ファントム
(「ああ、驚かないで。 私は怪しいものじゃないよ♪」)
タキシードの男は人差し指を立てて口元に添える。
「シー」と黙ってという合図のように
(「私の姿は君にしか見えていないよ♪ まぁ、見えるっていうのとは少し違うかな♪僕は頭の君の中にできたホログラム・・・ 幻想のようなものだよ♪)
タキシードの男はそういいながら微笑んだ。
その笑みには何か含みがあるようで少し怖い。
だが、ビランは臆することなく睨みつけながら尋ねた。
(「君の目的は何だ? 僕をどうするきだ?」)
(「ほう♪ もう、念話の方法を理解したか♪ 優秀だね~♪」)
男はビランの怒りなど意に介さずその学習能力の高さを褒め称えた。
(「話をそらすな!!」)
その飄々とした態度にビランは更なる怒りをあらわにした。
(「おうおう♪ 相手が幻影だからって強気になっちゃって♪ 可愛いな~♪♪ ま、でもそういうのも僕好みで実に良いね♪ バーサーカー君♪」)
(「・・・!!」)
ビランはその言葉に動揺した。
眼光は開き、目は泳ぎ、全身の毛穴が一斉に開き汗が滴り落ちた。
それを見ていたものたちは何事かとあせったが、ビランはその兵士たちの騒ぎ声で一気に正気に戻り平静を装いながら「なんでもない。大丈夫だ。」と伝えた。
それでも、レイチェルやカルキオが心配そうに覗き込んでくるので「は、走りすぎて疲れが一気に出ただけですよ。気にしないで下さい。」
と、苦笑いを浮かべながらごまかした。
それを見て周りの者たちも(おかしい)とは思いながらもそれ以上の追求はしなかった。
下手につついてまた錯乱状態に入ることを恐れたのだ。
(「フフフ♪まさかそんなに動揺するとは私も驚きだよ♪おっと♪そう、怖い顔をするものじゃない。また怪しまれちゃうよ?」)
睨みつけようとするビランを男は先手を取って黙らせる。
(「ま、戯れはこのぐらいで本題に入ろうか。私の目的・・・ いや、私が作られた目的は怪物級の兵士を作るためだ。」)
(「作られた目的?」)この言葉にビランは違和感を持った。
(「フフフ♪なにやら質問が思い浮かんだみたいだが先にざっと私自身のことを話してしまうよ♪質問はそれからだ♪」)
私は今から約400年前。教王時代の始まりとほぼ同時期に作られた。
創造主の名はファクトリア=バァッセ=アインリッヒ。
『科学の魔女』と呼ばれたために通称ファクトリア=メイジと呼ばれていた。
個人武装兵器の第一人者にして後に『悪魔の三賢者』の一人として有名になっている。
私はその中で製造ナンバー1021ロット目に作られた究極の三大個人武装兵器。
通称 トライ『三種の神器』の一つ、固体名 ファントム『怪物』だ。
もっとも、余りに強大すぎる力と機能から使いこなせたものはいない。
そのため、使いこなすことができそうな人間を探すためにさまざまな場所に運ばれ使用できるものを探したが・・・
その力を欲した権力者、ならず者に狙われるなどして小さな戦乱が起きた。
この時、一部の者たちによって監獄の迷宮に封印される。
・・・が、戦乱時にこの一部の者たちが全滅してしまいどこにあるのかがわからなくなってしまう。
戦乱後、方々尽くして探したのだが・・・
結局、見つけることができず今に至る。
(「というわけなのだよ♪ わかったかな?」)
タキシードの男はにっこりと微笑みながら自分の成り立ちと現在にいたるまでの説明を終える。
(「な・・・ この男があのファントムだって・・・!?」)
それは衝撃的な事実だった。
教王時代から兵器は強力な力を持ち、その製造と管理は国が一括で行っている。
教王による統治後も兵器の製造・開発は続いているわけだが、未だに『悪魔の三賢者』が作った兵器を超えるものは製造されていない。
それゆえに、『悪魔の三賢者』が製造したものは歴史的な価値と強大な性能を秘めていた。
特に三賢者のそれぞれが自身の究極系とした兵器
『破壊の太陽神』マッド=ラーの広域大量破壊兵器『ゼロ』
『魔界の月母』サディスティック=ムーンの生物兵器『ツイン』
『科学の魔女』ファクトリア=メイジの個人武装兵器『トライ』
の三種はそれぞれが一軍に匹敵するといわれている。
(「すごい・・・ そんなすごい兵器ならここに攻めてきた奴ら程度ならすぐに倒せるじゃないか!」)
ビランは尊敬と期待の眼差しで男を見る。
男は上から見下ろすようにビランを見て口元だけニッと笑う。
その表情を見てさらに期待を膨らませるビラン。
(「無理♪」)
男はニッコリと口元に笑みを浮かべたまま、両手を胸の前で交差させ×印を作り言い放った。
(ええ・・・??)
その言葉にビランの頭の中は?(はてな)マークで埋め尽くされる。
それを察した男はすぐさま今現在の自分の状況を告白した。
(「いっただろう? 私の力は強力すぎて使用できるものがいなかったと。そのため今、私にはいくつかのリミッターがついている。今現在、私のできる機能は限定されている。だが、私の機能の一つに『使用者の感情を食らう』というものがある。本来こんな機能は役に立たないが・・・ 今の君とは非常に相性がいい♪」)
男の口元だけがニッコリと笑う。
(・・・どういうこと?)
その言葉の真意を問うべくビランは男に尋ねた。
(「なぁ~に、簡単なことだよ。君の潜在能力は私が今まで見た人間の中で最高だ♪♪♪ しかし、君はそのあまりに高すぎるため潜在能力を開放すると感情が高ぶりすぎてバーサーカー状態になってしまう。だが、私が機能している間はすべての感情は私が食すことで暴走することなく君は戦うことができる。 つ・ま・り♪ 私なら君の潜在能力を安全に引き出すことができる。 その上に、君がもし・・・ 自分の力で感情をコントロールすることができるようになれば、私のリミッターは外れ、セカンドモードに移行することができる。どうだ?非常に悪くない状況だろう?」)
男は少年の顔を覗きこむように顔を近づけていつものように口元だけで微笑んだ。
その瞳は子供のように純粋で一切の濁りが無かった。
(・・・)
その言葉を聴きビランは両足を抱えて顔を下に向けうずくまり考えをめぐらせる。
今現在の状況とファントムの能力、自分自身の力。そして、過去に起こしてしまった過ち・・・
ほんの数秒間の逡巡だったが彼はまるで走馬灯を見るように膨大な事柄を考えた。
ただ、その思考の先にある結果は考える前からもう決まっていた。
できうることなら、その結果を変えたかったため別の案を考える
しかし、別の案の結末を思考し、その果てにたどり着いた結果は、すべて「殲滅」だった。
(ここには僕だけじゃない・・・ 王国を守る騎士達も・・・ こんな僕にやさしくしてくれたカルキオもいる・・・ 何よりも姉の親友であり王国の姫であるレイチェル様もいる・・・ いつまでも逃げているわけには行かない!)
それ故に、ビランが思考の果てにたどり着いたのは・・・
いや、思考の果てに決めたのは「覚悟」だった。
やがて彼は顔を上げて男に問う。
(「本当に・・・ 僕の感情をすべて食らい、暴走を抑制できるのか?」)
真剣な眼差しで見つめるビランに男は口元の笑みを消し応える。
(「ああ、それは問題ない。君の過去を読み取ったことから感情の暴走であることは間違いないし、私ならばどれほど膨大な感情であろうと必ずすべてくらい尽くすことが可能だ。」)
真剣なまなざしを向ける少年に対し男もまた、それに応えるために真剣に応える。
(「わかった。ファントム。君を使う。だから、僕に力を貸してくれ!」)
その言葉を言うと同時にビランは立ち上がった。
その姿を見て男は左足を一歩引き、左腕を自身の背中に回して肘を曲げ腰元に置く。
右腕は肘を曲げて胸の高さまで持ってきて一礼する。
その姿はまるで執事が主に一礼をするようだった。
礼をしたそのすぐ後、タキシードの男の全身がまるで周囲にどうかして消えていくかの様にその姿が見えなくなった。
(「もちろんですとも、我が主よ」)
そう言葉を残して・・・
その言葉を聞いた直後だった。
僕の頭から焦りや恐怖、絶望といった感情はすべて消え失せた。
まるで、頭の中が真っ白になったかの様な錯覚に襲われながらも自身のうちにある力をはっきりと感じ取った。
もうその力を使うことへの恐怖は無く、不安も湧き上がる事はなかった。
力を使うことへの心配事がなくなったビランは、次に現在の状況把握のために感覚を研ぎ澄まし周囲の音、気配に意識を向ける。
まず、この小部屋の中・・・
部屋の出口付近では護衛の騎士達とカルキオ、レイチェル様がこれからの方針と作戦を話し合っているようだ。
作戦はビラン抜きで考えているらしい・・・
まぁ、その方がこちらとしても都合がいいので放っておこう・・・
次は施設全体に意識を向ける現在の施設内の状況を確認するためだ。
ファントムからの情報によればここは監獄のだいたい中央付近にあるらしい。
ビランはできうる限り広範囲を探れるように集中とわずかではあるが外側の施設内から「気」を感じることができた。
どうやら、まだ内部で戦闘行為が行われているようだ。
ここにくる途中、散らばった護衛の騎士たちが逃げ回りながらもうまくやっているようだ。
しかし、彼らも体力、気力的にほぼ限界に来ているようだ。
うまく逃げ回れても、もってあと一時間・・・
早ければ十数分だろう。
できれば、救出したい・・・
だがその前にやらなければならないことがある。
まず、この隠し通路からの脱出だ。
どうやら、ここに来るまでの通路を敵がすでに発見したいたようだ。
人数は5人・・・
その内、三人は出口で待機して二人が通路の中にすでに探索に来ているようだ。
その更に後方から新手も近づいている。
(急がなくては・・・ この狭い室内や通路では袋のネズミだ。)
ビランは現状の把握を終えると、円陣を組んで話し合っているレイチェル一行の間をすり抜けるように早歩きで通り過ぎた。
その速さは早歩きであるはずなのに、暗がりの中だったからなのか彼らの目にはまるで目に見えない何かの影が通り過ぎるかのようだった。
「なんだ! いまのは?!」
通り過ぎていった影の正体がわからなかった騎士の一人が声を上げる。
その声に反応して影の正体を確認するために出口の方向を見た一行だったが・・・
その影は出口から細い通路に出た瞬間に走り出し、通路の角を曲がってその姿を消してしまった。
「おい、今の見えたか?」
「いや、早すぎて見えなかった。」
結局、正体不明の影が何だったのかわからなかった騎士達は、その存在に恐怖し背中で冷や汗をかいて動揺した。
しかし、その正体はカルキオの一言ではっきりとわかった。
「ビランがいない・・・」
小さくつぶやくように放たれた一言ではなったが、彼らの耳にはしっかりと響いた。
その言葉を聴き騎士達もレイチェルも周囲を見渡すがそこには誰の姿も無かった。
「何を血迷っているのだ! あの役立たずわ!」
ジンカの叫びと共に騎士達が騒ぎ始める。
ここに来てまた錯乱したのか、ただ単にここから逃げようとしただけなのか騎士達が思考しその考えが言葉に出て話し合われるよりも前にレイチェルは飛び出した。
しかし、そのレイチェルよりも前にカルキオが通路に走り出していた。
(ビラン・・・ いったいどうしたのですか?!)
(あんなに早く走るって・・・ 今までに見たことないぞ・・・ まさかとは思うが・・・)
レイチェルはビランの身を案じて飛び出し、カルキオはビランの真価を見定めるためにあとを追った。
その後を護衛の騎士達が話し合う暇も無く追いかける。