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僕たちの正義へようこそ  作者: 末広 有夏
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喋るサボテンなのです

 青山が帰ってから、購買に行ってみる。とにかく上着とエンブレム、それに夕食の用意もしなければ。購買は幾つかの窓口があり、夕方のせいか少し人が並んでいた。

「あっ、遥〜!」

二ノ宮が手招きをしている。近づくと、二ノ宮は列を抜けて私と一緒に最後尾に並んでくれた。

「すみません、サクラさん」

「良いの良いの。購買は初めてよね?」

「はい。取りあえずメンバーズカードをもらったので来てみました。制服を用意しないといけませんし」

「偉い!アタシ初日に制服忘れて嗣彦さんに苦笑いされてさ〜、瑞希君がね〜、」

列が進んでいく。この話、最後まで聞いている暇は無さそうだ。

「あっ、買い方を教えないとね。っていってもすっごく簡単なんだけど。用紙に名前、メンバーズカードの団員番号、希望商品を書いてメンバーズカードと一緒に提出すれば、持ってきてくれるの。」

「本当に簡単なんですね。」

「青山さんがね、『人にに何かをさせる時は、なるべく単純に指示するべきだ』って言ってたのよ。確かに、用紙を何枚も書いたり沢山のものを提示したりって、大変だからやらなくなるわよね。あっ、アタシの番だ。お先に〜」

こんな光景をニュースか何かで見たような気がするけれど、何だったか思い出せない。……私の番だ。

「この用紙に、お名前、番号、ご希望のお品を書いてあちらの窓口に提出してください」

「あの……上着の種類とかって、」

「あちらにサイズ表がありますので、参考になさってください」

ロボットのような笑顔の女性から用紙を受け取り、他の人に倣って備え付けのボールペンで名前と番号を記入する。女性が指した方には、確かにサイズ表があった。


『レディース(半袖は取扱いがございません)


サイズ:S、M、L(その他ご相談ください)


丈:ボレロ、ショート、ミドル、ロング、スーパーロング(その他ご相談ください)』


 取りあえずMのミドルあたりが無難だろうか。上着レディースMミドルとエンブレム、食料品を幾つか書いて窓口にメンバーズカードと一緒に提出すると、10分程度で段ボールと注文書控えを渡された。

 部屋に戻り、上着を試着してみる。色は鮮やかなブルーで、生地は結構しっかりしている。丈は普通のジャケットと同じく腰までで、サイズはぴったりだ。胸元にはエンブレムと同じ柄がプリントされているが、そのせいか更に分厚くなっている。これからの季節は暑いから、暫くはエンブレムを着けておこう。

 夕食はレトルトのカレーで済ませ、風呂や歯磨きを終えて布団に……いや、今日からはベッドだった。慣れない所で過ごしたせいなのか、猛烈な疲労感に襲われて横になる。ところが、中々眠れない。目を開けると部屋で何かが動いている気がするし、相当疲れているようだ。飲み物でも取って来ようかな。

 ……やっぱり、キッチンの方で何か動いている。

 その辺にあった電気スタンドを掴んで、恐る恐るキッチンを覗いてみる。

『あれ?遥チャン、もう起きるの?』

今、名前を呼ばれたような。

『遥チャン?』

電気スタンドを構えながら、ゆっくり近づいてみる。キッチンの中央に、何の動物か分からない縫いぐるみが一つ。歩いているが、特に危険な感じはしない。

『遥チャン、怖がらないで』

「……誰、」

『大丈夫、僕は怖くないのです』

「だから、誰なんですか」

『僕はこの部屋のキャラクターカウンセラーなのです。』

「キャラクターカウンセラー?」

『そうなのです。キャラクターカウンセラーは、皆さんの心の支え、言わば喋るサボテンなのです。システムエラーでご挨拶が遅れて申し訳ありません』

「けど、青山さんもサクラさんもそんなこと、」

『キャラクターカウンセラーの存在は他の人には秘密なのです。だって、「私は家でサボテンと話しています」と他人に言いたがる人はいないでしょ?大丈夫、キャラクターカウンセラーは秘密は絶対守るのです。』

電気スタンドを片づけて、部屋の明かりを点ける。どう見てもただの縫いぐるみだ。

「名前は?」

『遥チャンが付けて良いのです。だって僕は、遥チャンの喋るサボテンなのです』

急に言われても、名前なんか出てこない。そもそも、まだ夢だという可能性も捨てきれない。

『慌てなくて良いのです。だって僕は遥チャンの喋るサボテンなのです』

「喋るサボテンはよく分かりました。……キャラクターカウンセラーって具体的には、」

『グチとか文句とか軽い暴力とか、人にぶつけられないことは何でも僕にぶつけて良いのです。それと、僕には目覚まし機能が付いているのです。朝はお任せなのです』

危険は無さそうだ。飲み物を取って座ると、縫いぐるみは机の上に座った。円らな瞳がこちらを真っ直ぐ見つめている。犬にしては長く、兎にしては短い、そして猫より丸く熊より尖った耳。色も曖昧な茶色で、爪らしき刺繍があるが髭と肉球は無いようだ。三角の鼻からはありきたりな本を伏せた形の口が続いていて、発声とは関係無く開いたり閉じたりしている。

「じゃあ、頼んだら起こしてくれるんですか」

『勿論なのです。明日は何時に起きますか?』

「6時半くらいかな」

『お任せなのです。もう遅いから、飲み終わったら早く寝るのです』

言われた通り、早めにベッドに戻った。目覚めたら、このおかしな縫いぐるみも消えているだろうか。目覚ましはかけたままにしておこう。


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