しか行使できないのに対して、夜は最低10回以上は行使できる魔力量だった。
「はぁ〜、俺どうなるんだ?」
あまりにもおかしな自分のこれからの心配をボヤいていると、突然の突風が吹き荒れた。
「次はなんだ!」
突然のことに驚きつつも今まで座っていた体を咄嗟に起こし身構えた。
次の瞬間、自分の周りが暗くなる。
夜はそれが影だということにすぐに気がつき自分の頭上を見上げた。
ーそこには大きな赤いドラゴンがいた
「おいおい、マジかよ」
赤いドラゴン、ワイバーンと呼ばれる魔物だ。普段は特殊な場所に生息する魔物だが、その魔物がいるという事はここが特殊な場所だと物語っていた。
今、夜がいる場所はこの世界で最も危険な「魔の森」という所のかなり深い場所だった。
「今日はとことん厄日だな」
夜は自分の不幸な出来事を内心で振り返りながら呟く。
(それにしても、体が物凄く軽いし服装が飛ばされてくる前と大分違うんだが?)
知識から調べると元いた地球の重力の半分ぐらいしかないことから、体が物凄く軽くなっていた。
服装にいたっては黒のTシャツに黒のズボン、所々に赤のラインが入っている外套を着ていた。
グオオオオォォォォ!!!!
ワイバーンの事を忘れ自分の事を考えていると、痺れを切らしたワイバーンが咆哮と共に夜に襲いかかってくる。
(チッ!忘れてた!)
完全に忘れていたことを心の内で謝罪をしながらも夜に向かって口を開きながらも襲ってくるワイバーンを身軽な体を使い横に軽やかに飛び回避する。
(ふぅ、重力が少なくて助かった)
重力の少なさに感謝しながらも、ありとあらやる知識を持つ夜にとってこの状況は大した状態では無かった。
すると余裕をかます夜に向ってワイバーンは、口を大きく開けると火を溜め始めた。
(ワイバーンめ、人間1人にブレスか)
夜は毒づきながらも自分の知識をフル活用しブレスをどうするか考える。
そこでこの世界で使える魔法を使うことにした。
相手は火に対して夜は氷が使えるのだ。
(殺るか)
ワイバーンがブレスを吹く瞬間、夜は一瞬で術式を構築すると広範囲殲滅魔法「氷霧世界」で相手を凍らせる。
ガアアアアアアアアア!!!
その瞬間、ワイバーンの顔が吹き飛び森中に痛々しい叫び声が木霊した。
そして「魔の森」は夜を中心に銀色の世界へと変わった。
説明ばかりですみません。今回かなり長く書いてしまったので次の時から少し減らそうかなと思います。
さて次の話は少し説明+ヒロイン登場です!