プロローグ
教王暦415年の晩春
暖かな日差しが熱く照りつける日差しに代わる時期。
取り壊しの決まった廃監獄で事件は起きた。
この事件さえ起こらなければ、取り壊しの部隊が来るまで浮浪者や野盗が住みつかないように見張るだけの簡単な任務のはずだった。
その任務も数日中には終わりを迎えて、僕は兵士をやめてのんびりと百姓にでもなるつもりでいた。
しかし、その儚い夢はやつらの出現により崩れ去った。
やつらは赤い甲冑を身にまとい統率された動きで警備の兵をいとも容易く屠って行く。
もともと重要拠点でなかったため兵の数は少なく実力も低かったのだが、奴らの猛攻に仲間の兵士たちは一矢報いることすらできずに次々に散っていった。
僕はそんな仲間たちに背に必死に逃げだした。今日は国の姫様とたまたま一緒だったけれども、みっともなく背を向けて一目散に逃げ出した。もっともすでに敵に囲まれてしまっていて逃げ場などどこにもなかったけれど・・・
ただ、なぜか僕は敵に遭うこともない上に誰も知らない隠し通路をひた走っていた。
後ろから追いかけてくる友人と姫様はきっと不思議そうな顔をしながらついてきているのだろう。
さっきから後ろの二人が何か言っているような気がするが・・・
そのときの僕は後ろを振り返る勇気もなく、ただ前に走り続けた。
一刻も早くその場から逃げ出すために・・・
しかし、迷路のような通路の先は行き止まりだった。
目の前に現れた硬いレンガの壁に愕然として僕は膝をついた。そのときだった、僕の前に真っ黒なタキシードに身を包んだあいつが現れたのは・・・
「待っていたよ♪ 運命の君♪ 私は君を待っていた♪」
タキシード男はにっこりと笑いながらそう告げた。
男の顔は笑っていたが、その瞳は笑ってはいなかった。